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「紅いコーリャン」 です。 原題は 「紅高粱 Hong Gao Liang」 (1987年作品)

数奇な運命を経た男女が日本軍の侵略に立ち向かっていく姿を描いた作品。
センセーショナルな内容から中国本土で賛否両論の大きな反響を呼んだ話題作です。

1988年、ベルリン国際映画祭でグランプリを受賞。
主演を務めたのは新人女優 「コン・リー」
彼女は、この作品を機に、世界的にその名が知られるようになりました。

さて物語の舞台は1920年代の中国山東省。
若くして造り酒屋の未亡人となったチウアル (九児) は、使用人との間に子をもうけ、
仲間と一緒にたくましく商売を営んでいた。
だが突如として現れた日本軍によって、彼らの運命は大きく揺さぶられてしまう ・・・。


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【第六課 第一節】


「红高粱」  莫言


我给你说说, 我爷爷我奶奶的这段事。
这段事在我老家至今还常有人提起。日子久了有人信也有人不信。

这是我奶奶。
刚满十九岁的七月初九是我奶奶出嫁的日子。

娶我奶奶的是十八里坡烧酒作坊的掌柜李大头。
李家辈辈开着烧酒锅,以廉价高粱为原料酿造优质白酒,方圆百里都有名。
李大头是50多岁了才娶上这门亲, 因为人们都知道他有麻风病。

媒  婆:   坐轿不能哭, 哭轿吐轿没有好报。盖头不能掀, 盖头一掀必生事端。

婚礼的那天,奶奶按着出嫁的传统,大热的天气,也穿着三表新的棉袄棉裤,
头上戴着红色罩头布。
奶奶被装进了这乘四人大轿,大喇叭在轿前轿后吹得凄凄惨惨,奶奶止不住泪流面颊。

轿夫们:  送轿!

照那会的规矩, 半道上要折腾新娘子。那天抬轿子的吹喇叭的都是李大头的伙计。
只雇了一个轿把式, 他是方圆百里有名的轿夫。后来就成了我爷爷。

花轿里破破烂烂,肮脏污浊, 它像具棺材。几只苍蝇在奶奶头上方嗡嗡地飞翔。
奶奶受闷不过,把轿帘顶开一条缝,偷偷地往外看。
她看到了光滑的紫槐木轿杆和轿夫们宽阔的肩膀。

轿 夫1: 轿上的小娘子, 别偷着看啦。跟哥哥们说几句话。
               这长长的路你也不嫌闷。

轿 夫2: 是啊说话解闷唱戏解烦。

轿 夫3: 唱个调调听听。
轿 夫4: 你偷看着也不管用啊。

轿 夫1: 小娘子, 哥哥们抬你一回不容易啊。
轿 夫2: 是啊不容易啊。

轿 夫3: 谁家的闺女啊可惜了啊。
轿 夫4: 当爹妈的心太狠了。见钱眼开啊。

轿 夫1: 毁了。
轿 夫2: 当爹妈的见钱眼开啊, 小娘子。

轿 夫3: 李大头流白浓吐黄水。他是不中用啊。
轿 夫4: 是呀不中用啊。

轿 夫1: 你可不能让李大头沾身, 不能啊。沾身你也就烂了。
轿 夫2: 是啊。你也就烂了。

轿 夫3: 要是后悔还来得及。哥哥们再把你抬回头。
轿 夫4: 对, 抬回头。

轿夫们的话更加粗野了,他们有的骂我曾祖父母是个见钱眼开的小人,
有的说新郎是个麻风病患者, 有的说鲜花插到牛粪上 ・・・。
奶奶胸口里,揣着一把锋利的剪子,它可能是为新郎准备的,也可能是为自己准备的。

轿 夫1: 你哥哥我就等你这句话了。
轿 夫2: 小娘子, 给哥哥们唱个曲吧。是哥哥们抬着你呢。

轿 夫3: 不说话? 颠! 颠不出话来, 还颠不出尿来。
轿 夫4: 到!

