あ・うん 1980年(昭和55年) ドラマ傑作選
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水田仙吉(フランキー堺)は、製薬会社勤めのつましいサラリーマンである。
一方、門倉修造(杉浦直樹)は、軍需景気で羽振りのいい中小企業の社長だ。
二人は、無二の親友で、二十数年来の付き合いを続けている。
その水田が、三年半ぶりに転勤で上京し、家族と共に東京に戻って来た。
新居となる目黒の自宅は、門倉が用意してくれていた。
その夜、駆けつけた門倉の音頭取りで、引っ越し祝いが始まる。
ラジオは、軍縮ニュースを報じており、祝いの席は時局の話題に花が咲いた。
折からの軍需景気で、門倉の会社は笑うほど儲かっているという。
その門倉は、実は水田の妻たみ(吉村実子)を密かに愛している。
たみも亭主は大事なのだが、実は門倉のことを密かに想っている。
水田も、そんな二人の関係を何となく察してはいるが、口にはしない。
突然たみが口を押えて台所に走り込む。たみは妊娠していたのだった。
宴席後、水田と門倉は、外の屋台で再び祝い酒を酌み交わす。
「女の子が生まれたら。俺にくれないか」突然、門倉が告げる。
門倉には子供がなかったのだ。
「男だったら勘弁してくれ。女だったら喜んで進呈する」と水田。
水田は家に帰り、妻のたみにそのことを報告する。
すると、夫婦の間に微妙な空気が流れるのであった。
1980年、向田邦子の脚本によるドラマ。翌年文藝春秋から同名小説が刊行された。
「あ・うん」とは、神社を守る狛犬のことで「阿吽の呼吸」を意味している。
そのタイトルに象徴されるのが、フランキー堺と杉浦直樹が演じる、容姿も
性格も正反対だが、固い友情で結ばれた水田と門倉である。
門倉は水田の妻を密かに想い、水田も妻もそれとなく察していながら口にしない。
そんな三人が織りなす微妙な人間模様を、こまやかに描いた向田邦子の脚本を、
演出家の深町幸男が見事に映像化している。
三人が同じこたつの中にいる時、寝ている修造の足の方へゆっくりと自らの足を
近づけようとするたみの繊細な身ぶりなど、印象的なシーンが数多い名作である。
本作は、昭和初期の東京・山の手が舞台。当時の風俗や暮らしの情景が随所に
描かれており、それがドラマに効果的な味わいを醸し出している。
(制作)NHK(脚本)向田邦子
(配役)水田仙吉(フランキー堺)門倉修造(杉浦直樹)水田たみ(吉村実子)水田初太郎(志村喬)
水田さと子(岸本加世子)門倉君子(岸田今日子)三田村禮子(池波志乃)
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「弦楽とオルガンのためのアダージオ」(アルビノーニ)