隣の八重ちゃん 1934年(昭和9年) 邦画名作選 |
八重子(逢初夢子)の家と恵太郎(大日方伝)の家は隣り同士。
ある晩遅く帰った恵太郎は、家で締め出しを喰い、八重子の家に泊めてもらった。
それがきっかけで、八重子と恵太郎は、急速に親しさを増す。
ある日、八重子の姉・京子(岡田嘉子)が婚家から出戻って来た。
それに同情した恵太郎は、京子とも仲良くなる。
京子は、若い恵太郎に誘惑的な態度を示すが、彼は辛くもその誘いに堪える。
ある日、八重子の父が転勤となり、二人は別れなければならなくなる。
八重子はしかし、学校を卒業するまで、恵太郎の家に厄介になることになった。
隣の八重ちゃんは、今度は晴れて恵太郎の家の人として暮らせるようになる。
そう思うと、急に嬉しくなり、明るい笑い声がもれるのだった。
戦前は、恋愛はご法度だった。結婚相手は親が決めるもので、男女が二人きりで会うと
変な噂を立てられ、縁談に影響する、などと言われた。
個人の自由を抜きにしては、恋愛は成り立たない訳だが、当時の軍国主義の日本では、
個人の自由などと口にすると、すぐさま危険思想として弾圧されたのである。
映画にしても、たとえば男女がいちゃつくような恋愛ドラマを作ろうものなら、
「思想が軟弱でけしからん」と、検閲で大幅にカットされてしまうのだった。
そこで島津保次郎は、恋愛抜きで、男女がいちゃつく映画をわざわざ作ったのである。
映画では、女学生・八重ちゃんと、隣に住む大学生・恵太郎との、兄妹みたいに
気のおけない日常生活のあれこれが、実に面白く、微笑ましく描かれている。
ヒロインの八重ちゃんは可愛く、魅力的なキャラクターに描かれている。
映画の中では、セーラー服姿もあれば着替えのシーンも登場する。
多感な少女の感情演出には、島津監督ならではの新鮮さがあり、八重ちゃんを演じた
松竹歌劇出身の逢初夢子は、この一本で一躍大スターになった。
製作 松竹
監督 島津保次郎
配役 | 父・服部昌作 | 岩田祐吉 | 父・新井幾造 | 水島亮太郎 | |||||||||
母・浜子 | 飯田蝶子 | 母・松子 | 葛城文子 | ||||||||||
姉・京子 | 岡田嘉子 | 長男・恵太郎 | 大日方伝 | ||||||||||
妹・八重子 | 逢初夢子 | 次男・精二 | 磯野秋雄 | ||||||||||
真鍋悦子 | 高杉早苗 |