島村抱月らを盟主に旗揚げした文芸協会に、異様なまでに熱心な生徒がいた。
夫や家族を振り切って、家を飛び出した小林正子（山田五十鈴）だ。
意欲に燃える彼女の存在は、たちまち劇団でも際立ったものとなった
舞台「人形の家」で、芸名を松井須磨子と改め、女優として第一歩を踏み出した。
やがて須磨子は、師であり、演出家である抱月（土方与志）に強く惹かれていく。
だが妻子ある抱月との恋は、周囲から理解されず、非難を浴びることとなった。
女優・松井須磨子と、演出家・島村抱月の恋愛事件を山田五十鈴の力演で描く。
映画は、西洋演劇の講義風景など、大正初期の劇団の雰囲気が仔細に描かれている。
講義の中で抱月は、イプセンの「人形の家」を題材に、夫も子供も捨てて家を出る
ノラの生き方をどう思うか、と生徒たちに質問する。
何人かの生徒が、子供を残してまで家を出るのは、あまりに身勝手だと意見を述べる。
だが須磨子だけはきっぱり、女の自立のためには、家庭を振り捨ててもかまわないと
敢然と言い切るのだった。
この当時、女性の生き方は、良き妻、賢い母になるという、封建的な良妻賢母思想が
社会一般の通念であった。
この意味で、須磨子の意見は、当時としては画期的、進歩的な考え方だった。
本作は、近代日本の女性の自我の確立という観点から、新しい時代の始まりを
高らかに謳いあげる作品となった。
製作 東宝
監督 衣笠貞之助
| 配役 | 松井須磨子 | 山田五十鈴 | 水島哲夫 | 伊豆肇 | 大久保博士 | 進藤英太郎 | |||||||||||||
| 島村抱月 | 土方与志 | 倉本壽一 | 沼崎勲 | 春田史朗 | 北沢彪 | ||||||||||||||
| 妻・伊都子 | 赤木蘭子 | 倉本源四郎 | 志村喬 | 小林春吉 | 河野秋武 |
