Top Page    中国語講座



1920年代末、中国山東省。
19才になる九児 (チウアル) が嫁入りの輿にゆられていく。

親子ほど年の離れているうえ、ハンセン氏病を病む造り酒屋の
李大頭のもとへ嫁ぐ道すがらである。
彼女の父はラバ一頭で李に娘を売り渡したのだった。

輿をかついでいるのは李の使用人たち。
彼らが真っ赤なコーリャン畑のなかを進んでいると、覆面の強盗に襲われる。

強盗が彼女をさらおうとしたとき、彼女を救い、強盗を殺したのは
輿をかついでいた余占鰲 (ユイ・チャンアオ) だった。
これを機に、彼女のなかに余に対するほのかな慕情が芽生える。


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【第六課 第二節】

余占鳌把奶奶扶上轿说: 「上来雨了,快赶!」
花轿又起行。

吹鼓手如梦方醒,在轿后吹出了一个长音。
起风了,东北风,天上云朵麇集,遮住了阳光,轿子里更加昏暗。

奶奶撕下轿帘,塞到轿子角落里。只见余占鳌离着轿子那么近。
奶奶呼吸着自由的空气,看着他粗壮的上身。

奶奶听到风吹高粱,哗哗哗啦啦啦,听到东北方向有隆隆雷声响起。
雨点打得轿顶啪啪响, 打得道上的细土凝聚成团后又立即迸裂。

轿夫们像兔子一样疾跑,还是未能躲过这场午前的雷阵雨。
道路很快就泥泞不堪,杂草伏地,高粱清醒地擎着湿漉漉的头。
雨水斜射到奶奶的脸上,把奶奶的衣服打湿了。

她本来可以挂上轿帘遮挡雨水,她没有挂,她不想挂。
奶奶过敞亮的轿门,看到了纷乱不安的宏大世界


十八里坡这地方, 周围没什么人家。再加上掌柜的有麻风病。
除了买酒的很少有人上这来。

街上流水恍恍,水面上漂浮着一层高粱的米壳。
花轿抬到李家大门时,出来迎亲的只有两个伙计。一个五十多岁,一个四十多岁。
五十多岁的就是刘罗汉大爷,四十多岁的是烧酒锅上的一个女佣人。

大雨停后,还有一些零星落雨打在地面上的水汪汪里。
轿夫吹鼓手们就站在这个院子里, 脚踩着混浊的雨水,
看到竟是两个半老伙计把那新娘搀进屋去。

偌大的村庄, 竟无一人前来看热闹。始终不见新郎的踪影。
屋子里散出锈蚀青铜的臭气。

轿夫们顿悟: 那个躲着不露面的新郎, 定是个麻风病。
吹鼓手们见无人来看热闹, 便偷工减料, 随便鸣啦了一个曲子拉倒。

奶奶在拜堂时,还是蒙上了那块大红头布。
奶奶闻到两个伙计身上那股强烈的烧酒气息,好像他们整个人都在酒里浸泡过。

奶奶被送到炕上坐着。始终没人来揭罩头红布,奶奶自己揭了。
她看到在炕下方凳上蜷曲着一个面孔痉挛的男人。

那个男人生着一个扁扁的长头,下眼睑烂得通红。
他站起来,对着奶奶伸出一只鸡爪状的手。

奶奶大叫一声,从怀里摸一把剪刀,立在炕上,怒目逼视着那男人。
男人又萎萎缩缩地坐到凳子上。

这一夜,奶奶始终未放下手中的剪刀,那个扁头男人也始终末离开方凳。
这个男人就是酒坊掌柜李大头, 是个窝窝囊囊的家伙。

我奶奶手拿剪刀守了两夜,他硬是没敢近身。


新婚三天接闺女是我老家的风俗。
那天上午, 我奶奶她爹牵着一匹小毛驴,来接她回门。

曾祖父在李家一直喝到太阳过晌,才动身回家。
他已经醉得东倒西歪,目光迷离。

奶奶偏坐毛驴,驴背上搭着一条薄被子,晃晃荡荡出了村。
大雨过后三天,路面依然潮湿,高粱地里白色蒸气腾腾升起。

走了一里又一里,白日斜射,青天如涧。
不久,毛驴走到青沙口。
三天中又长高了一节的高粱,嘲弄地注视着我奶奶。

奶奶坐在驴上,一阵阵头晕眼花,她眼皮红肿,头发凌乱。
曾祖父折来一根高粱秸, 在走得疲沓的毛驴的腚上抽了一下。

曾祖父 :  你得回来你得回李家来。多大的气派。张口就给咱一大驴子。
               你不愿意归不愿意。你拿什么剪子。你得回来你得回李家来。

驴缰绳是由曾祖父牵着, 奶奶就把驴缰绳夺过来,自己挽着。
曾祖父跟在驴后喊叫着。

曾祖父 :  哦, 闺女你跑那么快干啥?

