ジャン・ギャバン(Jean Gabin)

生年月日 : 1904/05/17
出身地 : フランス/パリ
没年 : 1976/11/15

1930年、ルネ・プジョール監督の「誰もが勝つ(Chacun sa chance)」で映画デビュー。

1934年、ジュリアン・デュヴィヴィエ監督の「白き処女地」に主演、一躍スターの座を占める。

1954年、ジャック・ベッケル監督の「現金に手を出すな」に主演、ベネチア国際映画祭男優賞を受賞。

その後も「ヘッドライト 1956」「地下室のメロディー 1963」「暗黒街のふたり 1973」など、
話題作に出演、深みのある演技と渋い容貌で人気を博した。




代表作品

    地の果てを行く(La Bandera)1935年(仏)

パリで殺人を犯したピエール(ギャバン)は、追跡の手を逃れ、モロッコで外人部隊に入る。隊の中には
リュカスと名乗るフランス人がいた。彼が警察の手先ではないかと疑ったピエールは、砂漠の奥地へ転任する。

転任先でピエールは、砂漠の現地娘・アイシャ(アナベラ)と恋に落ちて結婚する。
幸せで落ち着いた日々も束の間、ピエールの後を追って、リュカスが姿を現す。

国籍や前歴など一切問わない外人部隊は、亡命者や犯罪者、食い詰め者などのたまり場ともなっていた。

ジャン・ギャバンが扮した外人部隊兵士は殺人犯だったが、前歴を隠して外人部隊に入り、やがて戦死
というロマンチシズムは、いくつもの映画で繰り返されている。
1930年スタンバーグ監督の「モロッコ」や、1933年ジャック・フェデー監督の「外人部隊」が特に有名だ。

(監督)ジュリアン・デュヴィヴィエ(Julien Duvivier)(出演)ジャン・ギャバン(Jean Gabin)
ロベール・ル・ヴィーガン(Robert Le Vigan)アナベラ(Annabella)
       
       
    我等の仲間(La belle equipe)1936年(仏)

ある日、失業中の五人の男たちが買った宝くじが、まさかの大当たり。10万フランもの大金を手にした彼らは、
小川のほとりに建つオンボロの山荘を購入し「我らの家」と命名。手直してレストランを開業しようとする。
しかし、やがて仲間はひとり去り、ふたり去りして減っていき、最後に残された二人も仲たがいしてしまう。

大金が転がり込んだことは、彼らの幸福に必ずしも直結しなかった。友情を阻害する個々の欲望や嫉妬といった
ネガティブな感情が次々と浮かび上がっていく。レストランの開業を前にした二人の間に、一人の女をめぐって
三角関係が生じてしまう。彼らを掻き回す悪女を演じたヴィヴィアーヌ・ロマンスの存在感が傑出している。

(監督)ジュリアン・デュヴィヴィエ(Julien Duvivier)(出演)ジャン・ギャバン(Jean Gabin)
シャルル・ヴァネル(Charles Vanel)ヴィヴィアーヌ・ロマンス(Viviane Romance)
 
       
       
    どん底(LES BAS-FONDS)1936年(仏)

親譲りの盗っ人ペペル(ギャバン)は、場末の木賃宿をねぐらにしている。彼がある屋敷に忍び込むと、
その主である男爵(ジューヴェ)は自殺を図ろうとしていた。
ペペルと男爵は意気投合してしまい、これをきっかけに男爵は、木賃宿の住人に加わるのだが…。

ゴーリキーの悲劇「どん底」の映画化だが、ルノワール監督は、結末をハッピーエンドにしてしまった。
原作の大幅な改変のため、おそるおそる許可を求めたところ、ゴーリキーはまったく異議をとなえず、
そのまま承諾したという。

底辺の住人が身を寄せる木賃宿が舞台だが、人生の吹きだまりの縮図というより、そこに到着する人々と、
そこから抜け出したいと願う人々の、出会いと交錯の場といった印象の強い映画である。

(監督)ジャン・ルノワール(Jean Renoir)(出演)ジャン・ギャバン(Jean Gabin)
ルイ・ジューヴェ(Louis Jouvet)シュジー・プリム(Suzy Prim)ジュニー・アストル(Junie Astor)
 
       
       
