滝の白糸   1933年(昭和8年)     邦画名作選
直線上に配置                                      

学問を志す青年・村越欣弥は、金銭的な理由から乗合馬車の御者として働いていた。

ふとした事から彼と知り合った人気女水芸人「滝の白糸」は、欣弥の志を知り援助を申し出る。

だが数年後、芸人としての人気に陰りがみえた白糸は、欣弥への仕送りにも苦慮するように…。

ある日、仕送りのための金を盗まれてしまった白糸は、誤って人を殺してしまう。

逮捕され裁きを受ける身となった白糸。そんな彼女の前に現れたのは…

なんと、白糸の援助によって学問を修め、検事となった村越欣弥その人だった。



1894年「読売新聞」に連載された泉鏡花の長編小説「義血侠血」の映画化。

法律家志望の青年・村越欣弥と水芸の太夫・滝の白糸との悲恋を描いた物語。

本作は「折鶴お千」「残菊物語」とも共通する「男の出世のために犠牲となり、
転落していく女」を、情け容赦のない視線で捉えた作品である。


これらの作品が制作された時期は、満州事変が勃発し、日本は泥沼の戦争へと
突入していく時代であった。

当時の日本の指導者たちは、国民に一層の自己犠牲を求めていたのである。

だが、これらの作品は、自己犠牲や封建的人間関係を賛美している訳ではない。

むしろ彼女たちの悲惨な自己犠牲こそが、封建制の酷さを如実に表現していると
見ることもできる。

女たちが男の出世を助け、その犠牲となって身を滅ぼし、みじめな姿に変貌する
というところに、男たちの罪、ひいては社会の罪の根源が見られるのである。


 
 
 

 製作   入江プロ  配給 新興キネマ

  監督   溝口健二     原作   泉鏡花   

  配役    滝の白糸/水島友 入江たか子 新蔵 見明凡太郎
      村越欣弥 岡田時彦 撫子 滝鈴子
      南京出刃打 村田宏寿 お銀 浦辺粂子
      岩淵剛蔵 菅井一郎 下宿の婆や 田中筆子

直線上に配置