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ジョーのアパートで目を覚ましたアン王女は、見知らぬ場所で一夜を過ごした
ことに驚く。しかし、同時にワクワクするような気分も感じはじめていた。

アパートを出た後も、せっかく手に入れた自由をすぐに捨て去るには忍びず、
着の身着のままローマの街へ繰り出してしまう。

好奇心いっぱいの彼女は、ジョーに借りたお金で、かわいいサンダルを買ったり、
ヘアサロンに飛び込んで長い髪をショートにしたりと、ごくふつうの女の子のように
楽しい時間を満喫するのだった。

アンがスペイン広場でアイスキャンデーを食べていると、彼女の後を追ってきた
ジョーに声をかけられる。

偶然の再会を装う彼の 「思いきって一日楽しんだら?」 という提案に押され、
アンは大使館に戻るのを夜までのばすことに決める。


(1) (2) (3) (4) (5)   

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【第二課 第三節】

通过报纸,乔发现,他带回的女孩就是安公主,于是他欣喜若狂,
带着她逛罗马,打算写篇独家报道来赚一笔钱。

他急忙回到家发现幸好公主还在睡觉。
过了一会儿,公主醒了,发现自己在一个陌生男人的家里,还穿着别人的睡衣。

但在乔的再三解释下,公主才放下心来。她与乔握手,露出了笑容。

“我是乔·白莱德。你叫什么名字?” 乔问道。
“你可以叫我安雅。” 公主想了想说道。安雅是她小时候的昵称。

公主决定在罗马逛一逛,并向乔借了千里拉。
由于乔不想失去独家报道的机会,他一路跟在公主后面。

第一次一个人上街,公主一切都感到新鲜,脸上笑开了花。
她来到集市上,东瞅瞅西望望,觉得集市上卖的东西都有趣极了。

她在地摊买了一双漂亮的凉鞋。
换上凉鞋后,她在街上无事闲逛,忽然想起什么,走进了一家理发店。



理发师: 小姐想理得什么样的漂亮发型呢…什么样?
安     :  只要帮我修剪一下。

理发师: 修剪一下?修到这儿吗?
安     :  高一点。

理发师:  高一点?…这儿?
安     :  再多一点。

理发师:  这儿?
安     :  再多一点。

理发师:  哪儿?
安     :   这!
理发师:  这儿? 你肯定吗?

安     : 我相当确定。
理发师: 全剪了?

安    : 全剪了。

理发师: 你真的想好了?

(当理发师三番四次的问她是不是肯定要剪掉这一漂亮优美的长发时,
她确定地回答并报以自信的微笑,说:)

安     :  是的。

理发师: 剪掉…剪掉…剪掉!完成了。
            你也许是个音乐家吧?你是吗? 是画家? 那我知道了,你是个模特。模特。

安     : 谢谢你的夸奖。

理发师: 现在看起来真是完美及了。现在是不是很清爽呢?你觉得自己是不是变漂亮了?
安     :  这就是我想要的发型。

(短发的她,更加光彩夺目,理发师也惊讶于她的改变,还发出了约会的邀请)

理发师: 那么,今晚和我一起去,参加舞会吗? 那舞会是在船上,在游艇上。
            就在河边。那月色,迷人的音乐,罗漫气息,真是棒及了。你可不可以过来?
            和我一起参加这个浪漫的舞会。来吗?

安    : 但愿我能去。

理发师: 但是,我想你的朋友也许认不出你了。因为你变样了。
安     : 我想他们一定会认出来的。谢谢你。

理发师: 小姐,九点钟的时候,我会等你来的。在那儿参加舞会的全是我的朋友,如果你来了,
            你一定会是全场最美丽的姑娘。最漂亮的,你懂吗? 全场最漂亮。

安     : 谢谢你。再见。
理发师: 再见。



(公主走出了理发店,又在商店的玻璃橱窗上照了照。
她顶着一头乖巧可爱的短发开始了自己向往以久的平民生活,虽然时间只有一天。

公主来到了著名的西班牙广场。广场前,她买了一个冰淇淋,边吃边继续走。
路过鲜花店时,老板向她推荐一束石竹花)

老  板: 鲜花配美人,小姐。这么好看的花,配上小姐的容貌,真是再好看不过了。真是美极了。
安     : 谢谢。


(老板看到公主的打扮以为她会有很多钱,于是缠着她让她买花)

老  板: 一千里拉,要一千里拉!
安     : 我没钱了。

老  板: 那样八百里拉怎么样?
安     : 抱歉我真的没钱了…。

老  板: 算了…那么七百里拉。别再还价了。小姐,别还价了。
安     : 抱歉。


(直到她拿出仅剩的一点钱时,老板才放过她,并且免费送了她一枝花)

老  板: 拿着。鲜花配美人。再见。

安     : 谢谢。


(公主坐在西班牙广场的扶手上,于是乔就跟了过去)

乔    :  是你啊。
安    :  是的,白莱德先生。

乔    :  你怎么了?
安    :  你喜欢吗?

