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【第十三課 第四節】
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「还珠格格」 (四) 琼瑶
紫薇伸头一看,原来小燕子也在人群中看热闹。
两人眼光接个正着。小燕子愣了一下,认出她们两个了,不禁冲着她俩咧嘴一笑,紫薇答以一笑。小燕子便掉头看场中卖艺的两人。
此时,两人的卖艺告一段落,两人收了势,双双站住。男的就对着围观的群众,团团一揖,用山东口音,对大家说道:
“在下姓柳名青,山东人氏,这是我妹子柳红。
我兄妹两随父经商来到贵宝地,不料本钱全部赔光,家父又一病不起,至今没钱安葬,因此斗胆献丑,
希望各位老爷少爷、姑娘大婶,发发慈悲,赐家父薄棺一具,
以及我兄妹回乡的路费,大恩大德,我兄妹来生做牛做马报答各位。”
那个名叫柳红的姑娘,就眼眶里蓄满了泪水,捧着一只钱钵向围观的群众走去。
群众看热闹看得非常踊跃,到了捐钱的时候,就完全不同了,有的把手藏在衣袖里不理,有的干脆掉头就走。只有少数人肯掏出钱来。
“他们是山东人,跟咱们是同乡呀! ”紫薇转头看金琐,激动的开了口。
金琐对紫薇摇摇头,按住紫薇要掏钱包的手。
这时,小燕子忽然跃入场中,拿起一面锣,敲得“眶眶”的好大声。一面敲着,一面对群众朗声的喊着:
“大家看这里,听我说句话! 俗话说得好,在家靠父母,出外靠朋友! 各位北京城的父老兄弟姐妹大爷大娘们,咱们都是中国人,
能看着这位山东老乡连埋葬老父、回乡的路费都筹不出来吗?
俗语说,天有什么雨什么风的,人家出门在外,碰到这么可怜的情况,我看不过去,你们大家看得过去吗?
我小燕子没有钱,家里穷得答答滴,可是……有多少,我就捐多少! 各位要是刚才看得不过瘾,我小燕子也来献丑一段,
希望大家有钱出钱,有力出力,务必让这山东老乡早日成行!
柳大哥,咱们比画比画,请大家批评指教,多多捐钱啊! 请! ”
小燕子掏呀掏的,从口袋里掏出几个铜板来,丢进柳红的钵里,朝柳青抱拳一揖,然后就闪电一般的对柳青一拳打去。
柳青慌忙应战,两人拳来脚往,打得比柳红还好看。
小燕子的武功,显然不如柳青,可是,柳青大概是太感动了,不敢伤到小燕子,难免就顾此失彼。
小燕子有意讨好观众,一忽而摘了柳青的帽于,一忽而又把帽子戴到自己头上,
一忽而又去扯柳青的腰带,拉柳青的衣领,像个淘气的孩子。弄得柳青手忙脚乱,应接不暇。
围观的群众,不禁哈哈大笑。
柳红趁此机会,捧着钱钵向众人走去。
紫薇再也忍不住了,伸手掏钱。金琐急忙提醒她:
“我们剩的那些钱,已经快不够付房钱了……。”
“看在都是山东人的分上,也不能不帮呀! 何况,连小燕子都慷慨解囊了! 我怎么能袖手旁观呢?
“喏,这个给你! 姑娘,我诚心祝福你们兄妹能够早日回乡。”
紫薇有些激动的说,已经掏出一小锭银子放入钵中。
柳红看到紫薇出手就是银锭子,不禁一怔,有些不安的看看紫薇,弯腰道谢,便匆匆向前继续募捐。
经过小燕子的起哄,紫薇的慷慨,群众也都感动了,纷纷解囊,钱钵里渐渐装满。
紫薇似金琐浑然不知,自己的出手,和背上的包袱已经引起歹徒的注意。
有个大汉,一声不响的蹭到两人身后,轻悄、熟练的抽出匕首来,割断紫薇背上包袱的两端,拿着包袱,转身就跑。
小燕了和柳青的表演赛正在高潮,小燕子要偷袭柳青,不料却被柳青揪住裤腰,单手举在半空中,小燕子吓得哇哇大叫:
“好汉饶命,我下次不敢了! 救命啊!”
