女が階段を上る時 1960年(昭和35年) 邦画名作選
矢代圭子は夫を亡くして、銀座のバーで雇われマダムとして働いている。
ホステスだったユリが独立して店を出したことから、圭子の店の売上が落ちる。
ユリに上客を取られた彼女は、資金繰りに奔走するのだが…。
東京オリンピックを四年後に控えた昭和35年、戦後復興を遂げ、高度成長期へと突入していった時代。
夜の遊びも、これまでの芸者遊びから、バーやキャバレーへと移行し、会社の経費で飲み食いできる
社用族と呼ばれる客層で、銀座の街は賑わっていた。
当時の銀座には、数百ものバーが存在し、ホステス(当時は女給)の数も一万人を超えていたという。
高級バーに勤める女の幸せは結婚か店を持つことか、雇われマダムの圭子は人生の岐路に立たされる。
「バーの階段を上るときが一番悲しい」と彼女は言う。しかし上がってしまえばその日その日の風が吹いた。
男たちに騙され裏切られ、大事なものを失くし、金の無心ばかりする家族に足を取られながらも、
人生の酸いも甘いも知り尽くした圭子は、前を向いて日々をしたたかに生き続けていこうとする。
タイトルの「女が階段を上る時」は、ヒロイン圭子の働く店がビルの二階にある事にちなむ。
二階までの「階段」は、普段の自分からプロの女に気持ちを切り替える「間」を表している。
バーの階段を前にして一瞬たじろいだ圭子が、足早に階段を上り、店のドアを開けるラストシーン。
吹っ切れた彼女の笑顔には、悲しみを乗り越え、新しい一歩を踏み出そうとする決意がこめられていた。
製作 東宝
監督 成瀬巳喜男