曾祖父被毛驴甩在后面,毛驴认识路径,驮着奶奶,踢踢踏踏地前行。

道路拐了个小弯,毛驴走到弯上,突然奶奶身体后仰,脱离驴背,
一只有力的胳膊挟着她,向高粱深处走去。

高粱叶子嚓嚓响着。奶奶无力挣扎,也不愿挣扎。
她甚至抬起一只胳膊,揽住了那人的脖子,以便他抱得更轻松一些。

三天新生活,几乎打碎了她所有的梦。


那人把奶奶放到地上,奶奶软得像面条一样,眯着羊羔般的眼睛。
那人撕掉蒙面黑布,显出了真相。

是他!  奶奶暗呼苍天,一阵类似幸福的强烈震颤冲激得奶奶热泪盈眶。
余占鳌把大蓑衣脱下来,用脚踩断了数十棵高粱,在高粱的尸体上铺上了蓑衣。
他把我奶奶抱到蓑衣上。

奶奶神魂出舍,望着他脱裸的胸膛,
仿佛看到强劲的血液在他黝黑的皮肤下川流不息。

高粱梢头,薄气袅袅,四面八方响着高粱生长的声音。
风平浪静,一道道潮湿阳光,在高粱缝隙里交叉扫射。

奶奶心头撞鹿,潜藏了十九年的情欲,迸然炸裂。
奶奶在蓑衣上扭动着。

余占鳌一截截地矮,双膝啪嗒落下,他跪在奶奶身边,奶奶浑身发抖,
一团黄色的、浓香的火苗,在她面上哔哔剥剥地燃烧。

余占鳌粗鲁地撕开我奶奶的胸衣,让直泻下来的光束照耀着奶奶寒冷紧张,
密密麻麻起了一层小白疙瘩的双乳上。

在他的刚劲动作下,尖刻锐利的痛楚和幸福磨砺着奶奶的神经,
奶奶低沉喑哑地叫了一声: 「天哪 ……」 就晕了过去。


忽然毛驴高亢的叫声,钻进高粱地里来,奶奶从迷魂的天国回到了残酷的人世。
她坐起来,六神无主,泪水流到腮边。

奶奶整好容, 钻出高粱地, 踢醒了醉成一摊泥巴的曾祖父。
曾祖父舌头僵硬地说: 「闺女, 你这一泡尿, 咱尿了这么老半天。你是咱尿的 …」

奶奶不管她的胡言乱语的爹, 骗腿上了驴, 把一张春风漫卷过的粉脸对着道路南侧的高粱地。


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【注 釈】

【上来雨了】 (=快要下雨了)
雨になるぞ。 上来 (=就要到这里来)

【花轿又起行】 (=再次起行, 有一次开始行走)
輿は再び動き始めた。

【细土凝聚 níng jù 成团后又立即迸裂 bèng liè 】
(=细土凑在一起成团, 然后接着立即破裂而往外飞溅 jiàn)
細かい土が集まってひとつに固まり、ただちに破裂して飛び散った。

【高粱清醒地擎 qíng 着湿漉漉 shī lù lù 的头】
コーリャンは生き生きとして濡れそぼつ頭を持たげている。
擎 (=向上抬, 举)
<用例> 高擎着火炬 huǒ jù ,一边慢跑,一边向观众挥手。
(聖火を高く掲げ、ゆっくりと走りながら観客に手を振る)

【街上流水恍恍 huǎng 】  恍恍 (=流得狂暴)
鉄砲水の如く雨の激流が街中を流れる。

【偷工减料】 tōu gōng jiǎn liào
(=)为了牟取暴利而暗中降低产品质量,削减工料。马虎敷衍。
[成] ひそかに仕事の手をぬき材料をごまかす。ずさん。ちゃち。
<用例> 偷工减料盖的房子。 (やっつけ仕事で建てた家)

【随便鸣啦 míng lā 了一个曲子拉倒 lā dǎo 】
適当に一曲鳴らして止めにする。
鸣啦 (=发出声音)   拉倒 (=作罢, 放弃)

【生着一个扁扁 biǎn 的长头】
ひしゃげた長い頭が生えている。生着 (=生长着)

【偏 piān 坐毛驴 máo lǘ 】
ロバの背にお姫様坐りする。偏 (=侧着身子)