众人哈哈大笑。
小燕子在半空中,忽然看见歹徒偷了紫薇的包袱,正要溜走。不禁放声大喊:
“那儿来的小偷! 别走! 你给我站住! ”
小燕子这样一喊,歹徒拔腿就跑,柳青大吼一声,用力把小燕子向外一掷,小燕子如纸鹞般飞过众人的头顶,落下地,就向歹徒追去。
紫薇这才惊觉,伸手一摸,包袱已经不翼而飞,吓得魂飞魄散。
“天啊! 我的包袱! ”
“快大追啊! ”金琐喊着,拉着紫薇,没命的奔向歹徒的方向。”
柳青和柳红两兄妹,也顾不得卖艺了,两人脚不沾尘的,也追向小燕子。
紫薇和金琐,跌跌冲冲的跑了好半天,这才看到,在一条巷子里,小燕子、柳青、柳红三个围住了歹徒,正打得天翻地覆。
小燕子一面打,一面痛骂不已。
“在我面前卖功夫,你简直瞎了眼! 还不给我把包袱放下!”
柳青也破口大骂:“大胆毛贼,居然敢对我们的客人动手! 看掌! ”
歹徒那里是这三人的对手,被打得七零八落。
几下子,就被小燕子抓住了衣领。
“你要偷要抢,也要看看对象,人家也是出门在外的人,你偷了别人的盘缠,教人怎么回家?简直是个下三滥!”
歹徒知道今天栽了,愤愤不平的大嚷:“大家都是走江湖,怎么你们可以用骗的,我不可以用偷的?”
“你还有得说?我们是让人家心甘情原拿出来,你算什么?”小燕子大喊。
“还不把东西交出来?想送命吗?”柳青一拳打过去。
“不给你点厉害的瞧瞧,你不服气,是不是?” 柳红又一拳打过去。
歹徒知道没戏可唱了,大吼一声,抛出手中包袱,乘机飞逃而去。
紫薇看着包袱画过空中,不禁狂奔过去接包袱。
紫薇尚未接到包袱,小燕子已飞掠过去,稳稳的托住包袱,笑嘻嘻的一站。
“姑娘! 谢谢你,为我追回了包袱,如果这些东西丢了,我就活不成了! ”紫薇喘着气,气极败坏的说。
“这么严重?里面有多少金银珠宝呀?
你赶快看看,有没有被掉包啊?”小燕子挑着眉毛说。
一句话提醒了紫薇和金琐两个,立刻紧紧张张的拆开包袱,小燕子好奇的伸头一看,
只见包袱里还有包袱,层层包裹;紫薇一层层解开,里面,赫然是一把折扇和一个画卷。
紫薇见东西好好的,不禁长长的松了一口气,把字画紧贴在胸口抱了抱。眼眶都湿了。
“谢天谢地! 东西都在! ”
小燕子睁大了眼睛。“搞了半大,你这里面没有金银财宝,只有破字画,早知道就不帮你追了! 费了我们那么大的劲儿!”
“你不知道,这些可是我们小姐的命,此任何金银财宝都重要!” 金琐慌忙解释。
“谢谢你们捐了那么多银子,不好意思! 现在,帮你们迫回字画,算是回敬吧!” 柳红对紫薇笑了笑。
“好了,东西找回来,就没事啦。小燕子,咱们还去‘卖艺葬父’呢? 还是今天就收工了?” 柳青问小燕子。
紫薇这才惊觉,原来三人是一伙的,愕然的看着三人。
“原来……你们不是卖艺葬父,是在演戏?”
小燕子嘻嘻一笑,满不在乎的说:
“演得不坏吧?我的武功虽然不怎么样,我的演技可是一流的!”
紫薇啼笑皆非。
小燕子看看紫薇主仆,见两人文文弱弱,一副很好欺负的样子,不知怎的,就对两个人有点不放心。
她那爱管闲一的个性,和生来的热情就一起发作了,摔了摔头,她豪气的说:
“你们住哪里?我闲着也是闲着,送你们一程!”
就转头对柳青柳红挥挥手:“今大不用干活了,大杂院见!”
当小燕子走进紫薇客栈的房间,忍不往就惊叫:
“哇! 住这么讲究的房间,你们一定是有钱人! ”
“什么有钱人,已经快要山穷水尽了。” 紫薇叹口气,抬头看着小燕子:“姑娘,再谢你一次! ”
“别姑娘姑娘的乱叫,叫我小燕子就成了。上回你们帮过我,咱们一报还一报,算是扯平了。我走了! ”转身就要走。
“等…一下! ”紫薇喊着,诚挚的看着小燕子,柔声的说:“为什么要骗人呢?赚这种钱,你不会问心有愧吗?”
