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荊州 (けいしゅう) は、現在の湖北・湖南省の一帯を指し、古来は楚の国の都でした。
戦国末期、秦が楚を 「荊」 と呼んだのが始まりとされています。

劉備が身を寄せていたこの地、荊州はちょうど孫権の揚州、劉璋の益州の中間にあり、
軍事的にもきわめて重要な地域となっていました。

諸葛孔明が説いた 「天下三分の計」 とは荊州を拠点とし、これに益州を加えることで、
所領を持たない劉備が華北(魏)の曹操、揚州(呉)の孫権と三国鼎立をなし、
漢を再興させる足がかりとする策でした。

荊州と益州の両面から魏に攻め込み、さらに呉と結んで挟撃の形をとって
大国の魏を倒すという計画を描いていたようです。

当時、曹操の支配する華北の地は、政治・文化の中心地ではあったものの、
黄巾の乱によって耕地は荒廃し、人口も激減していました。

それに比べ、乱の影響の少なかった荊州・益州は人口が多く、
肥沃な耕地と豊富な人材資源が突出していました。

強力な支配者のいない荊州・益州を支配下に置き、防衛を固めつつ国造りを行えば、
国力において、劉備の蜀が、魏・呉を上回ることは確実だったのです。


さて二度目の訪問にもかかわらず、孔明は留守にしていて会う事は出来ませんでした。
季節はすでに春を迎えていました。

関羽と張飛は、来る日も来る日も、孔明のこと考えている劉備のことが不満でした。
どうやら、そこには男の嫉妬もあったようです。

三度目に孔明の草庵を訪れると、今度こそ孔明は在宅でした。しかし昼寝をしています。
劉備はあえて孔明を起こさず、彼が起きるまで、じっと待つことにしました。

ところが、業を煮やした張飛が裏手から火をつけてやると大騒ぎをはじめます。
関羽は劉備の気持ちを察し、張飛をなだめて辛抱強く待つように言い聞かせます。

やがて孔明は目を覚ますと、劉備の存在に気づき、いよいよ二人は対面することになりました。


(1) (2) (3) (4)

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【第十四課 第三節】

光阴如箭。辞旧岁,迎新春。到了建安十三年的春天。
刘备时刻惦念着孔明。他选择吉日,
斋戒三天,薰沐更衣,准备再往隆中拜谒孔明。

(关羽这次不悦地说道:)

关 羽:  大哥, 关羽几番忍耐, 今日不得不进一言, 兄长两次亲往卧龙岗拜谒孔明,
       其礼实在太过, 恐孔明徒有虚名而无实学, 故避而不敢相见。

(刘备不以为然:)

刘 备:  二弟受读 「春秋」 岂不知・・・昔日齐桓公去为见一位东郭野人,
       前往五次方得一见, 何况我欲见者乃世之大贤啊。
 
(张飞生气地说:)

张 飞:  今番无须大哥亲往, 张飞自去将他请来。
       来人啊, 准备马匹绳索, 我要去卧龙岗。

(张飞骑马)

刘 备:  三弟, 你去作甚?
张 飞:  我去替大哥请卧龙岗先生来。

刘 备:  如何去请?
张 飞:  他如不来, 我用这根麻绳把他捆来。

(刘备勒住马, 生气地训叱张飞,说道:)

刘 备:  三弟, 莫非你想坏兄长的大事不成?

(刘备瞪着可怕的眼神看, 张飞十分惊讶)

刘 备:  曹操因身边有众多谋士, 方得以击败袁绍。
       孙权统领江东六郡八十一州, 尚在招贤纳士。
       他们霸业将成, 而我却在依俯刘表, 据守这新野弹丸之地,

       此皆因缺少出谋划策, 调兵遗将之大贤也, 你我情同手足,
       同生共死,却想不到, 三弟如此曲解我的心意・・・。

张 飞:  大哥・・・。

刘 备:  三弟, 岂不闻周文王访姜子牙之事?  文王尚且如此敬贤, 三弟为何这般无礼?

(刘备心里一激动,不知不觉流下了眼泪。关羽见他站不稳,连忙一把扶住了他)

刘 备:  三弟, 今番你休去, 我自与云长去。

(张飞脸上便露出要哭的表情道:)

张 飞:  大哥, 既是两位哥哥都去, 小弟如何落后?

(刘备用愤怒的面孔盯视着张飞, 又进一步向他叮问道:)

刘 备:  你若同往, 万万不得无礼!!

