不如帰(ほととぎす) 1932年(昭和7年) 邦画名作選 |
海軍将校・川島武男(林長二郎)は、浪子(川崎弘子)を妻とし、夫婦仲が良かった。
だが、かりそめの風邪が元で、浪子は健康を害ね、次第に悪化して喀血した。
弱って行く浪子を励まし、勇気づけて、やがて始まる演習のため、武男は艦に戻った。
すると、浪子に横恋慕する千々岩(竹内良一)が、武男の母に悪智恵をつけた。
浪子の病気は恐ろしい結核だと、武男の母にたきつけ、浪子を離縁させてしまう。
演習から帰った武男は、驚き嘆き、二度と戻らぬつもりで、再び海上勤務に向かう。
翌年、浪子は、武男を遠くアリューシャンの海に慕いつつ、一人淋しく逝った。
明治31年、国民新聞(後の東京新聞)に連載された徳富蘆花の同名小説の映画化。
日清戦争(明治27年)時の新派悲劇で、泉鏡花の「婦系図」尾崎紅葉の「金色夜叉」
と共に、明治の三大悲劇とされ、舞台化の後、何度も映画化されている。
林長二郎を相手役に、川崎弘子が、可憐で儚げな薄幸のヒロインを好演している。
彼女は、こうした過酷な運命に翻弄されるヒロインを演じたら絶品で、その哀愁と
憂いを帯びた佇まいで、観客の涙を絞りに搾り取ったのである。
観客のほうも、映画館に足を運ぶ目的は「涙を流す」ことだ。悲しい物語に浸って、
思い切り涙を流し、目を真っ赤に泣きはらすのが、彼らの一番の楽しみなのだ。
それゆえ、明治から昭和戦前にかけて、こうした三大悲劇をはじめとする新派劇が
えんえんと、繰り返し映画化されてきたのである。
なお本作には、当時8歳の高峰秀子が、ヒロインの妹(三女、道子)を演じている。
製作 松竹キネマ
監督 五所平之助 原作 徳富蘆花
配役 | 川島武男 | 林長二郎 | 浪子の妹(次女駒子) | 光川協子 | |||||
妻・浪子 | 川崎弘子 | 浪子の妹(三女道子) | 高峰秀子 | ||||||
武男の母 | 葛城文子 | 千々岩安彦 | 竹内良一 | ||||||
浪子の父 | 藤野秀夫 | お豊 | 逢初夢子 | ||||||
浪子の母 | 川田芳子 | お幾 | 飯田蝶子 |