暖流  1939年(昭和14年)   邦画名作選
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舞台は名門私立志摩病院。病院の経営は、破綻の危機に瀕していた。

院長の志摩は、病院の再建をかけて、若き実業家の日疋(ひびき)に、経営の全てを託す。

突然の大胆な病院改革に、反発する医師たち。


日疋は、看護婦の石渡ぎんに協力を頼み、病院の内情を把握しようと試みる。

ぎんは、病院の機密を探りながらも、いつしか日疋に淡い恋心を抱くようになる。

一方の日疋は、院長令嬢の啓子の美しさにひかれ、思慕の情を寄せていた…。




岸田国士の小説「暖流」を、池田忠雄が脚色し、吉村公三郎が演出・監督した。

腐敗した病院を舞台に男女の愛憎劇が描かれ、戦前の吉村作品の傑作といわれる。


高峰三枝子扮する啓子が、自家用車で白亜の志摩病院(飯田橋の逓信病院)へ乗りつけたり、
高級カメラのライカを持ち歩いたり、チェーホフの「桜の園」を原書で読んだりする。

彼女の自由奔放な魅力が存分に描かれていて、とにかくモダンな映画という印象である。


昭和14年といえば、日中戦争が始まって二年目である。日本の社会は急速に軍事色一色に
塗りつぶされつつあり、当時の若者は恋愛どころではなかった。

そのさなかに、こんな戦時色の見えない恋愛映画が出現したことは、まさに驚異であった。

本作は、学生などを中心とした若い世代の観客に圧倒的な支持をもって迎えられたのである。




 
  製作  松竹

  監督  吉村公三郎     原作    岸田国士

  配役   日疋祐三    佐分利信         志摩泰英    藤野秀夫 
      石渡ぎん    水戸光子        笹島    徳大寺伸 
      志摩啓子    高峰三枝子        堤ひで子    槇芙佐子 

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              ぎんのテーマ (チャイコフスキー「四季」より「舟歌」)