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「芙蓉鎮」 です。 文革の悲劇を正面から描き出した衝撃作。(1987年作品)
1987年、中国アカデミー賞 (金鶏賞) 最優秀作品賞を受賞。

主演女優の 「劉暁慶」 (リウ・シャオピン) は、受賞を機に大女優の地位を確立しました。
日本では、NHKドラマ 「武則天」 (1995年) の主演で一躍注目されています。

さて物語の舞台は、1963年、中国湖南省の南にある小さな町、芙蓉鎮。
器量好しと評判の 「胡玉音」 (フ・ユーイン)  が営む米豆腐の店は、大いに繁盛していた。

夫ともども必死に働いたおかげで店を新築することもできた。
ところが文化大革命が勃発、夫婦は資本主義者と糾弾され、豆腐屋も没収されてしまう。


      (半升绿豆   湖南民歌)


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【第八課 第一節】

片头曲 (半升绿豆)
(女)半升绿豆选豆种呐,我娘那个养女不择家呀。
妈妈呀害了我,妈妈呀害了我。

(男)碧水河水呀流不尽呀,郎心永在妹心呀头,哎哟,妹呀心头。
罗罗里,来来来,嗯。

(男女)半升绿豆选豆种,我娘那个养女不择家。
妈妈呀害了我,妈妈呀,妈妈害了我,害了我。
罗罗里,来来来。

十九六三年初春,山清水秀的芙蓉镇。
这天集市,青石板街道上人来人往,熙熙攘攘。

镇上有个勤劳美丽的少妇胡玉音,同丈夫黎桂桂摆了个米豆腐摊子。
胡玉音是个二十五、六岁的青年女子。
由于她待客热情,服务周到,人们都愿吃她做的米豆腐,摊前顾客络绎不绝。

吃客甲 :  芙蓉姐,给我的多放点辣椒。
吃客乙 :  我要醋。
胡玉音 :  来啦。
吃客丙 :  芙蓉姐,给我多放点葱花。快点。

胡玉音 :  桂桂。
吃客丁 :  芙蓉姐,我等了半天了,快点。
胡玉音 :  哎,来了。

吃客甲 :  放了没有?
胡玉音 :  放了。保险辣得你肚脐眼儿疼。

吃客甲 :  哈哈哈,我肚脐儿疼了,姐姐你给治治。
镇民    :  哎,女老板,来碗米豆腐。多加点汤呀。

胡玉音 :  哎。好咧。来,天气热,给你这碗宽汤的。
镇民    :  哟,芙蓉姐你那手比米豆腐还要白嫩啊。

胡玉音 :  讨厌!是不是你媳妇这两天又没有喊你跪床脚, 扯你大耳朵了?
镇民    :  哟,我的耳朵倒想要芙蓉姐来扯一扯哩。来扯呀,来。

胡玉音 :  去你的,缺德少教养的。

就是骂人、咒人,胡玉音眼睛里也是含着温柔的微笑。
对这些常到她摊上来的主顾们,她有讲有笑,
亲切随和得就像待自己的本家兄弟样的。

胡玉音看到镇上大娘来到,赶紧热情招呼。

胡玉音 :  大娘,您来了? 来,坐吧。 (让熟客给大娘让座) 起来起来起来。
大娘    :  你好吗?最近生意还不错吧?

胡玉音 :  嗯。 (端着一碗米豆腐走近大娘,俯耳细语) 给你多放辣椒了。
大娘    :  哟,好。

胡玉音 :  走了? 慢走啊。
吃客    :  下回见啊。

黎满庚和五爪辣夫妇两赶圩路过胡玉音的米豆腐摊子,
五爪辣背着孩子,黎满庚背着装满东西的背篓。

黎满庚是三十来岁,是个本镇大队的党支书记。
他是个转业军人,跟胡玉音从小的相识,玉音认了他做干哥。

镇民女 :  哎,满庚嫂。
镇民男 :  黎书记。

五爪辣给孩子买麻辣串。

小摊贩 :  给挑个大的呀。
胡玉音 :  满庚哥,你来了?

镇民    :  哟,黎书记,您来了? 吃米豆腐,里面坐。
胡玉音 :  吃一碗吧?

黎满庚 :  吃一碗。
吃客    :  芙蓉姐,来碗米豆腐。

胡玉音 :  哎,知道了。
吃客女 :  芙蓉姐,钱。

黎满庚 :  来来来,给我。玉音呀,挣多少钱了?