“问心有愧?为什么要问心有愧?
我又演戏给大家看,又表演武术给大家看,还耍宝给大家看,今天还奉送了一场‘捉贼记”,这么精彩,值得大家付费欣赏吧!”
紫薇见小燕子振振有词,不禁失笑。
“我从没见过你这样的人,骗了别人,好像还狠心安理得的样子!
我觉得,你利用大家的同情心,骗取钱财,多少有点不够光明,我看你和那柳家兄妹;年纪轻轻,
又有一身好功夫,为什么不做一点正经八百的事?”
“哈! 你算什么女学究,动不动就训人?我们靠本事赚钱,有什么不对?
“骗人就不对。”
“那你们主仆两个,一天到晚穿着男装到处晃,不是在骗人吗?”
紫薇一怔,竟答不出话来。
“活在这个世界上,想要不骗人,实在是不太容易的事!
你想想看,你从小到大,没撒过谎吗?不可能的!
我们本来就生在一个人骗入的世界里!
我知道你是读过书的大家小姐,可别被那些大道理,弄成一个书呆子!
如果你不会骗人,你就会破别人骗! 骗人和被骗比起来,还是骗人比较好! 嘻嘻!”
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【注 釈】
【乾隆】 qián lóng 乾隆帝 (けんりゅうてい)
清朝第6代皇帝 (在位1735~1795) 大いに学術を奨励し、清王朝の最盛期を創出した。
【紫薇】 zǐ wēi 夏紫薇 (か しび)
19年前にお忍びで済南地方を訪れた若き乾隆帝と夏雨荷 (か うか) の間に生まれた姫君。
【金锁】 jīn suǒ 金鎖 (きんさ)
幼少の頃より紫薇に仕えている侍女で、北京へも共に出て来た。
【小燕子】 xiǎo yàn zi 小燕子 (しょうえんし)
もと女盗賊。ある事件をきっかけに皇帝の落とし子と勘違いされ、宮廷に姫と迎えられる。
【柳青】 liǔ qīng 柳青(りゅうせい)北京に住む、武芸を得意とする義侠心に富んだ兄妹の兄。
小燕子と同じ長屋に住み、共に大道芸を演じている。
【柳紅】 liǔ hóng 柳紅(りゅうこう)北京に住む、武芸を得意とする義侠心に富んだ兄妹の妹。
小燕子と同じ長屋に住み、共に大道芸を演じている。
【薄棺一具】 bó guān yī jù 薄板の棺ひとつ。ささやかな葬儀。
【穷得答答滴】qióng de dá dá dī 金がなくてぴいぴいしている。ひどく貧乏だ。
【脚不沾尘】 jiǎo bù zhān chén (足に砂ほこりがつくひまもないほど)大急ぎで走る。
【卖功夫】mài gōng fu 腕前をひけらかす。(巧妙に悪事を働く)
【下三滥】 xià sān làn 人間のくず。げす野郎。ろくでなし。
【看掌】kàn zhǎng 平手打ちを喰らわす。
【算什么】 suàn shén me (算什么东西)何様のつもりだ。
ほざくな。ふざけんな。ナメた口利きやがって。
【气极败坏】 qì jí bài huài 息をせき切る。息を弾ませる。
【挑着眉毛】 tiāo zhe méi máo 眉を吊り上げる。とがめ立てするような表情。
【啼笑皆非】 tí xiào jiē fēi 泣くに泣けず笑うに笑えない。複雑な気持ちになる。
【爱管闲一】 ài guǎn xián yī お節介焼き。
【摔了摔头】 shuāi le shuāi tóu 意気揚々と。得意げに。
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【口語訳】
還珠姫 (四)
紫薇が視線を向けると、なるほど小燕子が人混みに混じって熱演を眺めている。
紫薇と目が合うと、小燕子は一瞬きょとんとしたが、二人を認めると、ふいと笑みが口の端に浮かんだ。
紫薇もまた笑みでもって応える。小燕子は再び演武を演じている二人に目を向けた。
ここで芸はひとまず一段落となり、演武の二人は、立ち止まって拱手の礼をした。
男のほうは、拱手したまま大勢の見物客を見回すと、山東なまりで語りだした。
「それがし姓は柳、名は青、山東の出身でございます。こちらは妹の柳紅です。
