奥様に知らすべからず 1937年(昭和12年) 邦画名作選 |
田園調布の横山氏(斎藤達雄)は、妻に頭が上がらない恐妻家である。
妻のふみ子夫人(岡村文子)は、目下ダイエットに励んでいる最中だ。
美容体操を試みたり、料理のカロリーを減らしたりしている彼女は、
夫を「鈍感なロバ」とあだ名して、普段は略して「ドンロバ」と呼ぶ。
ドンロバ君は、そんな妻にたまりかねて、専らカフェー通いに余念がない。
一方、同じ社交クラブに出入りしている麹町の川田氏(坂本武)も恐妻家だ。
彼もまた、妻のみつ子夫人の尻に敷かれる境遇に嫌気を差して、憂さ晴らしに
夜のネオン街に繰り出すのだった。
ある日、ふみ子夫人は、デパートで、みつ子夫人と一悶着を起こす。
どうしても怒りの収まらないふみ子は、夫の横山に訴える。
そして、みつ子の夫との決闘をけしかけるのだった。
決闘する羽目になった恐妻家の夫二人は、自分は闘いたくないため代役を立てる。
代役のひとりが ボクサー役の笠智衆。強そうに見えないが、強いという設定だ。
この笠智衆の「らしくない演技」も、本作の見所のひとつとなっている。
結局、代役の二人は、殴りあうのは馬鹿らしいと、両方とも勝ったと雇い主に報告。
家に戻った夫二人は、決闘して勝利したと告げる。すると妻の態度はすっかり軟化するのだった。
恐妻家の悲哀をコミカルに描いた渋谷実の監督デビュー作。
中流家庭の倦怠した夫婦生活を皮肉った喜劇で、軽妙でナンセンスな描写が際立っている。
そして何よりも、斎藤達雄、岡村文子、坂本武、吉川満子、笠智衆等、松竹大船の誇る
名優たちの好演が加わり、洒脱さと風刺に溢れた小市民劇に仕上がっている。
製作 松竹
監督 渋谷実
配役 | 横山氏 | 斎藤達雄 | 川田氏 | 坂本武 | |||||||||
ふみ子夫人 | 岡村文子 | みつ子夫人 | 吉川満子 | ||||||||||
女中・お初 | 水戸光子 | 女給・春江 | 東山光子 | ||||||||||
芸者・蔦丸 | 坪内美子 | ボクサー | 笠智衆 |