反逆児 1961年(昭和36年) 邦画名作選
家康の長男・信康は、戦で名を上げ、信長の娘・徳姫を妻に迎えた。
だが、彼の母は、かつて信長に滅ぼされた今川義元の娘だった。
信康は、実の母と、妻・徳姫との不仲に心を休めることもできずにいた。
今川家再興を願う母は、信康を担ぎ、信長に代わって天下を取らそうと画策する。
だが、それを知った信長は、謀反の罪を着せ、信康に自刃を言い渡す。
大仏次郎の原作「築山殿始末」を、伊藤大輔が脚色・監督した波瀾慟哭の戦国時代絵巻。
死を自らの運命として受け入れ、切腹して果てた武将・徳川信康の生涯を描いた野心作。
舞台は、天正7年(1579年)信長の天下統一の頃。家康がまだ信長の家臣だった時代である。
弱小大名の家康は、お家存続と保身のため、信長の権勢にひたすら屈するばかりであった。
錦之助演じる主人公の信康は、武将としては、父・家康よりもはるかに優れていた。
彼は、長篠の戦いで、武田の大軍をさんざんに打ち破り、若くして武名を馳せる。
しかし、その信康の優れた武将ぶりが、信長の目を引き、それが悲劇を生む。
天下を狙う信長にとって、優秀すぎる男は、かえって目障りであったのだ。
英雄的な才覚を持ちながらも、理不尽すぎる運命に翻弄され、非業の死を遂げた若武者の、
その無念さ、その悲愴美が、圧倒的に観る者の心に迫って来るのである。
本作は、中村錦之助の熱演も相まって、伊藤大輔今だ健在を証明した本格時代劇の傑作となった。
また原作が歌舞伎の脚本であり、舞台的な演出効果を狙い、新劇女優の杉村春子と岩崎加根子が
抜擢されている。二人とも伊藤監督入魂の演出に見事な名演で応えている。
製作 東映
監督 伊藤大輔 原作 大仏次郎