家庭日記 1938年 (昭和13年) 邦画名作選
修三(佐分利信)は打算的な男だった。学資のために恋人と別れて金持ちの娘と結婚するつもりだ。
修三は恋人の紀久枝(三宅邦子)に「俺は親が薦める女性と結婚するから別れよう」と切り出す。
そうすれば先方の親が学資を出してくれるというのだ。修三は貧しい医学生だった。
一方、修三の親友の一郎(上原謙)は、開業医の一人息子で、カフェの女給をしている恋人がいる。
一郎と恋人の卯女(桑野通子)は結婚するつもりでいたが、一郎の父親の猛反対に遭う。
だが一郎の決心は固く、親の反対を押し切って、二人で中国大連に駆け落ちしてしまう。
1938年「毎日新聞」に連載された吉屋信子の同名小説を、清水宏が映画化。
女を平気で裏切るような男が幸福な家庭生活を営み、妻に対して忠実な男が却って妻から
裏切られてしまうという不条理な現実が描かれている。
当時、松竹の若手ナンバーワン女優・桑野通子が、カフェの女給上がりの女を演じている。
相手方の実家の猛反対にもめげず、医学生の上原謙との愛を貫き、二人で駆け落ちする。
戦前の日本でカフェの女給といえば、いわゆる風俗営業の店で働く職業婦人を意味する。
つまり「あんなところで」働く女を、息子の嫁になど、とんでもないということである。
二人の駆け落ち先が、中国の大連というのも、これまた当時の時代を反映している。
中国への移民は、植民地に人口を増やし、国力を確固たるものにするという国策だった。
新聞やラジオと同じく、映画会社は率先して、大本営の御先棒を担いでいたのである。
製作 松竹
監督 清水宏 原作 吉屋信子