婦系図 (おんなけいず) 湯島の白梅 1955年 (昭和30年) 邦画名作選
早瀬主税(鶴田浩二)は、新進気鋭のドイツ語学者だが、少年時代は名うてのスリだった。
縁あって、大学教授・酒井俊蔵(森雅之)に拾われて書生となり、将来を嘱望されている。
主税には、お蔦(山本富士子)という柳橋芸者の馴染みがおり、将来を誓い合っていた。
だが、師匠の酒井は、経歴の傷になると考え、主税にお蔦と別れるように命じる…。
明治時代の芸者といえば、いわゆる風俗営業の店で働く接待女性を意味していた。
そのため師匠から「世間から後ろ指を指される様な女とは別れろ」と言い渡されてしまう。
主税も、師匠に育ててもらった恩義があり、泣く泣く湯島天神で、お蔦に別れを告げる。
このあと別れを切り出されたお蔦の名セリフ「いっそ、死ねと云って下さいな」が出る。
本作は、悲しい運命に耐える古風な女を演じて新境地を得た山本富士子の出世作となった。
また、主税の師匠を演じた森雅之の存在感のある重厚な演技も好評だった。当時の批評家から
「苦心した台詞回しと演技は、頑迷な恩師振りをよく出している」と高く評価されている。
なお原作者の泉鏡花も、芸者との恋を師匠の尾崎紅葉に反対され、泣く泣く別れた体験があり、
これが「婦系図」執筆の下敷きになっているという。だがその後まもなく紅葉が亡くなると、
鏡花は即その芸者と結婚した。夫婦仲はよく、65歳で鏡花が没するまで35年間添い遂げている。
製作 大映
監督 衣笠貞之助 原作 泉鏡花