心はいつもラムネ色   1984年(昭和59年)       ドラマ傑作選

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文平(新藤栄作)は、大阪の下町、通天閣が見えるたばこ屋の一人息子。

その文平の家に友人の良輔(美木良介)が旅支度を整えてやって来た。


帝大へ合格した二人は、これから列車で東京へ行くのだ。

が、文平の母のぶ(野川由美子)には寝耳に水の話だった。


引き留めようとするのぶに、文平は「キリンを探しに行くんや」と言った。

キリンとは、一生かけて追う夢のことである。





文平と良輔は、東京へ漫才師たちを売り込みに行く興行師・ゆきの(真野あずさ)一行と乗り合わせた。

良輔は目ざとく、美人の彼女に注目する。


転げて来たおにぎりを拾ってあげた文平は、米子なまりの娘・賀津(藤谷美和子)と知り合う。



漫才作家・秋田実をヒントに、笑いを追求した男の生涯を軸に、昭和の時代と笑いの変遷を描く。


昭和三年の春、主人公の文平が友人の良輔と帝大に合格して上京するところから物語は始まる。


主役二人を演じた新藤栄作と美木良介の両新人の演技は、ややぎこちないが、それを補って

余りあるのが、文平の両親役の中村嘉葎雄と野川由美子の味のある演技。


第一回目からしばらくは、ベテラン陣がドラマを引っ張っていく形になっている。


東京に向かう同じ列車に乗り合わせた二人の女性がいた。

一人は、文平たちの下宿先へ奉公する16歳の娘・賀津。


もう一人は、大阪に寄席を持つ美人興行師・ゆきのである。

この二人の女性は、やがて文平や良輔の人生に大きく関わることになる。



(制作)NHK大阪(脚本)冨川元文

(配役)赤津文平(新藤栄作)赤津正次郎(中村嘉葎雄)赤津のぶ(野川由美子)中山賀津(藤谷美和子

国分良輔(美木良介)福本ゆきの(真野あずさ)お礒(京唄子)お春(木内みどり)語り(ミヤコ蝶々)


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小説 心はいつもラムネ色 (原作:冨川元文  脚色:内館牧子)


上京の章


僕は、どういう動機で漫才という仕事を始めたのかと、よく人に聞かれることがあります。


そのたびに僕はいつも、知らぬ間に漫才作者になっていた、気がついたらもう足を抜けないくらい

に漫才の世界に深入りしていたんです、と答えます。つまり、僕自身、もとより漫才作者になるつも

りではありませんでした。



しかし、今となって考えてみると…この道に進むことは子供のころから決まっていたのかもしれ

ません。


いつどんなところだったかは忘れたのですが、僕はまだ小さい子供のころ、人間はおかしくて笑い

すぎた時も涙が出るものだと知りました。その時僕は、子供心に、悲しくて出る涙より、おかしくて

出る涙に、とても熱いものを感じたのを覚えています。

人の笑い顔は、どんな時でも心を柔らげ、心を素直にしてくれますし、敵味方の区別をなくしてく

れるような気がしたのです。

僕は小さな時から、人の笑い顔がとても好きだったのです。



「いくら何でもひどいやないか。今日いきなり東京へ行くなんて言われても……。わてかて心の備え

ちゅうもんがいります」

僕、赤津文平が親友の国分良輔と東京帝大に合格し、出発する朝の母の剣幕は大変なものでした。
            
一と言も親に相談せずに決め、みな事後承諾だったことが、ひどく気に障ったようです。

父には話してあったのですが、父は母が反対することを考えて、ずっと内緒にしていたらしいのです。

僕は明治三十九年、大阪は通天閣の見える下町の煙草屋に生まれました。一人息子ですから本当は

寂しくて怒っている母の気持はよくわかります。痛いくらいです。

しかし、僕は何としても東京に行かなくてはならないのです。

                  
「お母ちゃん、僕は東京に麒麟を探しにいくんや!」

「麒麟?」

「そうや、もう二十歳やからな、そろそろ麒麟を見つけなあかんのや」

「それやったら天王寺の動物園にかて、いてるやろ」


 母の言うことはもっともです。でも、動物園にいるあのまだらな首長の動物とは違います。麒麟と

いうのは、もともと中国の幻の動物です。「夢」です。「麒麟を探しにいく」というのは、「自分の歩む

道を探しにいくこと」なのです。


ともかく、大騒ぎの中、僕と国分の夢を乗せた列車は大阪を離れました。国分は「小説家になるこ

と、そして西鶴の研究をすること」というハッキリした麒麟をもうもっています。僕も必ず東京で見

つけるぞと胸が高鳴りました。


東京のことは何も知りません。知らないということは夢が大きくなるものなのです。

この列車の旅、大阪〜東京は十四時間もかかるのですが、車内で次々に事件が起きて、あきるどこ

ろではありませんでした。あとになって思うと、僕はこの列車の中で、今後の人生に大きくかかわる

人々に何人も会っていたのです。



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