愛より愛へ   1938年 (昭和13年)       邦画名作選

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親に結婚を反対された茂夫は、家出をして美耶子とアパートで暮らしていた。

無名作家の茂夫は、毎日売れない原稿を書き、美耶子は女給をして生活する日々だった。


ある日、茂夫は定職を探そうと叔父を訪ねるが、逆に美耶子と別れるよう説得される。

一方、茂夫のアパートを訪れた妹・俊子は、気立てのよい美耶子と対面して好意を持つ。

俊子は、両親になんとか二人の結婚を許すようもちかけるのだが…。



売れない小説家が、酒場の女給との結婚を親に反対され、アパートで同棲する。

それを妹が心配して和解を図るという小品メロドラマだが、佐野周二と高杉早苗の間で
交わされる才気に富んだ会話の妙で、忘れがたい一篇となっている。


ヒロイン美耶子を演じた高杉早苗は、当時19歳。おきゃんな下町娘役が多かった彼女だが、
本作では、清楚でしっかりした日本的な女性を好演している。

色々な役を演じられる芸達者な女優で、桑野通子と人気を争っていたが、この年の12月に引退して
市川段四郎と結婚。梨園の奥様に納まってしまい、ファンをがっかりさせてしまった。


映画の中で、茂夫たちが銀座の映画館で、ベルリンオリンピックの記録映画「オリンピア」を観る場面がある。

ベルリンオリンピックの当時はテレビが存在せず、ラジオ中継のみであったが、競泳の前畑をはじめ、
日本は六つの金メダルを獲得し、真夜中にラジオ中継を聴いていた当時の日本人を熱狂させた。


記録映画「オリンピア」は、松竹が上映権を獲得したもので、映像が公開されてまた大変な評判となった。

「オリンピア」はドイツの国策映画であったが、二年後の昭和15年12月、日独伊三国同盟が結ばれる。

当時日本人の最大の娯楽であった映画を国家が管理していたという時代背景が垣間見えるのである。


   

  製作  松竹

  監督  島津保次郎
 

  配役 谷川茂夫 佐野周二 茂夫の父 水島亮太郎       影山    河村黎吉 
  美耶子 高杉早苗 茂夫の伯父 坂本武            
  茂夫の妹俊子 高峰三枝子 茂夫の母 葛城文子            

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