乳房よ永遠なれ 1955年(昭和30年) 邦画名作選 |
不幸な結婚生活に終止符を打ったふみ子(月丘夢路)は、勧められるままに詠んだ短歌が絶賛される。
その後、彼女の短歌は入選し、新人作家として歌壇の話題となっていった。
ふみ子は夫の実家から子供を連れ戻し東京で職を見つけようとするが、乳がんで札幌の病院に入院する。
彼女は、やむなく乳房の切除手術を受けるが、手術後、余命幾ばくもないことを知るのだった。
1954年、乳がんで亡くなった歌人・中城ふみ子の歌集「乳房喪失」を題材に、田中澄江の脚色を得て、
田中絹代が監督、月丘夢路主演で映画化したもの。
女の命である乳房を、乳がんで失った女性の悲しみや苦悩が、女性目線で赤裸々に描かれている。
その一方で、時間が経つに連れて、失望や不安を克服し、残りの人生を主体的、積極的に切り開いて
いこうとするヒロインの姿が描かれる。
当時の「キネマ旬報」に掲載された宣伝ポスターは、ヒロインの上半身の露出の高い扇情的なものだった。
そこで、多くの男性観客は、ヒロイン(月丘夢路)の豊満な乳房を目当てに劇場に足を運んだのだった。
だが映画の後半、月丘の入浴シーンが登場するが、肝心な場面になると、彼女は風呂場の窓を閉めてしまうのだ。
観客は、月丘の乳房をひと目見たいと期待したにもかかわらず、窓を閉められるため、それが叶うことはない。
これは実は、監督の田中絹代の演出であり、当時の男優位の社会的風潮を打破しようとする意図があるのだった。
これまで戦後のメロドラマと言えば、男性を主体に、振り回される母、妻、恋人といった女性が描かれてきた。
本作で田中は、従来の受動的、自己犠牲的ではない、自立して行く女性像をくっきりと描き出しているのである。
原作・脚本・監督・主演すべて女性が手掛けた作品であり、月丘夢路の鬼気迫る熱演も相まって、本作はまさに
女性の立場から描かれた女性映画の秀作と言える作品となった。
製作 日活
監督 田中絹代 原作 中城ふみ子
配役 | 下城ふみ子 | 月丘夢路 | 堀卓 | 森雅之 | |||||||||
大月章 | 葉山良二 | 堀きぬ子 | 杉葉子 | ||||||||||
安西茂 | 織本順吉 | 白川夫人 | 坪内美詠子 | ||||||||||
たつ子 | 川崎弘子 | 隣の奥さん | 田中絹代 |