小早川家の秋 (こはやがわけのあき) 1961年(昭和36年) 邦画名作選
万兵衛の長男の嫁・秋子(原節子)を再婚させようと、親戚連中は手を尽くすが、秋子はなかなか承諾しない。
一方、妻に先立たれた万兵衛(中村鴈治郎)は、昔なじみの妾とよりを戻し、人目を盗んでは通い詰めていた。
だが妻の法事の夜、急に倒れる万兵衛。一時は回復するが、数日後、妾の家でぽっくり逝ってしまう。
小津安二郎が、東宝で主演級の俳優を起用して撮った作品。
東宝側は、専属俳優を小津映画に出演させ、従来と異なるイメージを引き出すという狙いがあった。
だがこの頃、東宝は、森繁久彌主演の「社長シリーズ」が人気を博しており、小津にまかされた
メンバーは、小林桂樹、加東大介、新珠三千代、団令子といった、いわゆる「森繁組」だった。
抑制した演技を追求する小津は、アドリブを多用する森繁には、かなりの抵抗感があったらしい。
森繁の役回りは、未亡人原節子の見合い相手なのだが、小津は森繁に何度もダメ出ししたあげく、
劇中で原に「品行は直せても、品性までは直らない」というセリフをわざわざ言わせている。
小津のお気に入りは、新珠三千代だったようで、小早川家の当主万兵衛(中村鴈治郎)の浮気と
それをたしなめる娘(新珠)を軸として物語は進められている。
娘は昔のことを知っており、亡き母が苦しんだことも知っているので、反発する。
万兵衛と娘が、幾度か喧嘩するシーンがあるが、父親の浮気に対して嫌悪むき出しにする娘の、
愛着ゆえの怒りと反発の感情が見事に表現されている。
一方でこの親子の絆は強い。
万兵衛が倒れた時、放蕩三昧の父親であったが、かけがえのない存在であり、家族の大きな
心の支えであったことを悟り、娘は思わず泣きじゃくるのだった。
なお小津安二郎は、その作品を通じて、一貫して「家族の断絶」を描いてきた監督である。
前作「東京暮色」では、娘の死が作品の主題であったが、本作では、精神的支柱であった父親の
死によって、家族が離散し、崩壊してゆく未来が暗示されている。
製作 東宝
監督 小津安二郎