吹鼓手在轿后猛地吹响了大喇叭,它嘟地响了一声。

(轿夫们歌唱  颠轿歌)

客未走 席未散
四下寻郎寻不见 寻呀么寻不见 哎寻呀么寻不见
急猴猴 新郎倌
装进洞房盖头掀! 盖头掀!
哎呀哎呀 哎呀呀呀呀呀
我的个小乖蛋! 我的个小乖蛋!

轿夫们用力把轿子抖起来,奶奶的屁股坐不安稳,双手抓住座板。

定神看 大麻脸
踏鼻豁嘴翻翻眼 翻呀么翻翻眼 哎翻呀么翻翻眼
鸡脖子 五花脸
头上虱子接半豌! 接半豌!
哎呀哎呀 哎呀呀呀呀呀
我的个小乖蛋! 我的个小乖蛋!

轿 夫1: 还是不说话再给我颠。
轿夫们:  颠!

丑新娘 我的天
呲牙往我怀里钻 怀呀么怀里钻 哎怀呀么怀里钻
扭身跑 不敢看
二蛋我今晚睡猪圈! 睡猪圈!
哎呀哎呀 哎呀呀呀呀呀
我的个小乖蛋! 我的个小乖蛋!

轿子已经像风浪中的小船了。奶奶身上汗水淋漓, 死劲抓住座板, 终于放声大哭起来。
轿夫们立刻停嘴不唱,推波助澜,兴风作浪的吹鼓手们也不再吹打。

轿 夫1: 走。

花轿又起行。轿夫们沉默无言,加快了步伐。

从奶奶家到十八里坡要过青沙口。这地方不知道从哪年起,长出了百十苗高粱。
没人种也没人收。老家的人都说这是野高粱。还说这常闹鬼。

奶奶的花轿行到这里,东北天空抖了一个血红的闪电,一道残缺的杏黄色阳光,
从浓云中,嘶叫着射向道路。轿夫们气喘吁吁,热汗涔涔。

忽然,附近传来一声喊叫声: 「站住!」 所有行进中的轿夫们都被惊呆了。

劫路人 : 不许跑! 轿子放下! 掏钱! 老子是神枪三炮。快掏钱不然老子就开枪了。

轿夫们停住,呆呆地听着在路边高粱丛里的声音。

劫路人 : 解裤袋! 把钱和裤袋都搁到这来。

轿夫们放下轿子,从腰里解下裤袋, 摸出一串串铜钱,扔到后面地上。

劫路人 : 都给老子滚到轿子后头去。不许回头!蹲下!

轿夫们慢慢吞吞地走到轿后。从高粱丛里走出一个持枪蒙面的人。
他把钱串子放到口袋里, 然后走到轿子前。
此时几个轿夫转身看到身后的劫路人。那个人大声喊叫。

劫路人 : 不许回头!谁回头就打死谁。

劫路人用手撩开轿帘, 眼睛死死地盯着坐在轿里的我奶奶,接着伸手捏捏奶奶的脚。
奶奶粲然一笑,那人的手像烫了似地紧着缩回去。

劫路人 : 下轿走!高粱地里走!

奶奶起身,大大方方地跨过轿杆,然后右眼看着劫路人,左眼看着轿夫和吹鼓手。

劫路人 : 快走!看什么! 走!

劫路人催逼着奶奶往高粱地里走。奶奶用亢奋的眼睛,看着轿夫头的 「余占鳌」
这时余占鳌忽然回转身, 从后面向那个劫路人猛扑过去。劫路人一声惨叫,摔了个狗吃屎。
轿夫吹鼓手们也发声喊,一拥而上,围成一个圈圈,对准劫路人,狠狠地痛打落水狗。

