大正初期、日本橋には二人の名妓がいた。
勝ち気な稲葉家お孝(淡島千景)と、物静かな滝の家清葉(山本富士子)である。
医学士の葛木(品川隆二)は、長い間、清葉への思いを胸に秘めてきた。
ある日、ついにその心の内を彼女に打ち明ける。
だが清葉は、旦那も子供もある身、葛木の思いを受け入れることができなかった。
傷心の葛木は、偶然行き会ったお孝と枕を交わすことになる。
お孝は清葉と張り合っており、清葉に振られた男を次々と誘惑してものにしていた。
葛木も、そんな男のひとりのつもりだった。
だが、お孝は思いもかけず葛木への真実の愛に目覚めてしまった。
お孝は葛木の妻になりたいと願うが、彼女には腐れ縁の情夫・五十嵐伝吉がいた。
伝吉がしつこく付きまとうので、結局、葛木は傷心してお孝の元から離れて行ってしまう。
日本橋の花柳界で、一、二を競い合う美人芸者、お孝と清葉をめぐる愛憎劇。
淡島千景と山本富士子との競演の形で、淡島が稲葉家お孝、山本が滝の家清葉という
日本橋芸者に扮している。
淡島千景は、日本橋の生まれで、気っぷのいい下町気質を体現した稲葉家お孝を、
まさにはまり役で演じている。
姉御肌の淡島に対して、あでやかなポーズを決めてゆく山本には、対照的な瑞々しさ
があり、幼い頃からの日舞の修練が、演技に活かされているように感じられる。
本作は、泉鏡花の新派悲劇の映画化だが、空中を扇が舞う場面など、市川崑の斬新な
演出によって、鏡花の幽玄世界を、見事に視覚化することに成功している。
製作 大映
監督 市川崑 原作 泉鏡花
配役 | 稲葉家お孝 | 淡島千景 | 葛木晋三 | 品川隆二 | |||||||||
滝の家清葉 | 山本富士子 | 五十嵐伝吉 | 柳永二郎 | ||||||||||
お酌お千世 | 若尾文子 | 笠原信八郎 | 船越英二 |