黎满庚女儿: (看到黎满庚跟胡玉音亲热地说笑,向其母报告) 娘!
五爪辣 :  (恼羞成怒地) 走哇!

吃客    :  芙蓉姐,来碗米豆腐。
胡玉音 :  好。


王秋赦河上烂板屋前。
王秋赦是本镇上有名的「运动根子」。

他三十几岁年纪,生得圆头圆耳,平常日子像尊笑面佛。
他出身贫寒,又懒又馋,

长年靠政府救济粮和吃白食过活,
但他头脑中不乏「革命思想」,是每次运动中的积极分子。

谷燕山 :  王秋赦,起来了没有?
王秋赦 :  (不情愿地从床上爬起来,迷迷糊糊地) 来了。

谷燕山 :  晚上开会通知了吗?
王秋赦 :  马上通知。

谷燕山是本镇粮站主任。
他四十来岁,北方人,是个鳏夫,为人忠厚朴实。

不晓得怎么搞的,谷燕山前年秋天忽然通知胡玉音,
可以每圩从粮站打米厂卖给她碎米谷头子六十斤,成全她的小本生意!

从此,谷燕山每圩都要来米豆腐摊子坐上一坐,
默默地打量着脚勤手快、接应四方的胡玉音。

国营食堂。王秋赦找经理李国香通知开会事宜,借机在锅中翻找食物。

国营厨师:  干什么?
王秋赦 :  李经理呢?

国营厨师: (讥讽地)锅里也没经理呀。
王秋赦 :  老子有镇上的重要通知,耽误了,你负责任呀?

国营厨师: 嗬嗬,屁大个勤务,了不起!那不是?

王秋赦 :   政府的买卖,我这政府的人来了,连碗热水都没得喝。

国营厨师: 别动!
王秋赦 :  (尴尬地) 嘿嘿。

国营食堂阁楼的阳台上。

国营女服务员甲: 世上的事就是邪,这芙蓉镇的人就没吃过米豆腐?
李国香 :  你懂什么?你没看见,那些男人们都像馋猫围着鱼腥似的?

国营女服务员乙: 经理,我们也去摆个摊吧,保险能挣钱,信不信?
李国香 :  屁话!我们是国营商店,吃的是商品粮,那是什么?

王秋赦 :  李经理,镇上通知今天晚上开个干部会。
李国香 :  (不耐烦地)知道了,知道了。这四大自由,越闹越邪,越闹越...

李国香看到谷燕山向国营食堂走来,热情地说。

李国香 :  哟,老谷哇,忙什么呢?
谷燕山 :  没忙什么。

李国香 :  (妩媚地)人家给你说点事。
谷燕山 :  又要挑粮呀?这么好的粮食,也做点像样的吃食。

李国香 :  粮站主任开口闭口就是粮食,店里来了五陵大曲,
               人家特意给你留了两瓶。过来,给你挑两瓶。

谷燕山 :  算了算了,人家说呀,在你国营食堂当中都吃老鼠屎了。

李国香 :  瞧你说的,我还能给你老鼠屎吃?这衣服领子也不能让人家洗一洗?
               老谷,现在城里人可都行假领子呢。
谷燕山 :  (视而不见地) 哈哈,得了得了。

李国香 :  老谷,晚上开会可早点去哟。

米豆腐摊前。

吃客    :  谷主任。
谷燕山 :  啊。来了?
胡玉音 :  (高兴地) 桂桂,谷主任来了!

黎满庚 :  老谷,来了?
谷燕山 :  满庚。
黎满庚 :  哎,谷主任,抽烟。

谷燕山 :  秋赦,又不给钱呀? 你看秦书田,除了给钱还帮干点活,你倒吃白食。
王秋赦 :  这块属于我名下的宅基地,要是卖给胡玉音哪,少说也够两三千碗米豆腐呢。

谷燕山 :  这小子,啊!
吃客    :  他就是想占便宜,好吃懒做,到处贪便宜,还不给钱。

这时李国香三脚两步走到米豆腐摊子。
她是国营饮食店的女经理。

这个老姑娘为人阴险歹毒而又伪善矫情,舅舅是县委管财贸的杨民高书记。
因本店生意冷清,李国香对胡玉音的米豆腐摊子十分恼恨,总想找点岔子。

李国香 :  有许可证吗?
胡玉音 :  (出乎意料地)呀,是国营大姐。你是不是来吃....