轿夫们:  打打往死里打 ・・・。打 ・・・。

起初还能听到劫路人尖厉的哭叫声,一会儿就听不见了。

轿 夫1: 这么不轻打, 死了。
轿 夫2: 不是土三炮还长了头发的。

轿 夫3: 枪也是假的。
轿 夫4: 这小子胆子还不小。

奶奶站在路边,听着七零八落的打击肉体沉闷声响,对着余占鳌顿眸一瞥,
然后仰面看着天边的闪电,
脸上显出了一种粲然的,黄金一般高贵辉煌的笑容。


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【注 釈】


【莫言】 mò yán  莫言 (ばくげん) (1955~)

中国の作家。本名は管謨業。山東省の貧しい農民の子として生まれる。
1976年に人民解放軍に入隊し、軍の図書室の管理員をしながら執筆活動を開始。

1986年、故郷を舞台に日中戦争を描いた「赤い高粱」が大ヒットし注目された。
農村の苦しい生活を赤裸々に描いたリアリズム作家として知られる。
2012年10月、ノーベル文学賞を受賞。他の著作に「酒国」「豊乳肥臀」など。


【红高粱】 hóng gāo liang  赤コウリャン(イネ科の一年草)

【三表新的棉袄 mián ǎo】(= 一件里外中三层新的棉袄)
三枚重ねの新しい綿入れ服。表 (=层)

【这乘 shèng 四人大轿 jiào】
四人で担ぐ輿。乘 shèng (= 四人一车的)

【颠 diān 不出话来, 还颠不出尿 niào 来】
揺さぶって声が出なけりゃ、小便をチビらせてやる。
揺さぶって声が出なくても、小便くらい出るだろう。
还颠不出尿来(= 怎么能颠不出尿来)
「还」は反語。小便が出ないはずがない。

【急猴猴】 jí hóu hóu (= 急得好像猴子一样不稳当。着急)
あたふた。大慌て。泡を食う。口パク。パニくる。

【五花脸】 wǔ huā liǎn
(= 因受伤、化装、出汗等而呈现纷杂色彩的脸)
ぐたぐた。ごてごて。ばらばら。どろどろ。くしゃくしゃ。

【二蛋】 (= 笨蛋。常用来给人做绰号或骂人)
あばずれ。ろくでなし。ごくつぶし。すかたん。いかれぽんち。

【抖 dǒu 了一个血红的闪电】
まっ赤な稲妻が轟いた。 抖 (=颤动 chàn dòng)

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【口語訳】

これから語ろうとするのは、私の祖父と祖母の話だ。

この事は今でも私の故郷の村で語り草になっている。
なにしろ昔のことだから、話をしても信じてもらえないかも知れないが。

これが私の祖母だ。
ちょうど満19歳になった7月9日に、私の祖母は嫁入りをした。

彼女を娶った相手は、十八里坂の造り酒屋の主人、李大頭 (リィ ・ ダァ トオ)。

李家は代々焼酎の醸造を営んでおり、安いコーリャンを原料に良質の白酒を造り、
百里四方に名を知られていた。

李大頭自身は、50歳を過ぎての嫁取りだった。
なにせ麻風病 (ハンセン病) を患っており、それまで来手がなかったからだ。

仲  人 :   輿に乗る者は涙を見せてはならぬ。輿に揺られて吐いてはならぬ。
               涙も嘔吐も良からぬ報いをもたらすゆえ。
               頭に被った赤い頭巾を脱いではならぬ。勝手に脱げば、必ず災厄を招くゆえ。

婚礼のその日、祖母は、古い嫁入りのしきたりどおり、夏の暑さの盛りに、赤い頭巾を被り、
新しい綿入れ服とズボンを三枚も重ね着していた。

祖母は、四人かきの輿に乗せられると、輿の前後で、大きなラッパの音が悲しげに吹き鳴らされた。
彼女は頬を伝う涙をおさえきれなかった。

人足達 :  さあ、出発だ!