乔    :  当然喜欢。你这样看起来就更神秘了。

安    :  白莱德先生,我得向你坦白。
乔    :  坦白?

安    :  是的,我昨晚留出来了,从学校。
乔    :  到底是为什么呢?和老师有了麻烦?

安    :  不,不是这么回事。

乔    :  那你总不会无缘无故的从学校留出来吧?

安    :  我本来只想留出来一、两个钟头。但昨晚他们让我服了药、我就睡过头了。
乔    :  我明白了。

安    :  我得搭计程车回去。
乔    :  对了、在你回去之前,为什么不让自己轻松一下呢?

安    :  也许还可以再玩一小时。
乔    :  活得刺激点,玩它一整天吧。

安    :  那我就可以做些,我想要做的事情了

乔    :  比如说呢?
安    :  我真的不知道,我好像整天都做,自己想做的事情,真的。

乔    :  就好像去换个发型? 还有其他的。
安    :  是的,我还想去喝露天咖啡,看服装橱窗,在雨中行走,享受欢乐。
           也许找点刺激。这对你来说好像算不了什么。

乔    :  真是太棒了。让我告诉你吧。为什么我们不一起来做这些事呢? 一起做。
安    :  但是,你难道不用工作吗?

乔    :  工作?  不,今天是个假期。

安    :  你真的愿意陪我来做这些新鲜的事吗?

乔    :  当然。第一个愿望到露天咖啡座。来吧,我们到罗科的店去。



坐在路边咖啡馆享受着美好的午餐时光,看着车水马龙的街道,公主达成了她的第一个愿望。

“你学校的人看到你这头发怎么说?” 乔问公主。
“会笑得要死!”公主笑着说:“要是他们知道我在你那睡了一夜,会怎么想呢?”

“这个…”乔小声地说道:“你别对别人讲,我也一个字也不会说。”
“好的,我们一言为定!”公主打趣地笑道。

乔问公主想喝些什么,公主毫不犹豫地回答香槟。
虽然想到自己囊中羞涩,乔还是叫来服务员,为公主点了一杯香槟酒,给自己点了一杯冷咖啡。


“你午餐都是要喝香槟?” 乔半开玩笑地问道。

“没有…只有在特殊情况下才喝。上次喝是父亲工作四十二周年纪念日。” 公主选着词说道。

“工作了四十年你一定蛮了解。他是做什么的?”
“你可以称作是…公共关系人员。” 公主顿了顿回答。

“这工作不轻松。”
“有时也听见他抱怨过。”

“那他可以不干。”
“干他那一行的人,从来没有中途不干的。除非是身体健康不允许。”



不一会儿,香槟酒和冷咖啡端来了。

“那就祝他健康吧!”乔举起杯子。“所有人都祝他健康。”公主也举起酒杯。


“你是做什么工作的?”公主问乔。
“我是搞推销的。” 这回,乔选着词说道。

“那真有趣。你卖些什么呢?”
“饲料,化学饲料。是一种东西就是了。”


就在这时,乔的朋友俄宾来了。乔跟他事先联系好的。
“我说,你是不是又忘带钱包了?”俄宾看到乔张口便问。

“这是安雅,这是我朋友俄宾”
乔介绍俄宾与公主认识,并俄宾在公主对面坐下。

俄宾死盯着看公主说道:“你可以当一个人的替身,没有人对你说过?”
话音刚落,乔便狠狠地踩了俄宾一脚。

“我想我得走了。”俄宾对乔这突如其来的举动十分不满,起身要离开。

乔赶紧起身去把俄宾施到了屋里。
俄宾还在气愤不已,但当他听到乔告诉他有个机会能挣钱时,一下就安静了。

“他不知道我是谁,不知道我是干什么的。这可是个大新闻是我一手搞到的,不能让别人抢走。”
乔对俄宾小声说,“你的小相机能使这篇报道的价值加倍!”