われら兄妹二人、父の商いに同行して当地へ参ったものの、元手は悉く使い果たしてしまいました。
父もまた病に倒れ、いまや葬式を出す金もなく、恥ずかしながら拙い芸を披露させていただく次第でございます。
どうか旦那様やお嬢さま方、お慈悲を賜り、父にはささやかな葬式費用を賜りますように。
そしてわれら兄妹には、里帰りの路銀をご用立てくださいますようお願い申し上げます。
その暁には、われら兄妹、来世は牛馬になり変わり、皆さまの恩義に報いさせていただきたく存じます。
柳紅という娘は、目に涙を浮かべると、手に銭鉢を捧げて見物客に向かって歩き出した。
客たちは、熱心に見ていたものの、寄付となると話は別で、袖に手を隠して見ぬ振りをしたり、さっさと立ち去ってしまう者もいた。
金を出してくれる者はきわめて少数だった。
「あの人たちは山東の人で、同郷の人ですよ」紫薇は金鎖を振り返って、興奮気味に口を開いた。
金鎖は紫薇に首を振って、財布を取り出そうとする彼女の手を押し止めた。
その時、小燕子が突然、人々の真ん中に飛び出すと、銅鑼を手に取り、打ち鳴らしながら、客に向かって大声で叫んだ。
「皆さん、ご注目あれ、ぜひ私の話を聞いてください! 家にあっては親が頼り、外にあっては友が頼り、という言葉もあります。
北京の旦那様やお嬢さま方、兄弟姉妹の皆さん、私たちは皆、同じ中国人です。
それなのに、父親を埋葬して故郷に帰るためのお金すら工面できない山東の友だちを、だまって見過ごすことができるでしょうか。
雨が降ろうと風が吹こうと、いったん外に出て、気の毒な人を見れば、どうして見捨てておけましょう。
この私はお金がなくて、家もひどく貧乏だけど……」小燕子はそう言うと、懐中から銅貨を何枚か取り出して、柳紅の鉢の中へ放り込んだ。
「あるだけ寄付します! 皆さんがもし、先ほど見た演技が物足りないと感じたのなら、私も恥を忍んで拙い芸を披露させていただきます。
どうか皆さん、お金のある者は金を出し、力のある者は力を出していただき、ぜひとも山東の友だちの願いを叶えてやってください。
柳さん、さあ、腕比べといきましょう! 皆さんにはぜひ、ご批判をいただくとともに、たくさんの寄付をお願いします。いざ!」
小燕子は柳青に向かって拱手一礼すると、稲妻のような一撃を打ち込んだ。
柳青は慌てて応戦し、両名は一進一退の応酬を繰り広げた。小燕子は柳紅以上の戦いぶりを見せている。
小燕の武術の腕前は明らかに柳青よりも劣っていたが、柳青は小燕を傷つけたくない気持ちがあり、どうしても後手後手に回った。
小燕子は観客を喜ばせようと柳青の帽子をひったくっては、それを自分の頭にかぶったりした。
さらに柳青の腰帯や襟をだしぬけに引っ張ったり、まるでいたずらっ子のようである。
これには柳青も大慌てで、それこそてんてこ舞いのありさまだった。
見物人たちは腹を抱えて笑っている。
柳紅はそれを見て、手にした銭鉢を持って群衆に向かって歩き出した。
紫薇は、たまりかねてお金に手を伸ばしたが、金鎖が慌てて念を押す。
「残っているお金では、部屋代がやっとですよ。」
「ここは同郷のよしみで、一肌脱がざるを得ないでしょう。ましてや小燕子まで気前よくお金を出してくれたのよ。
手をこまねいているわけにはいかないわ!」紫薇はやや興奮気味にそう言うと、数枚の銀貨を鉢の中に入れた。
「どうぞ、受け取ってくださいな! 娘さん、ご兄弟が一日も早く故郷に帰れることを祈っています。」
柳紅は、紫薇の出した銀貨を見て、思わず唖然として、不安そうな顔つきで紫微を見つめた。
が、すぐに腰をかがめてお礼を言い、再び寄付金集めに向かった。
小燕子の大奮闘と紫薇の気前の良さに、心を動かされた見物客は、次々と金を出し、鉢の中は次第にいっぱいになってきた。
だが紫薇と金鎖は気づかなかったが、紫薇が銀貨を寄付したことと、彼女の背中の風呂敷包みがごろつきの注意を引いてしまった。
一人の大男が、無言で二人の背後にすり寄ってきて、そつなく慣れた手つきで短刀を抜いた。
大男は、素早く紫薇の背中の風呂敷の両端を切り、包みを奪うと、そのまま踵を返して走り去った。