その頃の風習では、輿に乗った嫁入りの道中、花嫁いびりが行われた。
その日、輿を担いだのはすべて李大頭の家の者だった。
ただ一人だけ専門の職人が雇われた。輿担ぎとしては名高い男で、彼がすなわち私の祖父だった。

輿の中はぼろぼろで、薄汚く、まるで棺桶のようだった。
何匹かのハエが祖母の頭の上方でブンブンと飛び回っている。

祖母はたまらなくなって、輿の垂れ幕をそっと押し上げ、その隙間から外をのぞいた。
すると、光沢のあるエンジュ材の担い棒と人足たちの広い肩が見えた。

人足1 :   花嫁さんよ、のぞき見せんと、お愛想でも言いなされや。長い道中、退屈だろうによ。
人足2 :   そうとも、話でも唄でも、憂さ晴らしになろうってものよ。

人足3 :   何か唄ってくれんかの。
人足4 :   のぞき見だけではつまらんからの。

人足1 :   花嫁さんよ、担ぐ人間の身にもなってみなされ。
人足2 :   そうとも、難儀このうえないのだ。

人足3 :   人の娘ってのも、可哀そうなものよな。
人足4 :   金を目当てに、親もむごいものだ。

人足1 :   そりゃひどい話だ。
人足2 :   花嫁さんよ、あんたの親は金に目がくらんだのさ。

人足3 :   ところで、李大頭は、病気持ちで白や黄色の膿だらけ、もう長いことないぜ。
人足4 :   そうとも、もう役に立たんぞ。

人足1 :   指一本触れさせるんじゃないぞ。触ったらお前も腐るぞ。
人足2 :   そうとも、腐っちまうぞ。

人足3 :   後悔してるなら、戻ってやろうか。
人足4 :   そうとも、戻ってやるぞ。

人足たちの言葉はますます粗野になった。祖母の親は金の亡者だと言う者、
新郎が麻風病だと言う者、美しい花を牛の糞に挿しやがってと言う者。

祖母の懐には、鋭利なハサミがしのばせてあった。
それは新郎に、そして自分にも向けられるはずのものだったにちがいない。

人足1 :   お前さんの気持ちひとつだ。
人足2 :   花嫁さんよ、担いでもらって、唄ぐらい唄ってもいいだろ。

人足3 :   それが嫌なら、もっと揺さぶって小便をチビらせてやるぞ。
人足4 :   それゆけ!

楽士がかごの後で突然大きいラッパをぶぅぅ と吹き鳴らした。


<人足達の 「揺りかごの歌」>

♪ 客は今を盛りに 宴のたけなわ  私の婿殿 婿殿 行く先 行く先 どこへやら

あれま婿殿 いずこやら いやはや婿殿 大慌て 大慌ての慌て顔
お床入りだと角かくし 角かくし 取っては びっくり大ぎょうてん

ありゃりゃ こりゃりゃ この嫁さんは この嫁さんは
私の素直で可愛い嫁さんよ! 私の素直で可愛い嫁さんよ!


人足たちは思い切り輿を揺さぶりはじめた。祖母はじっと掛けていられなくなり、両手で座席の板をつかんだ。


♪ 目をこらし 顔を見てみりゃ あばた面 あばた あばたの大あばた

鼻はぺしゃんこ 口は裂け おめ目はさかさま やぶにらみ
首はニワトリ 顔はぐたぐた  頭のシラミは こんもり こんもり山のよう!

ありゃりゃ こりゃりゃ この嫁さんは この嫁さんは
私の素直で可愛い嫁さんよ! 私の素直で可愛い嫁さんよ!


人足1 :   やはり黙っているな、よし、もう一丁いけ。
人足達:  それ!


♪ 醜い顔の花嫁さん これこそ私の 身の不運

むき出し出っ歯で 頬すり寄せる こりゃいかん 顔をそむけて 見る気はしない
それこそいっそ いっそのことに ブタ小屋行って 寝るがまし!

ありゃりゃ こりゃりゃ この嫁さんは この嫁さんは
私の素直で可愛い嫁さんよ! 私の素直で可愛い嫁さんよ!