“她是真的?”俄宾仍有些不相信,“公主微服出访?”
乔与俄宾已经有了默契,同时乔又向俄宾借了三万里拉,用来支付这一天的开销。

俄宾回到座位上。公主就向他询问替身是什么意思。乔赶紧解释说:
“替身是一个美国俚语,意思是说她十分魅力。”

“谢谢,俄宾先生。”面对公主的礼貌答谢,俄宾也只得点头说:“不客气。”

俄宾递给公主一支烟,公主笑着接过来说:“你可能不会相信,这是我第一次抽烟”
一旁的俄宾拿出打火机外形的微型照相机,偷偷记录下了公主第一次抽烟的情形。

乔叫来服务员买单,然后他们计划朝下一个目的地出发。
在俄宾的跟踪拍摄下,乔与公主在罗马开始了童话般的一日游。



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【注 釈】

【再多一点】 もっと多めに。(much more)
「再」は累加をあらわす程度副詞。<用例> 再快点。(もっと早く)

【肯定】 kěn dìng どうしても。何がなんでも。きっぱり。(definitely)
【确定】 què dìng 言うまでもない。もちろん。当然。(of course)

【想好】 xiǎng hǎo よく考える。(think over)
【模特】 mó tè モデル。(model)

【夸奖】 kuā jiǎng ほめる。(speak highly of)
【游艇】 yóutǐng 遊覧船。(pleasure boat)
【过来】 guò lái やって来る。(come to)

【但愿我能去】できることなら行きたい。(I wish I could)
「能」は許諾を表す助動詞。
<用例>我们能一起去,那… (一緒に行けるのなら)

【但愿】 dàn yuàn 願わくは…そうありたい。(hope)

【认 rèn 不出你了】 君に気がつかない。(not recognise you)
「出」は結果を表す方向補語。
<用例>认不出是谁了 (誰だか見分けがつかない)

【我会等你来的】 君が来るのを必ず待っているから。
「会」は可能性を表す助動詞。(一定会)
<用例>他会成功的。 (彼は必ず成功する)

【西班牙广场】xī bān yá guǎng chǎng   スペイン広場(Spanish Square)
ローマの中心市街地にある広場。広場に面してスペイン大使館があることからこの名称がある。

【鲜花 xiān huā 配 pèi 美人】美しい女性には花がよく似合う。

【真是再好看不过了】これほどの美人はそうそういない。
「再」は累加を表す程度副詞。これ以上。「不过」は卓越を表す方向補語。
<用例>对孩子玩耍 wán shuǎ 来说是个再好不过的地方。
(子どもの遊びには持って来いの場所)

【算了】 suàn le  これ以上こだわらない。議論しない。
<用例>算了算了,你别再说了。(わかったわかった、もうこれ以上言うな)

【还价】 huán jià  値切る。値段のかけ引き(をする)(discount)

【别再还价了】 これ以上値切らないでくれ。
「再」は継続を表す副詞。
<用例>好! 我不再开口了。(わかった、もう口をきかないよ)

【你这样看起来就更神秘了】 ぐっとカッコ可愛くみえるよ。
(that was your mysterious appointment)
【神秘】 shén mì 神秘的である。ファンタスティック。
【坦白】 tǎn bái 告白する。白状する。

【回事】 huí shì 事柄。(affair)
<用例>是怎么回事?(これはいったい何事だ)
<用例>是这么回事。(これはこういう事なんです)
<用例>原来是那么回事。(なんだそういう事だったのか)
<用例>没有那么回事。(そんな事はないだろう)
<用例>是两回事。(これは別々の事だ)
<用例>他们说的是一回事。(二人が言っているのは同じ事だ)

【无缘无故】wú yuán wú gù
〈成〉なんの理由もない。なんの原因もない。

【总不会】 いずれにしても…はずがあるまい。
「总」は結局を表す副詞。「会」は可能性を表す助動詞。
<用例>一本好书,总不会让读者太失望的。
(やはり良書は読者をそれほど失望させない)

【本来】 běn lái もともと。元来。以前。当初。(originally)
<用例>本来的目的地 mùdì dì 是北京。(当初の目的地は北京だった)

【为什么不】どうして…しないのか。
<用例>为什么不早来呢。(どうして早く来なかったのか)

