おかあさん 1952年(昭和27年) 邦画名作選
戦災で焼け出された洗濯屋の福原一家は、やっとの思いで店を再建する。
しかし、そんな矢先に長男が病気で亡くなり、父も過労で倒れてしまう。
そのため、母は女手ひとつで馴れぬ店を切り盛りすることになってしまう。
全国の小学生から募集した作文をまとめた「おかあさん」をもとに水木洋子が脚本化。
戦災で失ったクリーニング店を再開し、必死に働く母親の姿を長女の目を通して描く。
田中絹代が、クリーニング屋を営む気丈で優しい母親を演じている。
弱音をはかず、子供には涙を見せず、黙々と働く彼女の姿は感動的だ。
物語のラスト、田中絹代が、昼間の労働で疲れきって眠っている住み込みの少年に、
やさしく布団をかけてやるところで終っている。
少年の枕もとには、故郷の母親へあてた手紙が、書きかけのまま開いている。
田中絹代はそれをじっと見つめる。
この時、彼女は、強さと優しさを合わせもった母性そのものになっている。
こういった古き良き日本の母親像を演じさせたら、田中絹代の右に出る者はいないだろう。
成瀬映画の本領というべき、女性の芯の強さ、優しさを淡々と見事に描き上げた傑作である。
製作 新東宝
監督 成瀬巳喜男