李国香 :  营业证!
黎满庚 :  怎么啦?

胡玉音 :  我们这点小本生意,都是在税务所上了税的。
李国香 :  (步步紧逼地) 营业证!

胡玉音 :  镇上的大人孩子都晓得.......
李国香 :  我来验验营业证!你们要是没有,我就让我的职工来收你的摊子。

吃客    :  (与李国香作对的口气) 再来一碗。再来一碗!
吃客    :   (向谷燕山看) 哎,去说一下嘛。

谷燕山 :  (调解地) 算了算了,算了!都在一个镇上,低头不见抬头见的,
                有什么事儿到市管会、去税务所说,啊?

黎满庚 :  对。
老大娘 :  (故意与李国香作对) 芙蓉姐的米豆腐就是好吃。
吃客    :  就是。

黎满庚 :  国香,晚上开干部会,通知你了吗?啊?

李国香 :  (怨恨地说) 当我不知道,欺负我是外来的。

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【注 釈】

【熙熙攘攘】 xī xī rǎng rǎng
(=熙熙:和乐的;攘攘:纷乱的。形容人山人海,热闹拥挤)
押し合いへし合い。ごった返す。にぎわう。ぎゅうぎゅう詰め。
<用例> 从熙熙攘攘的人群中挤过去来到庙里。
  (押すな押すなの人込みを掻き分けて境内に入った)

【络绎不绝】 luò yì bù jué
(=络绎:前后相连;不绝:连续不断。形容行人、车马等来往频繁)
ひっきりなし。わんさわんさ。ぞろぞろ。入れ替わり立ち替わり。
<用例> 樱花盛开时,前来赏花的人络绎不绝。
  (満開ともなると花見客がどっと押し寄せる)

【保险 bǎo xiǎn 辣得你肚脐眼儿 dù qí yǎn r 疼】
辛くてヘソが痛くなること請け合いだ。
保险 (=保证,担保)
<用例> 保险你活到一百岁。(百歳まで生きること請け合いだ)

【给你这碗宽汤的】
煮汁 (スープ) をたっぷり入れといたわ。宽 (=多)

【是不是你媳妇 xí fù 这两天又没有喊你跪床脚 guì chuáng jiǎo】
ここしばらく奥さんはよくまあ怒鳴りつけてあんたをベットの下に正座させなかったものね。
又 (=居然)

【我的耳朵倒想要芙蓉姐来扯一扯 chě yī chě】
オレの耳はむしろ芙蓉姐さんに引っ張ってもらいたい。
倒 (=反而)
<用例> 你有什么理由, 我倒想要听听。
(理由があるって言うなら、それこそ聞いてみたいものだ)

【生意还不错吧】
商売の方はそう悪くないだろ。还 (=比较)
<用例> 长得还不错。(器量はそう悪くない)

【赶圩】 gǎn xū (=赶到集市) 市にやって来る。

【给挑个大的】 大きいのをよく選びなよ。 给 (=好好地)
<用例> 把我的话给记住了。(オレの話をよく覚えとけ)

【运动根子】 社会運動や政治運動に取り組み活動する者。

【四大自由】 sì dà zì yóu
指全国解放后, 在完成了土改的农村中允许农民有借贷、租地、雇工、贸易的自由。
中国共产党高级干部, 邓子恢 1953年提出。

1955年10月,毛泽东在中共中央第七届扩大的第六次全体会议上,
对邓子恢 「四大自由」 的提法提出批评, 说这是资产阶级性质的纲领,
而不是无产阶级性质。确保私有财产、四大自由都是有利于富农和富裕中农的。

1959年4月,第二届全国人民代表大会第一次会议在北京举行。
会议同意毛泽东不再担任国家主席的提议,选出刘少奇为中华人民共和国主席。
刘少奇一上任就再推出 「四大自由」 的政策, 要用市场经济的办法,解决老百姓吃饭穿衣。

四大自由 (よんだいじゆう)
金銭貸借、土地借用、労働雇用、商取引の自由。
1953年に共産党幹部、鄙子恢が提唱した自由化政策であり、
農村経済の活性化を図ったものである。

しかし、1955年10月、毛沢東は第七回共産党中央拡大会議の席上、
四大自由は富農と富裕中農を利するものであると批判し、それ以後 「四大自由」 は
農村における資本主義傾向を示すものとされた。

