あにいもうと 1953年(昭和28年) 邦画名作選
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都会に出た長女・もん(京マチ子)が、久しぶりに実家に帰って来た。
季節は夏。カンカン照りの田舎道を、日傘をさしながら歩いてくる。
次女・さん(久我美子)も、都会に出ていて、お盆なので帰って来た。
ところが、もんは、年下の男の子供をはらんで帰って来たのだった。
兄の伊之吉(森雅之)は、妹・もんの自堕落に腹を立て、殴りつける。
実を言えば、わざと年とった両親の前で妹を責め、悪態をついたのである。
妹思いの兄は、親たちの同情が妹に集まるように仕向けたのだった。
そのおかげで妹は、母のとりなしで家に居つけるようになったのだが、
妹のほうは、すっかり不貞腐れて、反抗的になるのだった。
翌年、相手の男・小畑(船越英二)が訪ねて来て謝るが、伊之吉は承知しない。
無抵抗の小畑をさんざん痛めつける。
やがて、妹のもんが帰って来て、その話を聞き、兄に喰ってかかる。
私の男に、何だって手を掛けたのだ。兄と妹は、掴み合って争った。
しかし、激しく喧嘩をしながらも、彼らには、これが彼ら流の兄妹愛の
表現だということが、分かっているのであった。
1934年(昭和9年)文芸春秋に掲載された室生犀星の同名小説の映画化。
多摩川べりの田園地帯を舞台に、石工の兄・伊之吉が、妹・もんに見せる
粗野だが深い肉親の情愛が描かれる。
がさつで乱暴な兄を、森雅之が演じているのは珍しいが、さすがの名演を披露。
長妹・もんを演じた京マチ子の、無知な女の意地を強烈に打ち出した大芝居と、
森雅之の凄みとが絡み合って、強い迫力を生み出している。
また、末妹・さんを演じた久我美子の清楚で可憐な魅力が光っていた。
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製作 大映
監督 成瀬巳喜男 原作 室生犀星
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