煙突の見える場所 1953年(昭和28年) 邦画名作選
緒方隆吉(上原謙)は、日本橋の足袋問屋に勤めるしがないサラリーマンだ。
妻の弘子(田中絹代)は、競輪場で車券売りをしている。
弘子には、戦災で行方不明の前夫がいて、まだ正式に離婚になっていない。
隆吉は、二重結婚で罪になるのを怖れて、役所に届けに行くことが出来ない。
二人の生活は、食べるのが精一杯の貧乏暮らしのため、子供を持つことも出来ない。
ある日、身に憶えのない赤ん坊が家に捨てられていたことから、夫婦仲が悪くなる。
しかもその赤ん坊が熱を出してしまい、あわてて医者を呼びに行く。
「こんなに悪くなるまで赤ん坊を放っておくなんて、君たちには親の資格がない」
医者に説教されたおかげで、夫婦仲はまた元に戻るのだった。
1952年(昭和27年)文芸誌「文学界」に掲載された椎名麟三の小説「無邪気な人々」の映画化。
物語の舞台は東京の北千住、荒川の河向こうに巨大な四本の煙突がニョキッと突っ立っている。
この煙突は見る場所によって、一本にも、何本にも見えるので「お化け煙突」と呼ばれている。
この「お化け煙突」が、主人公夫婦の心理の変化を象徴するかのようで、なかなか面白い着想だ。
その赤ん坊は、看病の甲斐があって元気を取り戻すのだが、そこへ赤ん坊の本当の母親が現れる。
母親は赤ん坊を返してくれと言う。すると今度は二人とも、赤ん坊を手放すことに抵抗を感じるのである。
こうして捨て子を巡って繰り広げられる人間模様が描かれるのだが、これらの登場人物たちの喜怒哀楽を、
いつも眺めているのが、四本のお化け煙突であるというモチーフがよく利いた作品となっている。
製作 エイトプロ 配給 新東宝
監督 五所平之助 原作 椎名麟三
|
配役 |
|
緒方隆吉 |
|
上原謙 |
|
|
|
|
|
|
東仙子 |
|
高峰秀子 |
|
|
|
|
|
|
石橋勝子 |
|
花井蘭子 |
|
|
|
緒方弘子 |
|
田中絹代 |
|
|
|
|
|
|
池田雪子 |
|
関千恵子 |
|
|
|
|
|
|
野島加代 |
|
浦辺粂子 |
|
|
|
久保健三 |
|
芥川比呂志 |
|
|
|
|
|
|
塚原忠二郎 |
|
田中春男 |
|
|
|
|
|
|
河村徳治 |
|
坂本武 |
お化け煙突
お化け煙突は、かつて東京・北千住にあった東京電力の火力発電所の四本の煙突。
ひし形の配置で、見る場所により一本にも二本にも、さらに三本にも見えた。
1926年(大正15年)1月に建設され、煉瓦造りの煙突の高さは84メートルあった。
だが老朽化ため、1963年(昭和38年)に発電所が解散、煙突も解体されてしまった。
このお化け煙突は、映画「煙突の見える場所 1953」で全国的に知られるようになった。
その後も「東京物語 1953」「赤線地帯 1956」「女が階段を上る時 1960」などの映画や
漫画「こちら葛飾区亀有公園前派出所 1988」などにも取り上げられ、親しまれた。