風流活人剣   1934年(昭和9年)     邦画名作選
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篠原求馬(片岡千恵蔵)は、傘張りの内職で長屋暮らしをする、しがない浪人である。 

ある日、喧嘩友達の大倉鉄心(田村邦男)と、気晴らしに講談の寄席に出かけた。

講談は、宝の島とされる銭五島の一席。島には35万両もの財宝が隠されているという。

鉄心は、その宝島の話を信じた様子。これを求馬が笑った。じつは求馬は親の仇を探す身。

一生かかって親の仇を探す奴もある世の中、と逆に鉄心からクサらされた求馬だった。


寄席からの帰り道、救馬と鉄心は、追われて逃げる巾着切のお蘭に体をぶつけられる。

実はそのときお蘭は、財宝が隠されている宝の地図を、逃げる最中に鉄心の懐に入れたのだ。


そのあと二人は、偶然にも川に浮きつ沈みつする娘・お京(山田五十鈴)を発見する。

二人は、お京を助けて長屋に連れ帰り介抱する。

聞けば、廻船問屋・加賀屋の手下の者に襲われ、やむなく川に飛び込んだという。

加賀屋は、お京が持っていた銭五島の絵図面を探し求めていたのだった。

だがその絵図面は、寄席小屋の手前で、女のスリに奪われてしまったという。


結局、お京は救馬の部屋で養生することになり、救馬は隣の鉄心の部屋に居候。

その部屋と部屋の間に穴が開いているので、懐に入っていた例の地図で、その穴を塞いだ。

実は財宝の地図だったが、求馬、鉄心もとよりそんな大それたものとは知る由もなかった。




1933年、大衆雑誌「富士」に連載された野村胡堂の同名時代小説の映画化。

35万両の財宝の在処を示した絵図面をめぐり、それを狙う加賀屋一味とのドタバタ争奪戦、
主人公・求馬と娘・お京との恋模様などが軽妙なコメディタッチで描かれる。


じつは野村胡堂の原作は、隻腕沈鬱の浪人を主人公とする一大剣豪小説であった。

ところが山中貞雄は、主人公は長屋で貧乏暮らしをする傘張り浪人で、同じくその友人の
浪人は居酒屋の盃コレクターという設定にしてしまった。


山中得意の剣豪物のパロディ化であり、裏長屋に住む失業浪人の生活の中に、現代人の
抱える憂鬱や葛藤といった精神的ストレスを反映させているのだ。

本作「風流活人剣」は、後に続く「丹下左膳余話」「人情紙風船」といった、いわゆる
長屋物と言われる江戸の小市民映画の第一作に位置づけられる作品となっている。

だが、残念な事に本作は、現在ではフィルムが散逸し、数秒の断片が残るのみとなっている。



 
 
 製作   千恵蔵プロ  配給 日活

  監督   山中貞雄  原作 野村胡堂

  配役    篠原求馬 片岡千恵蔵 大伴猿右衛門 尾上華丈
      お京 山田五十鈴 巾着切のお蘭 水之江澄子
      大倉鉄心 田村邦男 加賀屋七兵衛 瀬川路三郎
      横山新太郎 田中春男 新居勘左衛門 香川良介

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