(张飞低下头, 深深一抱拳,满口答应:)

张 飞:  大哥, 知道了, 知道了。


第四天, 三人一同骑马前往隆中去。
正是春光明媚的季节, 一路风和日丽,心情爽快的就来到了卧龙岗。
离草庐半里之外,正遇上诸葛均。刘备连忙下马施礼问道:

刘 备:  诸葛均先生, 令兄在庄否?
诸葛均:  昨日黄昏方归。今日将军可与家兄相见了。
刘 备:  多谢。

(说罢,诸葛均就在刘备身旁擦身而过,匆匆而去。
这时张飞满脸不高兴地脱口而出说了一声:)

张 飞:  此人太无礼了引我们到庄上去又有何妨? 何故甩手就走。
刘 备:  各有各的事, 不必强求。来时已说过,不可失礼。

(张飞不好意思地缩成一团, 急忙向刘备道歉)

张 飞:  大哥, 知道了。


(弟兄三人拴好了马, 便来到庄上叫门。
只听得里面那个小童走了出来,把门打开)

小 童:  刘将军, 又来啦?
刘 备:  有劳转报, 刘备前来拜见先生。

小 童:  先生虽在家, 但正在草堂上午睡未醒。
刘 备:  既如此, 先勿通报。二弟, 三弟, 且在门外等候。先生未醒, 不便惊动。

(刘备跟童子轻轻地走进门去,只见隔着帘子孔明正仰卧在草堂床席之上,
他便站在阶下等候)

小 童:  将军情・・・。
刘 备:  嘘,请安静。

小 童:  将军何不进堂内等候?
刘 备:  且等先生醒来再进不迟。

(可等了半天,孔明也没有醒。张飞在门外等得很久, 心里渐渐的不耐烦起来,
从板墙上的孔眼往里张望, 见刘备一直在阶前站着, 不由火起)

张 飞:  这先生如此傲慢无礼, 大哥立于廊下, 他却高卧不起,
       不知是哪里哪位大人物啊!
      事到如此, 待我去屋后放一把火, 看他起不起来?

(张飞一阵风奔到屋里进入,关羽连忙劝住他)

关 羽:  三弟! 你真混!!

(刘备看张飞的轻举妄动, 用阻止的口吻对张飞说:)

刘 备:  嘘! 你, 三弟!

(刘备命他二人立刻出去等候。张飞愤恨不已, 但连声叹气, 老实地服从了刘备的命令。
再往草堂上望时,见孔明翻了个身,好像要起来,却是又朝里面壁睡去了)

小 童:  我去叫醒先生・・・。

(小童这时想去叫醒孔明,刘备忙拦住道:)

刘 备:  嘘, 且勿惊动。

(又立了半个时辰,孔明才终于醒了。他坐起身来, 低声吟诗道:)

孔 明:  大梦谁先觉, 平生我自知, 草堂春睡足, 窗外日迟迟。
       ・・・有俗客来否?

小 童:  刘皇叔已在堂外立候多时。
孔 明:  何不早报, 容我更衣相见。

无多片刻,只见孔明从里面走了出来。
刘备看到他立地八尺左右,脸如冠玉,手执羽扇,飘飘然有神仙之气。



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【注 釈】

【徒有虚名】 tú yǒu xū míng
〈成〉名声だけで実力が伴わない。看板倒れ。

【不以为然】 bù yǐ wéi rán
〈成〉同意できない。納得できない。

【岂不知】 qǐ bù zhī   (=难道不知)
知らんのか。知らぬわけではあるまい。

【桓公】 huán gōng
桓公 (かんこう)  (~前643年)   (在位前685~前643年)
春秋時代、斉の15代君主。春秋五覇の一人。姓は姜、名は小白。
鮑叔牙・管仲を登用して富国強兵に努め,前679年、諸侯を会同して初めて覇者となった。

【东郭野人】 dōng guō yě rén
城東の隠者。東方に住む市井の民。

【方得 fāng dé 一见】  それでこそ会うことができる。
方得 (=才可)  前提条件を表す。・・・でこそはじめて・・・し得る

【何况】 hé kuàng
ましてや。いわんや。言うまでもなく。

【袁绍】 yuán shào
袁紹 (えんしょう) (? ~202年)
後漢末の宰相。字は本初(ほんしょ)。河南省汝南郡汝陽県出身。
四代に渡って朝廷の宰相を務めた名門の出身。
霊帝の死後、献帝を擁立した董卓により冀州に追われ、のち反董卓派の盟主となる。
後に河北四州を支配し勢力を拡大したが、官渡の戦いにおいて曹操に敗れた後、病死した。