    望郷(Pepe le Moko)1937年(仏)

フランス領アルジェリアのカスバ。ボスとして君臨するぺぺ(ギャバン)は、前科15犯のお尋ね者。
パリ警察は執拗に追跡を続けるが、ペペは、カスバの住民に守られながら間一髪で逃れる。

ある日ペペは、カスバ見物に訪れたパリジェンヌのギャビー(バラン)を一目見て恋に落ちる。

彼女を利用してペペを逮捕しようと目論む警察は、ペペが殺されたとの知らせをギャビーに告げる。
彼女は悲嘆にくれ、パリに戻ることを決意。ペペは危険を承知で、ギャビーを追って波止場に向かう。

ペペは過去の思い出に生きる男だった。現状が辛ければ辛いほど、思い出は美化されてしまう。
彼はギャビーに「君はメトロの匂いがする」と告げる。当時、地下鉄がある街はパリだけだった。
彼の望郷の思いは、女への愛と一体となり、それが彼自身の破滅につながってしまったのである。

(監督)ジュリアン・デュヴィヴィエ(Julien Duvivier)
(出演)ジャン・ギャバン(Jean Gabin)ミレーユ・バラン(Mireille Balin)
       
       
    大いなる幻影(La Grande Illusion)1937年(仏)

第一次大戦中、フランス軍のマレシャル中尉(ギャバン)は、ドイツ軍の捕虜になる。
収容所のマレシャルは、相棒の将校と脱出をはかり、雪山を越えて、スイスを目指す。

マレシャルは「戦争を終えて、愛する人と平和に生きたい」と願う。だが彼の相棒は
「人間は戦いを繰り返すから、戦争を終えたいという夢は、幻影なのだ」と言う。

戦争はいつの時代でも愚かしいが、それを繰り返す人間もまた、愚かの極みであると、
ルノワールは登場人物に言わせているのだ。

本作は、1938年(昭和13年)日本公開の予定だったが「反戦的色彩濃厚なり」という
理由で上映禁止となり、戦後の1949年(昭和24年)に、ようやく公開が実現した。

(監督)ジャン・ルノワール(Jean Renoir)(出演)ジャン・ギャバン(Jean Gabin)
ピエール・フレネー(Pierre Fresnay)エリッヒ・フォン・シュトロハイム(Erich von Stroheim)
       
       
    霧の波止場(LE QUAI DES BRUMES)1938年(仏)

脱走兵のジャンは、霧深い港町で出会った女(モルガン)と恋に落ちる。彼女は名付け親に
しつこくつきまとわれて困っていた。二人は身分を変え、ベネズエラに渡ろうとするが…。

セリフは、フランス映画ではとても大事だ。男がキザで甘ったるいセリフを吐けば、ヒロインは
機知に富んだセリフを返す。ギャバンは、キザなセリフがよく似合う役者だった。

彼は、ならず者の手にかかって殺されてしまうのだが、撃たれたギャバンにヒロインが駆け寄る。
と、瀕死のギャバンが言う「早く、早くキスしてくれ。時間がない」

最高にキザなセリフだが、見事にサマになってしまうのもギャバンならでは、としか言いようがない。

(監督)マルセル・カルネ(Marcel Carne)(出演)ジャン・ギャバン(Jean Gabin)
ミシェル・モルガン(Michele Morgan)ミシェル・シモン(Michel Simon)
 
       
       
    陽は昇る(Le Jour se leve)1939年(仏)

一発の銃声が鳴り響き、一人の男が螺旋階段から転がり落ちてくる。殺した男(ギャバン)は部屋に
立て籠り、警察の要請にも応えない。やがて男は、過去を回想しながら、自ら命を絶つ。

第二次大戦直前に公開された本作は、時代の陰うつな気分を反映している。運命に弄ばれ悲劇へと
向かう主人公フランソワは、おそらくフランス国家そのものを指しているのだろう。

第三共和政の成立後、1930年代までは、労働者の権利が進展し、豊かで希望に満ちた時代だった。
だが一転して、ナチス・ドイツによる政治的圧迫感が、国内に暗い影を落としつつあった。

ギャバン演じる主人公は、小さな幸せを掴み取ろうとしたのだが、殺人を犯してしまったことで、
警察に取り囲まれてしまう。民衆は彼を助けたいのに、すべてが無力なことが、ただただ悲しい。

