生れてはみたけれど   1932年(昭和7年)     邦画名作選
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ここは東京郊外の新興住宅地。新しく引っ越してきたサラリーマンの一家。

小学生の良一と啓二は、近所の悪ガキ仲間と友達になり一緒に遊ぶようになる。

子供たちの中に、一人だけいい服を着ている子がいた。

この子は、良一と啓二の父親が勤めている会社の岩崎専務の息子だった。

ある日、良一と啓二は、その岩崎の家へ行って16ミリ映画を見せてもらった。

すると、自分たちの父親が専務の前でペコペコしながら、お世辞を言っている。

さらに、動物の真似までして、ご機嫌伺いをしているではないか。

良一と啓二は、そんな父親の姿がたまらなく我慢ならなかった。



サラリーマン社会の悲哀を子供の視点から描いた作品で、小津安二郎のサイレント期の代表作。

昭和7年と言えば、日本は不況のどん底で、東北地方では凶作のため、娘たちの身売りという、
現代では考えられない事件まで起こった年である。


そんな時代だけに、大小の会社は雇ってやっているんだ、と高圧的な態度をとり、働く側は
卑屈な態度をとらざるを得なかった。

小津安二郎は、そんな社会情勢を、子供の眼を通じて激しく突いたのである。


専務の息子と喧嘩すると、なぜこちらが正しいのに謝らされるのか。

父親が動物の真似なんかして、専務の機嫌をとり結ぶのはなぜなのか。

子供にはわからない。わからないが不愉快であり、我慢がならない。

それがサラリーマンの卑屈な心情でなしに、無心な子供の気持ちで描かれているだけに
よけいやりきれないのである。


 
 
 製作   松竹

  監督   小津安二郎

  配役    父親・吉井健之介 斎藤達雄 専務・岩崎壮平 坂本武
      母親・英子 吉川満子 その夫人 早見照代
      長男・良一 菅原秀雄 その子供・太郎 加藤清一
      次男・啓二 突貫小僧 映写機を回す部下 笠智衆

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