その後、1959年4月、劉少奇が第二回全国人民代表大会にて国家主席に就任。
再び 「四大自由」 の意義が認められ、これを機に農村経済は映画の場面に見られるように
活況を呈するようになった。

【越闹越邪 xié】(=越搞越糟)
 やればやるほどまともでなくなる。
<用例> 越着急,事情反而会越糟糕 zāogāo。
(焦れば焦るほど、かえってまずくなりがちだ)

【这么好的粮食,也做点像样的吃食】
(=既然是这么好的粮食, 也做点)
良い穀物なんだから、少しはまともな料理を作ってくれよ。

【假领子】 jiǎ lǐng zi
是流行于60年代的一种以装饰性为主要功能的物品,多为年轻人所采用。
其形状为普通衬衣的领子部分再加上两根挎在腋下的带子。
又称节约领。(如图)

代用襟
普通のシャツの襟の部分に二本のひもがついており、わきの下でひもを結んで使用する。
60年代に若者の間で一種のファッションとして流行した。(右図参照)

【低头不见抬头见】
(=指总要经常见面。常用来指说话办事要留情面)
顔見知りのよしみで何事も許しあっていこうじゃないか。

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【口語訳】

タイトル曲 (半升緑豆)
(女性) 半升の緑豆さえ よく選り分けて拾うのに お嫁にゆくときは 選り好みできないの ただただ親の言うがまま。
 母がすべて決めるの あたしの悲しい定めを。

(男性)尽きることなく 流れ続ける河のように わたしの想いは 永遠に お前の心に 生き続けよう。
 ひたすら粉をひき、ひたすらふるいをかける。

(男女)半升の緑豆さえ よく選り分けて拾うのに お嫁にゆくときは 選り好みできないの ただただ親の言うがまま。
 母がすべて決めるの わたしの悲しい定めを。
 ひたすら粉をひき、ひたすらふるいをかける。


1963年初春、ここは山紫水明の地、芙蓉鎮の町。
この日は市の立つ日で、石畳の大通りは、人の波で活気に満ちあふれていた。

働き者で美人の胡玉音 (フー・ユーイン) は、夫の黎桂桂 (リー・クイクイ) と共に
米豆腐の屋台を開いて生計を立てている。

胡玉音はまだ二十五、六の若い女であるが、客あしらいがよく、サービスも行き届いていたため、
屋台には、米豆腐をもとめて次々と客が出入りし、ひときわ賑わいをみせていた。


顧客1   :  芙蓉姐さん、唐辛子をたっぷり入れておくれよ。
顧客2   :  オレには酢をおくれ。

胡玉音 :  いらっしゃい。
顧客3   :  姐さん、ネギのみじん切りを多めに。急いでくれよ。

胡玉音 :  あんた手伝って。
顧客4   :  姐さん、まだかい? 早くたのむよ。

胡玉音 :  はい、おまたせ。
顧客1   :  入れたかい?

胡玉音 :  入れたわよ。辛くてへその穴がヒリヒリするくらいにね。
顧客1   :  ははは、へそがヒリヒリしたら、姐さんが治してくれるのかい?

住民     :  女主人さんよ、米豆腐一杯おくれ。スープを少し多めにね。

胡玉音 :  はいはい。さあ、きょうは暑いから、たっぷりスープをめしあがれ。
住民    :  あれ、姐さんの手は米豆腐より白くて柔らかいな。

胡玉音 :  まあ、いやらしい!さてはここしばらく奥さんに寝台の下に座らされて、耳を引っ張られていないようね?

住民    :  あれれ、どちらかと言えば、君に耳を引っ張ってもらいたいな。ささ、引っ張っておくれよ。
胡玉音 :  ほんとにもう、下品で最低な人ね。

ののしろうと悪態をつこうと、胡玉音の目には優しい笑みが浮かんでいる。
彼女はいつも屋台に来てくれるなじみ客たちに、言葉もかければ笑顔も送り、
まるで自分の兄妹親族に対するように打ち解けていた。

ひとりの町の老婦人がやって来た。胡玉音は、すぐに優しく呼びかける。

胡玉音 :  いらっしゃいませ、おばあちゃん。どうぞ、坐って。
              (なじみの客を追いやって、老婦人に席を譲らせる)  ほらほら立って、席をゆずってちょうだい。