【弹丸 dàn wán 之地】 〈書〉〈喩〉 非常に狭い所。猫の額ほどの土地。
【调兵遣将】 diào bīng qiǎn jiàng  〈成〉〈喩〉人員を配置する。
【情同手足】 qíng tóng shǒu zú  〈成〉 間柄が兄弟のように親密である。
【同生共死】 tóng shēng gòng sǐ 〈成〉 生死を共にする。

【文王】 wén wáng
文王 (ぶんおう)  (? ~前1056年)
周の始祖。姓は姫(き)。名は昌。武王の父。
賢者を敬い、太公望などの名臣を集め、周囲の諸族を征服し、陝西に力を振るった。
殷(いん)の紂(ちゅう)王が東夷討伐に意を用いているすきに、黄河に沿って東進し、
殷に大きな圧力をかけた。子の武王のとき、周王朝が始まる。
後世、特に儒家からは武王と並んで聖王として崇められ、為政者の手本となった。

【不便惊动】 bù biàn jīng dòng
邪魔をしてはまずい。具合がわるい。さしさわりがある。
不便 (=会引起麻烦的)   <用例> 不便说。(言いづらい)





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【口語訳】

光陰矢のごとし。年は暮れ、あくれば建安十三年の正月。
一日とて孔明を思わぬ日のない玄徳は、吉日をえらび、三日の斎戒沐浴をして身を清め、
再び隆中に孔明を訪れんと身支度に余念がなかった。

(このとき関羽は、歓ばぬ顔をして玄徳をいさめようとする)

関 羽: 兄者、これまで幾度もこらえて参ったが、此度(こたび)は畏れながら申し上げまする。
      すでに二度まで御出座され、このうえまたお訪ねあるとは、如何に礼が大事とはいえ、
          あまりに度が過ぎたるもの。

          それがし思うに、孔明はいたずらに虚名を売り、実は中身のない似非(えせ)学者に相違なく、
          それ故、わが君に会うのをおそれ、とやかく逃げのがれているものと存じまする。

(玄徳は得心が行かぬ様子で答えていう)

玄 徳: お前は「春秋」を読んでいよう。斉の桓公は、東方の市井に住む隠士に会うため、
          五回も足を運んでいるではないか。ましてや予が訪ねるのは当代一の大賢じゃ。

(すると張飛が怒ったようにいう)

張 飛: もう兄者は臥龍岡に行かぬともよい!
     この張飛一人で、孔明を連れて来る。おい誰か!馬と縄の準備をしろ!!

(張飛はすぐ馬にまたがった)

玄 徳: 三弟!!何をする気だ!!
張 飛: 知れたこと、兄者の代わりに孔明を連れて来るのだ。

玄 徳: どうやって連れて来るつもりだ?!
張 飛: もし孔明が断ったら、縄に縛り上げて連れて来ようぞ。

(玄徳は張飛を睨みつけて、馬を制した)

玄 徳: 三弟! 兄の大事を打ち壊す気か!?

(叱りつけるような剣幕の玄徳にたじろぐ張飛)

玄 徳: よく聞け。曹操は周りに有能な賢者が多々おったゆえ、袁紹を官渡の戦いにて打ち破ることができたのだ。
     孫権も、江東六郡八十一州を統一できたのは様々な賢者を起用したからこそ、偉業を成し遂げられた。

      我らが今も、狭い新野ひとつしか得られていないのは、策を企てる賢者が欠けているからじゃ。
     軍隊を使いきる能力のある人物がいないからじゃ。違うか?
     お前たちと予は兄弟、生死を共にする覚悟を誓ったのに、今だに、兄の心が理解できないというのか!?

張 飛: 兄者・・・。

玄 徳: 三弟、かの周の文王が太公望を訪ねた故事を聞いたことがあるであろう。
     文王でさえ、賢者を敬い尊んだのに、お前の無礼は何事だ!!

(思わず嘆き崩れる玄徳を関羽があわてて支える)

玄 徳: 三弟、もうお前は来るでない!予と関羽だけで行く。

(張飛は泣きそうな顔で起立しながらいう)

張 飛: 兄者達が二人で行くなら、この張飛ひとり後れをとる訳には参りませぬ。

(玄徳はさらにすごい形相で睨みながら念をおした)

玄 徳: もし来たければ、絶対に無礼を働かぬと誓えるか?