(監督)マルセル・カルネ(Marcel Carné)(出演)ジャン・ギャバン(Jean Gabin)
アルレッティ(Arletty)ジャクリーヌ・ローラン(Jacqueline Laurent)
 
       
       
    現金(げんなま)に手を出すな(Touchez pas au Grisbi) 1954年(仏/伊)

初老のギャング、マックス(ギャバン)は、相棒のリトンと組んで、5千万フランの金塊強奪に成功する。
そのことを知った敵対するギャングは、リトンを捕らえマックスから金塊を奪おうとする。
相棒を誘拐されたマックスは、最後の仕事としてリトンの救出に向かうが…。

若い相棒の命と引き換えに、せっかく奪った金をあきらめる老ギャングにジャン・ギャバンが扮している。

オレは情に弱くていけないとブツブツ言いながら、体を張って相棒の救出に向かう姿が粋でかっこいい。
こんな役では彼の右に出るものはいない。このとき五十歳。男の哀愁をにじませて、貫禄十分。

(監督)ジャック・ベッケル(Jacques Becker) (出演)ジャン・ギャバン(Jean Gabin)
ルネ・ダリー(Rene Dary)ジャンヌ・モロー(Jeanne Moreau)
       
       
      ヘッドライト(Des Gens Sans Importance)1956年(仏)

初老のトラック運転手ジャンは、食堂の若い女給と恋に落ちる。ジャンが若い恋人と新しい人生を
踏み出そうとしたとき、ジャンは失業、彼女は妊娠していた。

しっとりと濡れたような白黒の映像が、いかにもフランス映画らしい情緒を醸し出している。
ギャバンが、くたびれた中年のトラック運転手を絶妙に演じており、ヒロインのアルヌールが、
父親のいない貧しい境遇だが、明るく生きる田舎娘を健気に演じている。

街道の食堂で出会った二人は、いつしかごく自然に温かい愛情が通い合う。親と子ほど年が
離れているのに、安らぎを求め合う二人の思いが伝わり、観客の心をしっかりとらえている。

(監督)アンリ・ヴェルヌイユ(Henri Verneuil)
(出演)ジャン・ギャバン(Jean Gabin)フランソワーズ・アルヌール(Francoise Arnoul)
 
       
       
      レ・ミゼラブル(Les Miserables)1958年(仏/伊)

ひと切れのパンを盗んで投獄されたジャン・バルジャン(ギャバン)は、19年の刑期を務めて出所。
あてもなく歩き続けると、目線の先には、教会が見えてきた。司教ミリエルは、彼を温かく迎えいれる。
翌朝、ジャンの姿はなく、銀の食器もなかった。彼は憲兵に捕まり、司教の前に連れて来られた。

司教は「これは私が、この人に差し上げたものです」と一言。ジャンも、憲兵たちも驚く。
司教は建物に入ると、二本の銀の燭台を手に持ち、すぐさま戻ってきた。
「これも差し上げましょう」そう言うと、ジャンの手のひらに、それを置いたのだった。
ジャンを解放すると、憲兵たちは、キツネにつままれたような顔で、立ち去っていった。

「どうして … 何故なんです?」訳の分からないジャンは、理由を訊ねる。
司教は「私は、これであなたの『魂』を買ったのですよ」と言うのだった。

(監督)ジャン=ポール・ル・シャノワ(Jean‐Paul Le Chanois)(出演)ジャン・ギャバン(Jean Gabin)
ベルナール・ブリエ(Bernard Blier)フェルナン・ルドゥー(Fernand Ledoux)
 
       
       
    地下室のメロディー(MELODIE EN SOUS-SOL)1963年(仏)

刑を終えて出所したシャルル(ギャバン)は、カジノの賭金強奪を最後の仕事にしようとする。

相棒として、刑務所で知り合ったチンピラ青年(ドロン)と、その義兄を仲間に引き入れる。
周到に用意をして、遂に決行。どうにか札束を鞄に詰めて持ち出すことに成功したが…。

出所したばかりだが、性懲りもなくカジノの現金強奪を目論む老ギャングに名優ギャバンが扮する。
その相棒となる若いチンピラをドロンが演じ、金持ちの青年を装い、カジノのホテルに滞在する。