輿は、もはや嵐の中の小舟のようだった。
祖母は、汗をしたたらせ、死にもの狂いで座席の板にしがみつき、ついに声をはりあげて泣き出した。
人足たちはすぐさま歌を止め、あおり立てていた楽士たちも楽器を口から放した。

人足1 :   おい、行こう。

輿は再び進み始めた。人足たちは黙々と足並みを加速していった。

十八里坂へ向かう途中、青沙口という所を通過する。
この地方はいつの頃からか知らないが、7ヘクタールものコーリャンが生えている。

作付けする者もなく、同じく刈り入れする者もいない。
故郷の村の人は、これはすべて野生のコーリャンだと言う。
また此のあたり、しばしば幽霊が出るというウワサもある。

祖母の輿が、ここにさしかかったとき、東北の空にまっ赤な稲妻が走り、オレンジ色の欠けた日の光が一筋、
濃い雲の中からうなりをあげて道へ射してきた。
人足たちは、すでに息をあえがせ、汗だくになっていた。

すると不意に、「止まれ!」 という叫び声が聞こえた。行進していた人足たちは、みな驚いてぼうぜんとなった。

盗賊  :   動くな! 輿を下におろせ! 金を出せ! 俺は早打ちサンパオ様だ。
             ぐずぐずすると容赦はしねえぞ。

人足たちは立ち止まり、ぼんやりと道ばたのコーリャン畑から伝わる声を聞いた。

盗賊  :   帯も解け! 金と帯をこっちに置け。

人足たちは、輿を下に降ろし、腰から銭袋を解き、銅銭を探り出して、ほうり投げる。

盗賊  :   輿の後ろにさがっていろ。 振りかえるな! しゃがめ!

人足たちが、ゆっくりと輿の後ろにさがると、コーリャン畑の中から一人の銃を握った覆面の男が現れた。
男は、つないだ銅銭をポケットに押し込み、それから輿の前に歩み寄った。
この時、人足何人かが、振り返って盗賊のほうをちらりと見つめた。すかさず盗賊が大声で叫ぶ。

盗賊  :   こっちを見たらぶっ殺すぞ!

盗賊は輿の垂れ幕を引き上げ、目を凝らして輿に座る祖母を見据え、手をさしのべて彼女の足をつかんだ。
祖母は白い歯を見せてにっこりと微笑み、男はやけどをしたかのように急いで手を引っ込める。

盗賊  :   輿を降りて歩け! コーリャン畑だ!

祖母は前かがみになってゆったりと輿の担い棒をまたぎ、それから右目で盗賊を、左目で人足と楽士たちを見た。

盗賊  :   さっさと歩け! 何をしている! 歩くんだ!

盗賊は祖母をせきたててコーリャン畑の中へ歩いていく。
彼女は、何やら高ぶった目つきで、人足の頭領、余占鰲 (ユイ・チャンアオ) を見つめた。

この時、余占鰲は、突然身をひるがえし、後方から盗賊めがけて体当たりした。
不意をくらった盗賊は、一声悲鳴を上げると、もんどりうって腹ばいにつんのめった。

次いで、人足や楽士たちも続けざまに叫びながら、どっと盗賊を取り囲み、容赦なく拳固や足蹴りの雨を降らせた。

人足達 :  やっちまえ、この野郎、ぶっ殺せ!

盗賊の甲高い絶叫とうめき声がしばらく続き、やがてその声は聞こえなくなった。

人足1 :   これっぽっちでお陀仏かよ。
人足2 :   こいつはサンパオじゃねえぞ。見ろよ、髪もこんなに長い。

人足3 :   銃もにせ物だ。
人足4 :   なんて大胆な野郎だ。

祖母は道端に立ち、ばらばらと肉を打つ鈍い音を聞きながら、余占鰲にちらと目を向け、
つづいて空の彼方の稲妻をあおぎ見る。その顔には、美しく、気高い笑みがたたえられていた。