雲ながるる果てに   1953年(昭和28年)      邦画名作選
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学徒兵たちは、特攻隊の基地(鹿児島県知覧)のある地元の小学校を宿舎にしていた。

ある休日、彼らは子供たちと一緒に、女の先生(山岡久乃)のオルガンの周りに集まる。

学徒兵のひとり(清村耕次)が、オルガンの前にすわり「箱根八里」を弾く。

たどたどしい演奏だが、子供たちも女の先生も一緒に歌ってくれた。

死を目前にした特攻隊員たちは、束の間の童心に返るのだった。

そして彼らは、天皇や大日本帝国のためではなくて、小学校のオルガンを弾いている

女の先生や歌っている子供たちのためなら命を捨てられると、自ら納得するのだった…。




本作は戦争末期、あたら若い生命を「神風特攻隊」という美名の下に、徒らに散らせて
いった学徒兵たちの短い青春とその悲劇を描いた物語である。


前線基地に集まった若者たちは、昨日までは学生で、軍人でも飛行機乗りでもなかった。

それがにわか仕立ての飛行兵となり、額に日の丸の鉢巻きを締め、颯爽と機上の人となり、
南の海に徘徊する敵の艦隊に体当たりするために飛んでゆくのである。


彼らは、名誉ある死の出撃命令が下るまで、どう考えたら納得して死ぬことができるかと
苦しみ続ける。

残り少ない時間を、恋人と過ごす者、酒びたしになってしまう者、静かに本を読んで
最後まで学徒でありたいと念ずるもの。

そうした若者たちの命がけの短い時間が、これほど切実に描かれた作品はなかった。


監督の家城巳代治は、これらの様々な思いを胸に秘めた学徒兵たちの姿を、生身の人間の
ドラマとして描く中に、戦争への憎しみと悲しみを強く訴えている。


本作はその後、数多く制作された特攻隊ものの原型となった。また脚本を書いた直居欽哉は
かつて特攻隊員として出撃したものの、機体の故障のために生還した経験を持っている。





  製作  新世紀映画  配給  松竹

  監督  家城巳代治(いえき みよじ)

  配役 大瀧中尉 鶴田浩二 北中尉 清村耕次         瀬川道子   山岡久乃
      深見中尉 木村功 岡村中尉 金子信雄        
  深見の母 山田五十鈴 倉石参謀 岡田英次        

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