東京の女   1933年(昭和8年)    邦画名作選

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大学生の良一は、タイピストの姉に学費を出してもらい、学校に通っている。

ある日、良一は、姉があやしげなバーで働いているという噂を聞いてしまう…。



愛する弟を養うために陰で体を売る姉の悲哀が主題となっているが、作品の意図は
それだけではない。脚本にある主要な設定部分が、検閲によって削られているのだ。


当時の時代背景は、決して明るいものではなかった。昭和6年には満州事変が勃発し
不況による会社倒産と失業、左翼思想や言論の弾圧が次々と重なった時代であった。

姉が働いている会社に巡査が調べに来る場面があるが、それは売春の嫌疑ではなく
彼女が共産党と関係しており、それで警察のブラックリストに載っていたのである。


ヒロインの行為は、共産党の資金稼ぎのためでもあったのだが、党がらみのシーンが
削除されたために、後半、姉の不貞を知った弟の狂乱的行動に不自然さが感じられる。


弟にとって、才色兼備で優しい姉は出来すぎた存在であった。

どんな素晴らしい女性が現れても、恋人の春江でさえも、姉にはかなわない。

彼の苦悩は、姉が非合法組織の支援のために、売春という背徳を犯したことだけでなく、
そんな彼女の自己犠牲のもとに養われていた自分自身へ向けた怒りでもあったのだ。

映画の結末は、失望と自己嫌悪に陥った弟が自殺をはかることで終わっている。



 

  製作  松竹

  監督  小津安二郎

  配役   姉ちか子 岡田嘉子 木下巡査 奈良真養
      弟良一 江川宇礼雄 妹春江 田中絹代

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