唐人お吉   1930年(昭和5年)     邦画名作選
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幕末の下田。芸者・お吉(梅村蓉子)と船大工・鶴松(島耕二)は、恋仲だったが
お吉を見初めたアメリカ総領事ハリス(山本嘉一)が奉公を要求する。

お吉は拒絶するが、鶴松はお吉を裏切り、苗字帯刀を与えられ、江戸を旅立ったと知る。

人々に罵倒されながら、お吉はハリスの元へ通ったが、下田条約締結後、用済みとなる。

時が経ち、落魄したお吉は、偶然、鶴松と再会するのだが…。



1928年(昭和3年)「中央公論」に掲載された十一谷義三郎の同名小説の映画化。


唐人お吉は、本名を斎藤吉といい、駐日アメリカ公使ハリスの妾とされている女性である。

背景には、対米の利害関係が横たわっているのだが、一方では、貧しい芸者稼業であった
お吉が、妾奉公によって高給を得て経済的地位を向上させていたこと。

また、お吉の情夫・鶴松が幕府の依頼を受け、お吉と別れることで職と苗字を得たことなど、
唐人お吉の物語には、いくつかの階級移動のテーマが描かれている。


原作においてお吉は、社会で虐げられた犠牲者として読まれてきた。だが溝口はこれを
むしろ開き直って強く生きる女性として描いている。

生きるために妾になった女が、そのことを恥とは考えず、むしろ男本位の階級社会において、
女が生きるための戦いのひとつの在り方だと自覚する物語なのである。


こうした女が階級社会に敢然と立ち向かうといった語り口は、以後「浪華悲歌 1936」
「祇園の姉妹 1936」「愛怨峡 1937」等の作品へと引き継がれている。


なおハリスを演じた山本嘉一は、その扮装の巧さもさることながら、堂々とした風格のある
演技を見せ、本物のアメリカ人よりもホンモノらしいと、大いに話題となった。



 
 
 製作   日活

  監督   溝口健二   原作  十一谷義三郎

  配役    ハリス 山本嘉一 鶴松 島耕二
      お吉 梅村蓉子 お福 滝花久子

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