紙人形春の囁き   1926年(大正15年)     邦画名作選
直線上に配置                                      

両国の糸屋の娘・お種(梅村蓉子)は、近所に住む象牙細工屋の息子・純夫と恋仲になる。

二人は年末に出かけた蕎麦屋の二階の座敷で結ばれる。

やがて純夫はパリ留学となるが、お種は、自分が純夫の子供を身ごもっていることに気づく。

占い師に相談したところ、二人の結婚は「大凶」と出るが、お種は帰国した純夫と結婚。

しかしその後、お種の父・半兵衛が急死し、純夫の実家の象牙屋が倒産してしまう。

お種は子供を出産するが、今度は純夫が病気にかかり、命を落としてしまうのだった…。



1923年(大正12年)9月の関東大震災により、日活向島の監督であった溝口健二は、
俳優たちと共に、日活京都への移転を余儀なくされた。

本作のテーマは「滅びゆくものの美」である。震災によって滅び去った両国、浅草、
柳橋といった下町の風景と風情が、落ち着いた情感豊かな味わいで再現されている。


この映画のために、松竹から梅村蓉子が引き抜かれた。初々しい恥じらいと佇まい、
何よりも、彼女の可憐ではかなげな容姿が、この作品に不可欠だったのだ。

老舗の娘のヒロインが、結婚を境に見る見る不幸になってゆくという悲劇の物語だが、
主人公二人のひたむきな演技が共感を呼び、映画は好評を博した。

本作は、同年のキネマ旬報ベストテンの七位に選ばれ、溝口初期の代表作となった。


ヒロインお種を演じた梅村蓉子は、松竹を経て、1925年(大正14年)日活に入社。

溝口健二、阿部豊など気鋭の監督の話題作に次々と起用されて、初々しい可憐な下町娘、
日本髪の似合う芸者などを演じ、酒井米子と共に日活全盛期を支える女優として活躍。

代表作は、本作のほか「足にさはった女 1926」「日本橋 1929」「傘張剣法 1929」
「唐人お吉 1930」「上海 1932」「祇園の姉妹 1936」など。



 
 
 
  製作   日活

  監督   溝口健二  原作 田中栄三

  配役    糸半主人・池田半兵衛 山本嘉一 象牙商の息子・貝島純夫 岡田時彦
      長男・銀之助 島耕二 女給・藤倉愛子 宮部静子
      妹・お種 梅村蓉子 柳橋芸者・松相模の小芳 妹尾松子
      乳母・中村お霜 市川春衛 糸屋の老番頭・渡辺善兵衛 笹谷源三郎

直線上に配置