小燕子と柳青の試合は盛り上がっていた。
小燕子は柳青に不意打ちを喰らわそうとしたが、逆に柳青の片手で腰帯を掴まれ、そのまま宙に浮かされてしまった。
小燕子は驚いてギャーギャー叫びはじめる。「ごめんなさい、もう二度としないから、助けて!」
それを見た見物客たちは大声で笑いこける。
そのとき、空中にいる小燕子は、ごろつきが紫微の包みを盗んで逃げたことに気づいた。彼女は思わず大声で叫ぶ。
「泥棒よ! 早くつかまえて!」小燕が叫ぶと、ごろつきは大急ぎで駆け出す。
柳青が、力一杯えいやと小燕子を外へ投げつけると、彼女は紙ひこうきのように人々の頭上を飛び、地面に落下するや、ごろつきを追いかける。
はっと驚いた紫薇は、背中に手を伸ばして、風呂敷包みがなくなっていることに気づき肝をつぶした。
「まあ大変! 私の包みが!」
「早く追いかけましょう!」金鎖は叫ぶと、紫薇の手を引っ張り、急いでごろつきの逃げた方角へ走りはじめる。
柳青と柳紅の兄弟も、もはや芸どころではなく、大急ぎで小燕子の後を追った。
紫薇と金鎖は、あたふたと走り続けて、ようやく一本の路地で、小燕子、柳青、柳紅の三人を見つけた。
三人は、ちょうどごろつきを取り押さえて、叩きのめしているところだった。
小燕子がごろつきを殴りつけながら罵声を浴びせる。
「あたしの目の前で、盗っ人を働くなんて、いい度胸だ、さっさと包みをお返し!」
柳青もまた、罵声を浴びせた。
「このこそ泥め、よくもまあぬけぬけと私の客に手を出したものだ、これでもか!」
三人は寄ってたかって、ごろつきをボコボコに殴りつける。
さんざん殴ったあげく、小燕子がごろつきの胸ぐらをつかみあげた。
「よく相手を見て盗みを働けよ、あの人はよその土地から来たんだぞ。
お前があの人の路銀を盗んだら、家に帰れなくなるじゃないか、そうだろ? このげす野郎!」
ごろつきは、盗みをしくじったことが口惜しくてたまらず、悔し紛れに叫んだ。
「世渡りしてるのはお互い様だ、お前らだって人をだましてるだろ、俺が盗みを働いて何が悪い!」
「よくそんなことが言えるわね、あたしたちは人を納得させて金をもらってるんだよ。
ふざけたことをお言いでないよ!」小燕子が叫んで言う。
「まだ包みを出さないのか、殺されたいのか?」柳青が一発殴った。
「もっと痛い目にあわないと、きっと不服なんでしょう?」柳紅もまた一発殴った。
ごろつきは、もはやこれまでとばかり一声ほえると、風呂敷包みを放り上げ、その隙に乗じて逃げ出した。
包みが宙に舞うのを見た紫微は、思わず走り寄って受け止めようとした。
間髪を容れず、小燕子がぱっと飛びついたかと思うと、包みをしっかりと抱えて、にこにこしながら立っていた。
「お嬢さん! ありがとう、包みを取り返してくれて。これがないと私は生きていけないのです。」紫薇は息を弾ませて言った。
「そんなに大切なものなの? 中には金銀財宝がどれだけ入っているのかしら。
早く中を見てみたら? すり替えられていると困るでしょう?」小燕子は眉を吊り上げて言った。
はっとなった紫薇と金鎖は、不安げな面持ちで、急いで包みを開きはじめた。
小燕子が興味津々で覗き込むと、風呂敷の中には、さらに風呂敷があって、何重にもくるまれている。
紫薇が一枚一枚解いていくと、中から扇と書画があらわれた。
紫薇は思わず安堵のため息をつき、扇と書画を胸に抱きしめた。彼女の目は涙で濡れている。
「ああ神様! 全部揃っているわ!」
小燕子は目を見開いて言う。
「なあんだ、中に金銀財宝はなくて、破れた書画しかないのか!さんざん苦労したあげくにこれでは、ちょっとがっかりだな!」
「あなたはご存知ないと思いますが、これはお嬢さまの命です。どんなお宝よりも大切なものです。」金鎖が気忙しく説明する。
「たくさんのお金を寄付していただきましたが、これでなんとかお返しができたかも知れませんね。」柳紅は紫薇に笑いかけた。
「さあ、品物も戻ってきたことだし、小燕子、我々はまた「芸を売って父を葬る」を続けるかい?
