夜ごとの夢   1933年(昭和8年)     邦画名作選
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おみつ(栗島すみ子)は、場末の酒場で飲んだくれの相手をするあばずれ女。

だが家に帰れば、可愛い一人っ子・文坊には優しい母親である。

ある日、せっぱつまって身を売ろうとした彼女の前に、逃げていた夫・水原
(斎藤達雄)が、みすぼらしい姿を現した。

おみつは夫を憎み罵倒したが、子供の事を思い、親子三人で暮らす事にした。

夫は、なんとかして正業に就き、おみつに足を洗わせようと焦っていた。

ある日、遊んでいた文坊が車にひかれ、大怪我をして入院が必要になる。

おみつには、身を売って治療費を稼ぐしか方法はなかった。

だが夫は、おみつを引き止め、自分で金を集めると言い出す…。



港の酒場で働きながら子供を育てるヒロインと、生活力のない夫の辿る悲劇を綴る一篇。


結局、夫は、会社の金庫を襲って追われる身となり、遂には入水自殺を遂げる。

夫は、働きたくても、これという仕事にありつけなかったのだ。
当時の世相は、世界恐慌のあおりで、会社や工場がつぶれ、失業者が巷にあふれていた。

社会の底辺で行き詰まったあげく、片隅の人生に命を終えた人間はざらにいたのである。


下層階級の人間たちの葛藤を、サスペンス豊かに描き出した成瀬巳喜男初期の代表作であり、
新進監督としての彼の声価を不動のものとした作品である。


当時の松竹人気女優・栗島すみ子が、気品ある風格で気丈な母親を熱演している。

1921年(大正10年)松竹蒲田に入社。純日本的な美貌と、舞踊で鍛えた優美な容姿を活かし、
清純で楚々としたヒロインを演じて、たちまちトップ女優の地位を確立した。


すみちゃんの愛称でミーハーファンから親しまれたが、戦後はきっぱりと映画界を去った。

その後、成瀬に請われて「流れる」(1956年)に出演。久しぶりに銀幕にカムバックして話題となった。



 
 
 製作   松竹

  監督   成瀬巳喜男

  配役    おみつ 栗島すみ子 隣りの人 新井淳
      夫・水原 斎藤達雄 その妻 吉川満子
      その子・文坊 小島照子 船長 坂本武
      おみつの友達 沢蘭子 船員 大山健二

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