老婦人 :  近ごろどうだね、店は繁盛しているかい?
胡玉音 :  おかげさまで。 (一杯の米豆腐を捧げながら、老婦人の耳にささやく) 唐辛子を多めにしておいたわよ。

老婦人 :  あらあら、ありがとうよ。

胡玉音 :  もうお出かけですか? いってらっしゃい。
顧客    :  また食べに来るよ。

黎満庚 (リー・マンコン) と五爪辣 (ウー・チャオラー) の夫婦が市にやって来た。
二人は胡玉音の米豆腐の屋台の前を通りかかる。
五爪辣は子供を背負っていた。黎満庚は背負いかごに何やらいっぱいに積んでいる。

黎満庚は三十歳前後、本鎮生産大隊の党支部書記である。
彼は軍隊からの転業組で、胡玉音とは幼なじみであり、二人は義兄妹のような仲であった。

住民女 :  おや、満庚の嫁さん。
住民男 :  こんにちは、黎書記。

嫁の五爪辣は子供にピリ辛の焼き串を買い与えている。

露天商 :  大きいのを選んで持っていきなよ。

胡玉音 :  満庚兄さん、いらっしゃい。
住民    :  やあ、黎書記、米豆腐を食べにいらっしゃったか。どうぞ中へお座りください。

胡玉音 :  米豆腐はいかが?
黎満庚 :  一杯たのむよ。

顧客    :  芙蓉姐さん、米豆腐おくれよ。
胡玉音 :  はいはい、分かってますよ。

顧客の女性: 姐さん、お勘定。
黎満庚 :  じゃあ、代わって私が。 玉音、稼いでるかい?

黎満庚の娘: (黎満庚と胡玉音の二人が仲良く談笑するのを見て、母親に告げる) 母ちゃん!
五爪辣 :  (嫉妬で思わず怒り出す) おいで、行くよ!

顧客    :  姐さん、米豆腐一杯。
胡玉音 :  はいはい。


ここは王秋赦 (ワン・チウシャー) の住む河の上に建てられた板張りのぼろ小屋。
王秋赦は、この鎮で名高い 「運動の核」 として知られている。

彼は三十半ば、丸顔に丸い耳がついていて、ふだんは笑みを浮かべた仏像のようにみえる。
もともと貧農出身で、性格は怠惰でつねに食い意地がはっている。

一年中政府の救済食糧に頼り、いっさい金を払わずに得た食べ物で糊口をしのいでいた。
しかし彼の頭の中には 「革命思想」 がかなりあって、
何かの運動を展開する段になると、いつでも旗振り役で活躍したりするのである。

谷燕山 :  王秋赦、寝てるのか?
王秋赦 :  (しぶしぶながらベッドを降りる) いま行く。

谷燕山 :  夜の会議の通知はどうした?
王秋赦 :  すぐやるよ。

谷燕山 (クー・イェンシャン) は、町の食料管理所の主任である。
年はほぼ四十歳、北方生まれの、誠実で飾り気のない男やもめである。

彼は、一昨年の秋、どうしたわけか突然に胡玉音に通知をよこして、市の立つ日は、
食料管理所の精米場からくず米を六十斤分けてあげるから、それで商いをうまくやるように
といってきたのだった。

以来、谷燕山は市の日ごとに客となって、胡玉音がきびきび働き、客たちに応対している姿を
黙って眺めているのが常であった。

しばらくして、こちらは国営食堂。
王秋赦は、支配人の李国香 (リー・クオシアン) に会議の件を知らせるついでに、
食堂の鍋の中をしきりにのぞきこんでいる。

国営板前: 何やってるんだ?
王秋赦 :  李支配人は?

国営板前: (皮肉って) 支配人は鍋の中にはおらんよ。
王秋赦 :  町の重要な知らせだ。遅れたりしたら、お前責任とれるのか?

国営板前: ほう、これっぽっちのことで、そんな偉そうに! あっちじゃないか?
王秋赦 :  国営の商売なのに、役人が来ても、一杯のお茶も出さんのか。

国営板前: おい、鍋にさわるな!
王秋赦 :  (ばつが悪そうに薄笑いする) へへへ。


国営食堂のベランダの上。

国営店員1: まったく世の中どうなってるの。この町の人間は米豆腐を食べたことがないのかしら?