【白日斜射,青天如涧 jiàn 】
日は斜めに傾き、空は谷底のようにほの暗くなる。

【暗呼苍天】 (=暗里喊上帝保佑)
ひそかに神の加護を叫ぶ。

【神魂出舍】 shén hún chū shě
(=恍惚神魂飞, 形容神志不清)
魂が飛んでしまう。放心状態に陥る。

【风平浪静】
風がなぎコーリャンの葉が静かに波打つ。

【心头撞鹿】 xīn tóu zhuàng lù
(=心里像有小鹿在撞击, 形容惊慌或激动时心跳剧烈)
胸の鼓動が高鳴る。

【一截截地矮】 (=把身子一段段地矮下来)
少しずつ身体を低くする。

【咱尿了这么老半天】
どういう小便だ、えらく長いな。咱 (=怎么)

【春风漫卷】 chūn fēng màn juǎn
(=相爱的男女合欢)
相愛の男女が逢瀬を楽しむ。


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【口語訳】

余占鰲 (ユイ・チャンアオ) は祖母に手をかして輿に乗せた。
「雨になるぞ、急げ!」 輿は再び動きはじめる。

楽士が夢から覚めたように、一度だけながながとラッパを吹き鳴らした。
風が起こってきた。東北の風が雲を吹き寄せて、日ざしをさえぎる。
輿の中が一段と暗くなった。

祖母は垂れ幕をむしり取って、輿のすみにつっこんだ。
ふと見ると余占鰲は輿のすぐそばにいる。
彼女は自由な空気を吸いながら、彼のたくましい上半身を眺め続けた。

コーリャンが風に吹かれてザワザワと音をたてる。
東北の空にゴロゴロと雷鳴が轟きはじめた。輿の屋根がパラパラと雨音をたてる。
雨に打たれた路上の細かな土は固まった途端に、また砕け散った。

人足達は兔のようにつっ走ったが、この昼前の雷雨をさけることはできなかった。
道はたちまちぬかるみと化し、雑草は地に伏せ、コーリャンはここぞとばかりにずぶ濡れの頭をもたげた。
雨は横なぐりに祖母の顔に吹き付け、服もぐしょ濡れになった。

輿の垂れ幕を掛けることもできたが、彼女はそうしなかった。またそうしたいとも思わなかった。
明るい輿の入口をとおして、彼女は乱れにみだれる広大な世界を見つめ続けた。


十八里坂は周囲に人気のないところだった。
しかも主人は病気持ちといううわさだったから、酒を買いにくる以外にめったに人は来ない。

街の通りには水があふれ、コーリャンの殻がそこらじゅうに浮いていた。
輿が李家の表門に到着したとき、迎えに出たのは杜氏ふたりだけだった。

一人は五十過ぎ、もう一人は四十過ぎ。
五十過ぎの男が劉羅漢大爺、四十過ぎのほうは酒造小屋の女奉公人だった。

どしゃぶりの雨はやんでいたが、雨はまだパラパラと地上の水たまりをたたいている。
人足と楽士たちは濁った雨水を踏んで庭に立ち、二人の杜氏が花嫁をかかえて家の中へ入っていくのを見ていた。

大きな村なのに、見物は一人もいなかった。新郎もついに姿を見せなかった。
家の中からは銅の錆びた緑青のにおいがする。

人足たちは悟った。 隠れて姿を見せぬ新郎は、やはり麻風病にちがいない。
見物にくる者もないので、楽士たちは手を抜き、適当に一曲吹いただけで終わりにした。

母屋で先祖の霊を礼拝したとき、祖母はまだあの紅い頭巾をかぶっていた。
二人の杜氏の身体からは、まるごと焼酎につかっていたように強い焼酎のにおいがした。

彼女はオンドルの上にすわらされたが、いっこうに頭巾をめくりにくる者はいない。
自分で頭巾をとると、オンドルの下の腰掛けに、顔をひきつらせた男が一人、縮こまっていた。

その男は偏平な長い頭で、眼の下がまっ赤にただれていた。
男は立ち上がり、祖母に向かって鳥の爪のように曲がった手を差し伸べた。

祖母は大声をあげて懐からハサミを取り出し、オンドルの上から挑むように男をにらみつけた。
男は、ぐったりと腰掛けに座り込んだ。

その夜、祖母はずっとハサミを握り続け、偏平な頭の男は腰掛けを離れなかった。
このなんともふがいない男が、酒造の主人李大頭であった。

つぎの夜も、祖母はハサミを手に夜明けまで眠らなかった。 李大頭も敢えて彼女に近づこうとはしなかった。


三日目の昼前、曾祖父がロバをひいて、里帰りする祖母を迎えに来た。
新婚三日目に、実家から娘を迎えに行くのは、この地方の習わしだった。

李大頭の家で昼過ぎまで飲み続けて、やっと腰をあげた曾祖父はすっかり泥酔して、
目がすわり足も右へ左へよろけている。
祖母は薄い掛け布団を敷いたロバの背に横すわりにかけ、ゆらゆらと村を出た。