それとも今日はこれで店じまいとしようか?」柳青が小燕子に尋ねる。
紫薇は、三人がグルであることに気がついて、呆然として彼らを見つめた。
「じゃあ、あなたたちは「芸を売って父を葬る」ではなくて、お芝居をしていたのね?」
小燕子は、にやっと笑い、悪びれた様子もなく言った。
「あたしの演技はなかなかのものでしょ? 武術はともかくお芝居には自信があるの。」
紫薇は複雑な笑みを浮かべた。
小燕子は、紫薇たち二人が、あまりにも弱々しく、人にだまされやすそうに見えたので、何となく不安になった。
持ち前のお節介焼きの性分と、鼻っ柱の強さが相まって、恩着せがましく一方的に申し出る。
「あなたたちどこに住んでるの? 私もどうせ暇だから、家まで送って行ってあげるわ!」
そして振り向きざまに柳青と劉紅に手を振って言った。「今日はもうお仕事はおしまい、大雑院でまた会いましょう!」
小燕子は、紫薇が泊っている宿の部屋に入ると、思わず叫び声を上げた。
「うわあ! こんな豪勢な部屋に住んでいるなんて、お金持ちなんだね!」
「とんでもない、もう宿代も払えなくなりそうなのよ。」紫薇はため息をつき、小燕子を見上げた。
「お嬢さん、改めてお礼を言うわ。」
「お嬢さんはやめて、小燕子でいいわ。でも前回助けてくれたので、これでおあいこになったね。
じゃあ今日はこのへんで、さようなら!」小燕子は踵を返して帰ろうとした。
「ちょっと待ってちょうだい!」紫薇は叫ぶと、小燕子を真摯に見つめ、なるべく穏やかに言った。
「あなたなぜ人を騙したりするの? こんなお金の稼ぎかたをして、良心の呵責というものがあるでしょう?」
「その良心の呵責とやらに耐えかねて なぜあたしが罪悪感を持たなければならないの?
あたしは、みんなに喜んでもらえるようにお芝居をしたり、格闘技をしたり、手品をしたりしているのよ。
そして今日のように、泥棒をこらしめたり、これらは、お金を払ってでも楽しむ価値は十分あるのでなくて?」
もっともらしくまくしたてる小燕子を見て、紫微は思わず吹き出しそうになった。
「私はあなたのように、人に嘘をついて、平気でいられるような人は見たことがありません!
人の同情心を利用して、お金を騙し取るなんて、いささか不明朗なやり方だと思うわ。
あの柳兄妹もまだお若いし、立派な武芸も身につけているのに、なぜまともに働こうとしないのかしら?」
「はあ!人に説教するなんて何様のつもり? あたしらが自分の腕で稼いで何が悪いというの?」
「人を騙して稼ぐのはよくないことだわ。」
「じゃあ、あなたがたは朝から晩まで男装して、あちこち出歩いてるでしょう? これって人を騙しているのではなくて?」
紫薇は唖然としてしまい、言葉につまってしまった。
「この世の中で、一切人を騙さずに生きるなんて、できっこないんだ!
たとえば、あなたは子供の頃から、一言も嘘をついたことがないと胸を張って言えるの? そんなはずないでしょう?
あたしたちは、人と人とが騙しあうのがあたりまえの世界に生まれてきたんだ!
あなたがたは才媛才女かも知れないけど、通り一遍の理屈ばかり振り回す本の虫になっちゃいけないよ。
騙さなければ、騙されてしまうのが落ちなんだ、それなら、騙されるよりも騙す方がずっとましでしょう? へへ!」