(張飛は反省しながら両手を前に、頭を下げて何度も答えた)

張 飛: 兄者、わかり申した、わかり申した・・・。


四日目、玄徳ら三人は、隆中に向かい馬を走らせた。
時節はまさに春風駘蕩、うららかな日差しの下、道は快くはかどった。

やがて臥龍の岡につく。
孔明が住む草庵から半里ほど離れた途中で諸葛均に出会った。
玄徳は急いで馬を降り、礼をして尋ねる。

玄  徳:  諸葛均殿、今日臥龍先生はご在宅か?

諸葛均:  兄は昨日の暮れ方、家に帰って参りました。今日はお会いになれます。

玄  徳:  おお。おいでですか。あり難い。

(均は、そのまま拱手一礼し、怱々(そうそう)と立ち去ってしまった。
それを見た張飛は憮然とした面持ちで 吐き捨てるようにいう)

張  飛:  何て奴だ、勝手に会えとは何たる非礼。案内(あない)ぐらいしてもよかろうに。

玄  徳:  急用でもあったのだろう。無理強いするでない。先刻、無礼は許さんと言ったはずだ。
   
(張飛はきまり悪そうに体を丸め、すぐさま玄徳にあやまった)

張  飛:  兄者。分かっておりまする。


(三人は馬をしっかりつなぎ、草庵まで歩いて門をたたいた。
やって来たのは、いつも取次に出るあの童子だった)

童 子: ああ、劉将軍、またいらっしゃいましたね。
玄 徳: 大儀ながら取り次いでくれぬか。劉備が先生にお会いしたいとお伝えくだされ。

童 子: 先生は家にいますが、ただいま草堂で午睡(ひるね)しています。
       まだお目覚めになりませんが。

玄 徳: では、そのまま起こさないでくだされ。
       次弟と三弟は門の外で待っていてくれ。先生がお休みだ。静かにな。

(玄徳は独り静かに入って行った。ふと見ると、草堂のすだれ越しに、午睡している孔明が見える。
玄徳は階下に立ち、彼が午睡の覚めるのを待つことにした)

童 子: どうぞ、中へ。
玄 徳: しっ、静かに。

童 子: 中でお待ち下さい。
玄 徳: いや、先生がお目覚めになるまでここでお待ちしよう。

(しばらく待っていたが、孔明はいっこうに目覚める気配はない。外で待っていた張飛はまたイライラしだした。
塀の節穴から中をのぞきこんで見ると、なんとわが君、玄徳は草堂の入口でずっと立ちつくしているではないか。
張飛はたちまち頭に血がのぼった)

張 飛: 兄者を廊下に立たせて、自分は高いびきとは、何たる無礼千万!
       ここの先生はそんなに偉いのか?
       されば起きるか起きないか、裏手に火をつけてみようぞ!

   
(庭先まで飛び出そうとする張飛を、関羽は慌てて押さえつけた)

関 羽: 三弟!愚かな真似をするな。

(玄徳は張飛の軽挙妄動を見て、阻止する口ぶりでいう)

玄 徳: しっ!三弟!控えておれ!

(玄徳はすぐさま二人に再び外で待つように命じた。
憤慨してやまなかった張飛だが、続けざまにため息をつきながらも、大人しく玄徳の命に服した。

そうしているうちに、ふと見ると孔明は寝返りをうった。
起きるかと思うと、また、そのまま、壁のほうへ向かって、昏々と眠ってしまう)

童 子: 先生を起こして参りましょうか。

(童子は見かねて、孔明を起こそうとするが、玄徳はそれを押しとどめる)

玄 徳: いや、そのまま、そのまま。

(そしてまた半刻ほど経った。寝ていた孔明はようやく眼をさまし、
身を起こしながら、低声で詩を吟じはじめた)

孔 明: 大夢に誰か覚むる 日々に我れ自ら知る 
      草堂に春眠満ちて 窓外に日傾くを知らず 

      うん? 誰が来たのだ? 客人か。

童 子: 劉皇叔が堂外に立ち、久しくお待ちです。
孔 明: なぜそれを早く言わぬ。すぐ着替えてお会いしよう。


やがて衣服をあらためた孔明が、玄徳の前に立ち現れた。
孔明は、身の丈約八尺、冠につける玉のような白き顔で、白羽扇をあおぎ、
あたかも仙人のようないでたちであった。