李国香 :  あなた、分かってないわね? 見て分からないの。あの男たちは、
               食い意地がはった猫が魚に群がるのと同じことよ。

国営店員2: ねえ支配人、うちも屋台を出せば絶対にもうかりますよね?
李国香 :  バカね!こっちは国営よ。ちゃんとした穀物商品を並べているの。何よあんな店。

王秋赦 :  李支配人、今夜、幹部会がありますよ。
李国香 :  (いらいらして) 分かっているわよ。この四大自由で世の中ますますおかしくなりそうね。。

李国香は、ふと谷燕山が国営食堂に歩いてくるのを見つけ、親しげに声をかける。

李国香 :  谷 (クー) さん、お忙しい?
谷燕山 :  別に忙しくはないさ。

李国香 :  (あでやかに) ちょっとお話があるの。
谷燕山 :  また食糧を回せ、だろ? こんなに良い米を回してるのに、なんで料理がまずいんだ。

李国香 :  米の配給主任はなかなか厳しいのね。あなたに特上の五陵酒をとっておいたわ。
               こっちへ来て、あなたに二本あげるわ。

谷燕山 :  やめとくわ。国営の料理にネズミのフンが入っとるかもしれんでな。

李国香 :  いじわるね。あなたにネズミのフンを食べさせると思って?
               あら、服の襟が汚れてるわ。洗ってあげる。
               谷さん、今都会では、「代用襟」 が流行っているのよ、知ってらっしゃる?

谷燕山 :  (見て見ぬふりをして) ははは、もういい、分かったよ。
李国香 :  谷さん、晩の会議に遅れないでよ。


米豆腐の屋台で。

顧客    :  谷主任。
谷燕山 :  よう。

胡玉音 :  (喜んで) あんた、谷主任さんよ!
黎満庚 :  谷さん、いらっしゃい。

谷燕山 :  よう満庚。
黎満庚 :  谷主任、どうぞ、たばこを。

谷燕山 :  秋赦 (チウシャー) よ、またタダ食いか?
               秦書田 (チン・シューティエン)  を見ろよ。金を払って店の手伝いまでしてるぞ。
               お前はタダ食いばかりしてないで、少しは見習ったらどうだ。

王秋赦 :  これはおれの名義の土地だ。もし胡玉音に売るとしたら、少なくとも米豆腐三千杯分になる。

谷燕山 :  よく言うた。こいつめ!

顧客    :  食いしん坊で怠け者で、あちこちでうまいことやりおって。それでも金を出さんとはな。

この時、李国香がつかつかと米豆腐の屋台に近づいてきた。
彼女は国営食堂の女支配人である。

このハイミスは、陰険かつ腹黒くつむじ曲がりの性格だった。
ちなみに彼女の叔父は県委員会の財政と貿易を管理する楊民高(ヤン・ミンカオ)書記である。

彼女は、国営食堂の商売がかんばしくないため、胡玉音の米豆腐の屋台を逆恨みしており、
つねづね難癖をつける機会をうかがっていたのである。

李国香 :  許可証はある?
胡玉音 :  (びっくりして) ああ、国営の姐さんね。なにか召し上がる?

李国香 :  許可証よ!
黎満庚 :  どうした?

胡玉音 :  私たちこれっぽっちの商いだけど、ちゃんと税金は納めてますけど。
李国香 :  (一歩ひしと迫って) 営業許可は!

胡玉音 :  町の人たちは誰でも知ってますけど...

李国香 :  私は営業許可証のことを言ってるのよ!
               もしも許可を受けてないのなら、うちの従業員にいいつけてこの屋台を取っぱらうわよ。

顧客    :  (李国香を邪魔する口ぶりで) もう一杯、お代りだ。 早くおくれよ!
顧客    :  (谷燕山を見て) なあ、何か言ってやれよ。

谷燕山 :  (仲裁にくる) おいおい、もういいだろ! いつも町中で顔を合わせている仲間じゃないか。
                何かあれば役所だの税務署に行って話せばいいじゃないか。そうだろ?

黎満庚 :  そうだな。
老婦人 :  (わざと話に割り込んで) ここの米豆腐はうまいからね。
顧客    :  そうさね。

黎満庚 :  国香、晩の幹部会の通知はいったかい?

李国香 :  (すねるように言う) 私が知らないと思って、よそ者だからってみんなバカにして。もういいわよ。