三日前の大雨で道はまだ湿っており、コーリャン畑はもうもうと白い湯気をたてている。
一里また一里と行くうちに、太陽は西へ傾き、日は暮れかかってきた。

やがてロバは青沙口にさしかかった。
三日のうちにまた一節は伸びたコーリャンが、嘲るように祖母を見つめている。

ロバの背で、祖母は幾度も目まいに襲われた。眼は赤く腫れ、髪はばさばさに乱れている。
曾祖父がコーリャンの茎を折って、くたびれたロバの尻にぴしりとムチをあてた。

曾祖父 :  実家に帰っても、嫁ぎ先には必ず戻るのじゃ。
               大きなラバを一頭、ポンと出してくれるとは、なんと羽振りのいい家だろう。
               お前が不服なのは分かっているが、ハサミなど振り回してはいかん。
               実家に帰っても、またすぐ戻るのじゃぞ。

ロバの手綱は曾祖父が引いていたが、祖母は手綱を奪い取って自分の手に巻きつけた。
曾祖父がロバの後方で叫ぶ。

曾祖父 :  んっ、お前、そんなに急いでどうした?

曾祖父はロバの後方にふりきられ、ロバは祖母を乗せて、勝手知った家路を小走りに進む。

小さな曲がり角にさしかかったとき、突然、祖母の身体がのけぞってロバの背をはなれた。
力強い腕が彼女を抱きかかえて、コーリャンの奥へと歩み去った。

コーリャンの葉がザワザワと音をたてる。祖母はあらがう力もない、またそうしようとも思わなかった。
彼女は片腕をその男の首に巻いて、男がもっと抱きやすいようにしてやりさえした。

三日間の新しい生活が、彼女のすべての夢を奪い去ってしまっていたのだ。


男は祖母を地面におろした。彼女はぐったりして、子羊のように目を細めていた。
男が黒い覆面をはぎとって、素顔をあらわした。

あの人だ!  祖母はひそかに喜びの声をあげた。
幸せともいえるような衝撃につき動かされて、彼女の目に熱い涙があふれた。

余占鰲は蓑をぬぎ、数十株のコーリャンを踏み倒して、コーリャンの死骸の上にその蓑を敷いた。
彼は、祖母を抱いて蓑の上に寝かせた。

むきだしの男の胸を、彼女はうっとりと眺めた。
その黒い皮膚の下に流れつづける、強靭な血が見えるような気がした。

コーリャンの幹の先端には薄い大気が揺らめき、そこらじゅうでコーリャンの伸びる音がする。
あたりはひっそりと静まり、湿った日の光が、あちこちのコーリャンの隙間からまばゆくさしこんできた。

祖母の胸が高なり、十九年の間潜んでいた情欲がどっとほとばしる。
彼女は、蓑の上で身をくねらせた。

余占鰲が少しずつ身をすくめ、両膝をついてそばに脆くと、祖母はおののいた。
黄色い、濃い香りの炎が彼女の顔の上ではげしく音をたてて燃えた。

余占贅は、あらあらしく祖母の胸の衣服をはぎとった。
降りそそぐ光の束が、冷たくはりつめて、白く鳥肌立った彼女の乳房を照らした。

男の力強い動きの下で、鋭い痛みと幸福感が祖母の神経を苛んだ。
「神さま ……」 彼女は低く叫んで、気を失った。


ふいにロバがたかぶった叫びをあげて、コーリャン畑へ入ってきた。

祖母は恍惚の天国から残酷な現世へとひきもどされた。
彼女は起きあがったが、心はうつろだった。涙が頬を伝って流れた。

身支度を整えた祖母はコーリャン畑を出ると、泥のように酔いつぶれた曾祖父を足蹴にして目を覚まさせた。
曾祖父がもつれる舌で言った。 「お前、小便にしては随分長いことかかるもんだ。どんな小便してた …」

彼女は父親のたわごとを無視してロバにとび乗り、いましがた男女の事をおえてほんのりと赤く染まった顔を
道の南側のコーリャン畑へ向けた。