荒城の月 1937年(昭和12年) 邦画名作選 |
音楽学校の教師、多岐(佐野周二)は、数年ぶりに故郷を訪れた。
「荒城の月」の作曲のため、やって来たのである。
彼は、友人の三浦(佐分利信)と共に、城跡を訪ねて旧交を温めた。
三浦は、妹の静江(高杉早苗)のことを、それとなく多岐に持ちかける。
静江は常日頃、多岐を思い慕っているという。
だが、健康が優れない多岐は、自分にはその資格がないと真情を語った。
その帰り道、多岐は一人の少年・健吉と出会う。
多岐は、貧しいために学校へ行けないという彼に、銀貨を与えた。
だが翌日、健吉は、多岐の宿に金を返しにやって来る。
聞けば、姉のお光(高峰三枝子)に叱られたという。
多岐はしみじみ、お光の一家に同情するのだった。
若くして病に倒れた作曲家・滝廉太郎をモデルに、彼の淡い恋愛と不運な生涯を描いた作品。
高峰三枝子は、弟をいたわる貧しい農家の娘で、故郷の城址を訪ねた滝廉太郎(佐野周二)に、
ほのかな想いを寄せるという役どころ。
昨年、1936年8月にデビューしてまだ半年足らず、演技は確かに未成熟なところもあったが、
その初々しさが、かえって役柄にマッチしていた。
戦前の女性は「男性の三歩後ろを歩く」ことが「奥ゆかしい」女性の姿であるとされてきた。
そうした「昭和の女性像」を演じるに当たって、高峰が元来持っている、ある種の慎ましさ、
素直さも投影されていたものと思われる。
出世作「朱と緑」の清楚で可憐な乙女の役柄は「荒城の月」の役柄の延長の上にあったといえる。
製作 松竹
監督 佐々木啓祐
配役 | 多岐 | 佐野周二 | 三浦の母 | 飯田蝶子 | |||||||||
三浦 | 佐分利信 | 敬子 | 水戸光子 | ||||||||||
静江 | 高杉早苗 | 健吉 | 葉山正雄 | ||||||||||
お光 | 高峰三枝子 | 土肥 | 河村黎吉 |