宮本武蔵 1961年(昭和36年) 邦画名作選
関ケ原に出陣した武蔵と又八は、夜盗の後家・お甲に救われる。
又八はお甲との愛に溺れ、武蔵は沢庵和尚のもとで修業を積む。
又八の許嫁・お通は、剣の旅に向かう武蔵を慕って追い続ける。
柳生石舟斎の高弟と剣を交えたとき、武蔵はお通の笛の音を聞く。
心が乱れ袖口を斬られた瞬間、武蔵は両刀の構えとなっていた。
お通を避けた武蔵は、京の一乗寺にて吉岡一門と戦い勝利する。
士官を求めて放浪の旅を続ける武蔵に、九州の細川家から声がかかる。
だが細川家指南役・佐々木小次郎との試合が避けられぬものとなった。
1935年(昭和10年)から四年に渡り、新聞小説に連載された吉川英治の原作は、
戦前の代表作となり、戦時中の読み物として多くの読者を魅了した。
これまでの武蔵は、歌舞伎、講談などで生涯無敗の剣豪として語られてきた。
だが吉川英治は、単に強いだけではなく、剣を通じて人格を高めてゆく求道的
人間像をつけ加え、波乱万丈の武蔵の人生を描き出した所に作品の魅力がある。
本作は、内田吐夢の演出により、その決闘場面は、人間の息遣いを感じるほどに
高められ、吉川武蔵の映画化では最高傑作とされている。
また主演の中村錦之助が、ひたすら剣の道を追求する求道者でありながら、
どこかに狂気を秘めた武蔵の身上を、稀代の名演で猛々しく演じている。
これまでの庶民的な威勢のいい若衆の役柄から、本格派俳優へと成長を遂げた
錦之助のキャリアを語るうえでも欠かすことのできない一作となった。
製作 東映
監督 内田吐夢 原作 吉川英治