限りなき前進 1937年(昭和12年) 邦画名作選
二十四年勤続の保吉は、毎日キチンキチンと会社へ行く。
娘はデパートへ勤め、妻は良妻賢母という平凡なサラリーマンである。
が、ある日突然、降って湧いたような停年制の脅威。
だが保吉は、部長に栄転し、型通りの上流生活を満喫する。
が、実はそれは夢だった。現実に戻った彼は発狂してしまう…。
物語は、平凡で実直なサラリーマンが停年を言い渡され、マイホームの夢破れて発狂するが、
狂った頭の中には、自分が部長になった幻想だけが生きている、という内容である。
内田吐夢がサラリーマンのささやかな夢と悲哀を描き出し、骨太な作品に仕上げている。
宝塚のトップスターであった轟夕起子が日活に入ったのは昭和12年である。
破格の契約金による引き抜きだったため、世間を驚かせ大事件となった。
日活での初出演は「宮本武蔵」のお通役で、武蔵は片岡千恵蔵である。
これは千恵蔵の、お通役にぜひとも轟夕起子をという願いがあってのことだった。
轟夕起子のお通は好評であったが、続く「限りなき前進」で彼女の真価が発揮された。
轟が演じる現代娘には苦労をへとも思わない明るさがあった。
支那事変が勃発し、次第に濃くなる戦争の影を気にする若者たちの不安を吹き飛ばすほどの
快活さが轟の笑顔には満ち溢れていた。彼女は一躍、若者たちの希望の灯となったのである。
製作 日活
監督 内田吐夢