ギャバンは、あれこれ指図するだけで、強奪までのほとんどの下準備はドロンが整える。
これで分け前が等分なのは、不公平の気もするが、結局、年の功という事なのだろう。

(監督)アンリ・ヴェルヌイユ(HENRI VERNEUIL)(出演)ジャン・ギャバン(JEAN GABIN)
アラン・ドロン(ALAIN DELON)モーリス・ビロー(MAURICE BIRAUD)
 
       

誰もが勝つ(Chacun sa chance)1930年
グロリア(Gloria)1931年
ヴァレンシアの星(The Star of Valencia)1933年
さらば美しき日々(Adieu les beaux jours)1933年
上から下まで(Du haut en bas)1933年
トンネル(Le tunnel)1933年
白き処女地(Maria Chapdelaine)1934年
はだかの女王(Zouzou)1934年
ゴルゴダの丘(Golgotha)1934年
地の果てを行く(La Bandera)1935年
我等の仲間(La belle équipe)1936年
どん底(Les bas-fonds)1936年
望郷(Pépé le Moko)1937年
大いなる幻影(La grande illusion)1937年
愛慾(Gueule d'amour)1937年
霧の波止場(Le quai des brumes)1938年
獣人(La bête humaine)1938年
珊瑚礁(Le récif de corail)1939年
陽は昇る(Le jour se lève)1939年
曳き船(Remorques)1941年
夜霧の港(Moontide)1942年
逃亡者(The Impostor)1943年
狂恋(Martin Roumagnac)1946年
面の皮をはげ(Miroir)1947年
鉄格子の彼方(Le mura di Malapaga)1948年
港のマリィ(La Marie du port)1950年
夜は我がもの(La nuit est mon royaume)1951年(ベネチア国際映画祭男優賞)
愛情の瞬間(La minute de vérité)1952年
ラインの処女号(La vierge du Rhin)1953年
現金に手を出すな(Touchez pas au grisbi)1954年(ベネチア国際映画祭男優賞)
われら巴里っ子(L'air de Paris)1954年(ベネチア国際映画祭男優賞)
フレンチ・カンカン(French Cancan)1954年
筋金を入れろ(Razzia sur la Chnouf)1955年
その顔をかせ(Le port du désir)1955年
首輪のない犬(Chiens perdus sans collier)1955年
地獄の高速道路(Gas-oil)1955年
ヘッドライト(Des gens sans importance)1956年
殺意の瞬間(Voici le temps des assassins)1956年
罪と罰(Crime et châtiment)1956年
パリ横断(La traversée de Paris)1956年
医師(Le cas du Dr Laurent)1957年
赤い灯をつけるな(Le rouge est mis)1957年
殺人鬼に罠をかけろ(Maigret tend un piège)1958年
レ・ミゼラブル(Les Misérables)1958年
夜の放蕩者(Le désordre et la nuit)1958年
可愛い悪魔(En cas de malheur)1958年
大家族(Les grandes familles)1958年
放浪者アルシメード(Archimède, le clochard)1959年(ベルリン国際映画祭銀熊賞)
サン・フィアクル殺人事件(Maigret et l'affaire Saint-Fiacre)1959年
子供たち(Rue des Prairies)1959年
ギャンブルの王様(Le baron de l'écluse)1960年
親分は反抗する(Le cave se rebiffe)1961年
冬の猿(Un singe en hiver)1962年
エプソムの紳士(Le gentleman d'Epsom)1962年
地下室のメロディー(Mélodie en sous-sol)1963年
メグレ赤い灯を見る(Maigret voit rouge)1963年
皆殺しのバラード(Du rififi à Paname)1965年
太陽のならず者(Le soleil des voyous)1967年
パリ大捜査網(Le pacha)1967年
刺青の男(Le Tatoué)1968年
シシリアン(Le clan des Siciliens)1969年
ジャン・ギャバン/ドン(La horse)1970年
猫(Le chat)1971年(ベルリン国際映画祭銀熊賞)
事件(L'affaire Dominici)1973年
暗黒街のふたり(Deux hommes dans la ville)1973年
愛の終わりに(Verdict)1974年
脱獄の報酬(L'année sainte)1976年