【轻松】 qīng sōng 息抜きする。リラックスする。ほっとする。気楽である。(relax)

【也许还可以再玩一小时】 あと一時間楽しんでもさしつかえないかしら。
(It may be another hour)
「还」は比較を表す副詞。(=还算)「可以」は許可を表す助動詞。
「再」は継続を表す副詞。
<用例>明天还可以再研究。(あすもう一度検討してもよい)

【活得刺激 cì jī 点】 刺激的に生きなきゃ。(live dangerously)

【玩它一整天吧】 丸一日楽しもう。(take the whole day)
「它」は前述の「玩一小时」を指す。

【就好像去换个发型?】  それこそ髪型を変えるみたいな?(like having your hair cut )
「就」は強調を表す副詞。
<用例>就这样战斗 zhàn dòu 结束了。(かくして戦いは終わった)

【我还想去喝露天 lù tiān 咖啡】カフェテラスにも行ってみたいわ。
( I'd like to sit at a sidewalk cafe)
「还」は追加を表す副詞。
<用例>有机会的话还想去上海世博会玩。(機会があれば上海博にも行って遊んでみたい)

【露天】 lù tiān  屋外。野外。(outdoor)
【露天咖啡 lù tiān kā fēi】 カフェテラス。(sidewalk cafe)

【享受 xiǎng shòu 欢乐 huān lè 】 楽しんでわくわく過ごしたい。
【也许找点刺激】 刺激を求めるというか。(maybe some excitement)

【算不了什么】 suàn bu liǎo shén me なんでもない。たいしたことはない。
【你难道不用工作吗?】 仕事のほうは大丈夫ですの? (don't you have to work)

【你真的愿意陪 péi 我来做这些新鲜的事吗?】
こんな素敵な事に本当に付き合ってくださるの?
「来」は動作目的を導く動詞。
<用例>用铅笔 qiān bǐ 来写字。(鉛筆で字を書く)

【俄宾】é bīn   アビン(Irving)ジョーの親友のカメラマン。

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【口語訳】

新聞で王女の写真を見たジョーは、昨晩の娘の正体が、実はアン王女だったことに気づく。
彼女をローマの街に連れ歩いて、その行動を記事にできたら大スクープになる。

ふってわいたチャンスに色めき立ったジョーは、急いで家に帰った。
幸いにも王女はまだそこで眠っていた。

しばらくして目を覚ました王女は、自分が見知らぬ男の家にいることに気づいた。
しかも他人のパジャマを身につけている。

しかしジョーの再三の説明で、王女はようやく安心する。彼女は笑顔でジョーと握手した。

「僕は、ジョー・ブラッドレー。 君の名前は?」 ジョーが尋ねる。
「あの…アーニャと呼んでいいわ。」 王女はちょっと考えてから、幼い頃の愛称をジョーに教えた。

王女はローマの街を歩いてみたいと思い、ジョーに千リラ借りた。

せっかくの特ダネを失いたくないジョーは、道すがらずっと王女の後をつけて回った。

初めて一人で街へ来た王女は、見るものすべてが新鮮で、自然と顔がほころんできてしまう。
彼女は市場にやってきた。市場のあちこちを、物珍しそうに立ち止まって眺める。

彼女は露店で可愛いサンダルを買った。サンダルに履き替え、足取りも軽くなった彼女は、
しばらく街頭でぶらぶらしていたが、突然何を思ったのか、一軒の理髪店に入った。




理髪師:  お嬢さん、どんな素敵なヘアスタイルをお望みですか。
ア ン:  カットだけでお願いします。

理髪師:  カットね。では、これぐらいですか?
ア ン:  もっと上で。

理髪師:  もっと上? ここ?
ア ン:  もっと。

理髪師:  こう?
ア ン:  いえもっと。

理髪師:  どのあたり?
ア ン:  ここよ。

理髪師:  そこか。本気ですか?
ア ン:  ええ、本気です。

理髪師:  これ全部?
ア ン:  全部よ。

理髪師:  いいんですね?


(理髪師は美しい髪を本当に切ってもよいのかと彼女に繰り返し尋ねた。
彼女は意を決したように頷き、穏やかな微笑みを浮かべて言った)

ア ン:  どうぞ。

理髪師:  カット、カット、カット。これでどうです。

理髪師:  音楽関係のお方ですか?それとも画家?
            分かった、モデルですね。当たりだ。

ア ン:  お上手ね。

理髪師:  お待たせしました。とてもお似合いですよ。短いほうが断然ステキです。
            すっかり美しく変身されたでしょう?

