祇園囃子 1953年(昭和28年) 邦画名作選
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母を亡くしたばかりの少女・栄子(若尾文子)が舞妓志願にやってきた。
栄子の熱意に負けた芸妓・美代春(木暮実千代)は、彼女を引き受けることに。
やがて、一年間の舞妓修行を経て、初めて店に出た栄子。
ほどなく大会社の専務・楠田に見初められる。
川口松太郎の「オール読物」所載小説を、女性映画の名手として知られる溝口健二が映画化。
京都の花街・祇園を舞台に、封建的なしがらみの中で生きる姉芸妓と現代っ子で勝気な妹舞妓の
対照的な生き方を描く。若尾文子が花街の因習的なしきたりに抵抗する直情的な舞妓を好演。
舞妓、芸妓の華やかさに憧れてやって来た栄子はやがて、祇園は虚飾の世界である事を知る。
彼女たちの立場は、金に縛られた悲しい存在で、売春婦とさして変わらない身分だったのだ。
溝口健二は、戦前戦後を通じて、祇園の花街で働く女性を主人公にした映画をよく撮った。
彼はその幾つかの作品において、祇園は貴重な伝統文化であると同時に、その伝統文化が
根深い封建性に支えられて成立していることを暴露したのである。
溝口が八月のベネチア映画祭に出席のため、六、七月の祇園祭の諸行事と並行して撮影された。
デビューまもない若尾の瑞々しさと、大人の色気を醸し出した木暮実千代の貫禄の演技が光る。
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製作 大映
監督 溝口健二 原作 川口松太郎
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若尾文子と溝口健二
大映のニューフェイスとして、1952年(昭和27年)にデビュー。
1953年の「十代の性典」で一躍スターの座をつかんだ若尾文子。
本格派女優としての評価を高めたのは「祇園囃子」での熱演がきっかけだった。
役作りのため、撮影前に監督から、芸妓の置屋に住み込みを命じられたという。
溝口健二の作風は、社会環境の犠牲となって苦しむ女性の姿に焦点を当てたものである。
この作品でも、色と欲と金次第の花街で生きる芸妓達の人間模様が見事に描かれている。
封切り後、祇園から「溝口は今後祇園には入れさせぬ」という嫌がらせのクレームがあった。
溝口は平然として「セックスと金の渦巻きを除いて花街が描けますか」と語ったという。