男はつらいよ 寅次郎忘れな草 1973年 (昭和48年) 邦画名作選
初夏の北海道は網走市。ドサ廻りの歌手リリー(浅丘ルリ子)と知り合った寅次郎は、
リリーのあまりにも自分と似たような境遇に心ひかれる。
寅次郎は、淋しそうな彼女に同情し、心から慰めてやるのだった。
その気持ちは、いつしか恋心に変わってゆくのだったが…。
シリーズ第十一作目。北海道の夜汽車の中で泣いていた放浪の歌手リリーと
流浪の寅の出会いが、しみじみとした心の触れ合いを見せる佳篇。
柴又へ戻った寅次郎のもとに、リリーが訪ねて来て再会を喜び合う。
どうやら、リリーは寅次郎に惚れてしまったらしい。
うっかり乗せられて今までの失恋相手の名前を次々に口にする寅次郎に、
嫉妬まがいの目を向けるリリー。
「あんたみたいな美人なら、惚れる男はいっぱいいるだろう」おいちゃんが話を向ける。
「惚れられたいんじゃないの、惚れたいの。心から惚れた男なんて一度もなかった。
一生に一度でいい、ひとりの男に惚れて惚れ抜いてみたいわ」と、真顔で言うリリー。
それはまるで寅次郎への愛の告白のようだった。
寅次郎なら自分をさらけ出して愛しても、それを受けとめてくれると直感したのかも知れない。
「私の初恋の人、寅さんじゃないかしら」とつぶやくリリー。
「リリーさん、そりゃ悪いジョーダンだよ」
シャイな寅次郎は、話題をそらせて、話を打ち切ろうとする。
女を愛しながら、踏み切れない男と、男を愛しながら、言い出せない女。
似た者同士の境遇だが、二人は永遠に結ばれない関係にあると、宿命づけられているかのようだ。
制作 松竹
監督 山田洋次