ア ン:  ええ、思っていたとおりよ。


(ショートヘアの彼女は、まばゆいばかりに美しかった。
彼女の変貌ぶりに驚いた理髪師は、思わずデートの約束を申し出た)


理髪師:  それはよかった。ところで今夜ですが、僕とダンスパーティーに行きませんか?

            会場は、河沿いの遊覧船の上です。月の光とステキな音楽。ロマンチックですよ。
            ほんとに…お願いです、ぜひいらっしゃって、一緒に踊っていただけませんか?

ア ン:  残念だけど…。

理髪師:  あっ、お友達も皆、あなただと分からないでしょうね。

ア ン:  きっと分かると思うわ。ありがとう。

理髪師:  あっ、お嬢さん。僕は今夜九時に、あなたが来るのを待っています。
            僕の友達もたくさん参加します。

            あなたがもし来れば、そこでいちばん美しいのは間違いなくあなただ。

ア ン:  ありがとう。さよなら。

理髪師:   さよなら。



(理髪店を出ると、王女は何度も立ち止まり、街角のショーウインドーに映る自分の姿を満足そうに眺めた。

人に好かれる可愛い髪型になった王女は、ほんの一日だけとはいえ、自分がずっとあこがれていた
平民の生活を始めることになった。

王女はスペイン広場まで来ると、広場前の売店でアイスキャンデーを買い、歩きながら食べる。
屋台の花屋の前を通りかかると、花屋の主人が、彼女にカーネーションの花束を見せる)


花 屋:  そこのお嬢さん、この花はいかが? 美しい女性には花がよく似合う。
            色も香りもあなたにぴったりだ。

ア ン:  ありがとう。


(花屋の主人は彼女の身なりを見て、彼女に花を買わせようと躍起になった)

花 屋:  どうも…千リラ。ひと束千リラだよ。
ア ン:  お金ないの…。

花 屋:  では八百リラでどうだ。
ア ン:  ごめんなさい、本当にないの。

花 屋:  しかたがない、七百リラにするよ。これ以上はまけられん。どうだい?
ア ン:  残念だわ。


(彼女は残っているほんの少しの金を取り出して見せた。
やっとあきらめた花屋の主人は無料で彼女に一輪の花を送った)

花 屋:   いいから、持って行きな。美しい花はあなたにお似合いだ。

ア ン:   ありがとう。


(王女がスペイン広場の欄干の上に座っているとき、ジョーが彼女に近づいてくる)

ジョー:  おや、また会ったね。
ア ン:  ブラッドレーさん。

ジョー:  あれ、そのヘアスタイルは?
ア ン:  似合ってます?

ジョー:  ああステキだ。とてもカッコ良くみえるよ。

ア ン:  ブラッドレーさん、本当のことを告白するわ。
ジョー:  告白?

ア ン:  実は昨日逃げ出して来たの…学校から。
ジョー:  いったいどうして…先生とケンカでも?

ア ン:  いいえ、違うわ。
ジョー:  とくに理由もなく逃げ出したのか?

ア ン:  一、二時間で帰るつもりだったの。でも薬のせいで眠くなってしまって。
ジョー:  なるほど。

ア ン:  タクシーを拾って帰るわ。

ジョー:  まって、その前にもう少し羽を伸ばしていかないか?
ア ン:  あと一時間くらいなら。

ジョー:  もっと刺激を求めなければいけないね。思い切って一日遊べばいい。
ア ン:  それならいろんなことができるわね。

ジョー:  たとえば?

ア ン:  なんていうか、何も決めず、私が思ったとおりに一日を過ごすの。

ジョー:  それこそ髪を切ったりとか。

ア ン:  そうよ、それからカフェのテラスに座って、ウインドーショッピングも。
            雨の中を歩いたり、楽しくてわくわくすることを。
            あなたにはつまらないことかも知れないけど。

ジョー:  素晴らしいじゃないか。よし、決めた。今言ったことを全部やろう。二人で。

ア ン:  でもお仕事は?

ジョー:  仕事? いいさ、今日は休みにする。

ア ン:  本当に付き合ってくださるの?

