海を渡る祭礼 1941年(昭和16年) 邦画名作選 |
ある港町で祭礼が行われる。そこに稼ぎ時だと集まってくる旅芸人たち。
猿回し、手妻師、ガマの油売り、そして居合抜きの浪人などなど。
諸国から集まった芸人たちは、みな朝乃屋という宿に泊まる。
朝乃屋には、美人で愛想のいい、おうたという女中がいるからだ。
だが、そんなおおらかで楽しい祭礼の日々に不穏な影が差す。
横暴な馬術曲芸団が祭礼にあらわれ、芸人や露店をけちらしたのだ。
やくざまがいの馬術団になすすべもない芸人たち。
朝乃屋に乗り込んだ馬術団は、女中のおうたを手籠めにしようとする。
あやうく居合抜きの浪人・羊太郎が駆けつけて馬術団を追っ払った。
いったんは町を去った馬術団は、やがて大挙して姿を現す。
そして羊太郎の身柄を渡さなければ、祭礼をぶっつぶすぞと脅迫した。
芸人たちは俄然いきり立ったが、羊太郎は馬術団に引っ立てられて町を去った。
彼は年に一度の祭礼を、血で汚すことをおそれたのだった。
そして羊太郎は、再び町に戻って来なかった。
それでも彼に恋していたおうたは、必ず帰ってくると信じて待ち続けるのだった。
脚本家・三村伸太郎による「河内山宗俊」「人情紙風船」に続く第三作目の作品。
いずれの作品も、皆のために自ら犠牲になって献身する浪人たちの姿が描かれている。
じつは皆のためというより、ある女性のために命がけで献身するという物語である。
彼らにとって愛する女性のために命をかけることは、最高の善行であったのだ。
本作においても、浪人・羊太郎は馬術団に連れ去られ、再びその姿を現すことはなかった。
おそらく馬術団の無頼漢たちと戦った末に、命を落としてしまったのだろう。
まさに無私の愛をもって、女性に尽くし抜く男の純情をつきつめた作品といえる。
なお残念ながら、この作品は、現在ではフィルムが散逸し、数分の断片が残るのみである。
製作 日活
監督 稲垣浩
配役 | 宿の女中おうた | 市川春代 | 小布施羊太郎 | 戸上城太郎 | |||||||||
旅の女おやす | 深水藤子 | 馬芸の頭虎鉄 | 市川小文治 | ||||||||||
踊り子お雪 | 大倉千代子 | 板場の峰吉 | 香川良介 | ||||||||||
宿の女中おかつ | 月宮乙女 | 蟇の油の源次兵衛 | 志村喬 |