ジョー:  喜んで。最初のご希望は確かカフェのテラス席だったね。それなら「Rocca」の店に行こう。




人や車が盛んに行き交う道端のカフェテラスで、王女は、楽しい昼食のひとときを過ごした。
こうして彼女の願望のひとつは叶ったのだった。


「学校の人は、君のヘアスタイルを見たら何て言うだろうね?」
ジョーが尋ねると、王女は屈託のない笑顔で答える。

「きっと卒倒するわね。あなたの部屋で一晩過ごしたことを知ったら、それこそ何て言うかしら?」

「その件は…」ジョーは小声で言う。「二人の秘密にしようじゃないか。僕も言わないから。」

「そうね、じゃあ秘密にしましょう!」王女がいたずらっぽく微笑む。


ジョーが王女に何を飲むかと尋ねると、王女はためらうことなくシャンパンを希望する。
ジョーは、懐が寂しかったが、ウエイターを呼びシャンパンを注文した。そして自分はアイスコーヒーを注文する。


「昼食はいつもシャンパンを飲むのかい?」 ジョーは皮肉まじりに言ってみる。

「いいえ、あの…特別な時だけ。最近では父の在職四十周年の時。」 王女は言葉を探すように言う。

「四十年の労をねぎらってあげるべきだね。お父さんのお仕事は?」

「ええと…世間一般にいう広報関係ね。」 王女は言葉をとぎらせながら答える。

「たいへんな仕事だね。」
「父も時々、小言を言ってるわ。」

「じゃあなぜ辞めないんだい?」
「途中では辞められないの。病気とかにならない限り。」


間もなく、シャンパンとアイスコーヒーが運ばれて来た。

「じゃあ、お父さんの健康を祝って!」ジョーがグラスを持ち上げる。

「みんなそう言うわ。」王女はそう言うと、ジョーとグラスを重ねた。


「ところであなたのお仕事は?」
「ああ、僕は…販売業さ。」 今度はジョーが言葉を選ぶ番になった。

「面白そうね。何を売っていらっしゃるの?」
「…飼料とか、そう化学飼料。そういったものだね。」



ちょうどその時、ジョーの親友のアビンが現れた。ジョーは彼と事前に連絡をとっていたのだった。

「どうしたんだ? 財布でも忘れたのか?」アビンはジョーを見つけると開口一番そう言って茶化した。


「こちらはアーニャ、これは親友のアビンだ。」

ジョーが二人を紹介すると、アビンは王女の向かいの席に座る。

アビンは、王女をまじまじと見て言う。「あれ? 君は今まで『クリソツ』だって言われたことが…いてっ!」
するとジョーがアビンの足を思いきり蹴った。

「どうやら俺は邪魔者のようだな。」アビンは腹を立て、立ちあがって席を離れようとする。
ジョーは急いでアビンを店の中に連れて行く。

アビンは憤慨していたが、ジョーが、これは金儲けのチャンスだと告げると、とたんに平静にもどった。

「いいか、彼女はまだ気づいていない。これは特ダネだ。極秘にしなけりゃならんのだ。」ジョーは声を潜めて言う。
「それにはお前のカメラが必要なんだ。お前の写真が、この特ダネの価値を倍増できるんだ。」

「じゃあ彼女は本当に?」アビンは半信半疑で言う。「王女がお忍びでそぞろ歩きか?」
二人の間に暗黙の了解ができると、ジョーはアビンに三万リラ借りた。この一日の軍資金にするつもりだった。



アビンが席に戻ると、王女が尋ねる。「あの、アビンさん、『クリソツ』って何ですか?」
すぐさまジョーが説明する。「それはアメリカの言い回しで、つまり、すごく魅力的だっていうことさ。」

「まあ、そんな…ありがとうございます。」
王女の礼儀正しさに圧倒され、アビンは苦笑いしながら答える。「どういたしまして。」

するとアビンは、王女にタバコを一本勧める。王女はにこやかに受け取って言う。
「信じていただけます? タバコを吸うのは、生まれてはじめてなの。」

アビンはポケットから、ライターの形をしたミニカメラを取り出し、王女のタバコ初体験の姿を、こっそりとカメラにおさめた。


ジョーはウエイターを呼んで勘定をすませ、それから彼らは、王女の願望を達成するべく、次の目的地へと向かった。
こうして、アビンが追跡して撮影を続ける中、ジョーと王女のおとぎ話のような「ローマの休日」が始まった。