関ヶ原の合戦で雑兵として加わった武蔵は、徳川方に捕われるが沢庵和尚に救われる。
武蔵の身柄を預かった沢庵は、まだ反抗心を失わない彼を千年杉の枝に吊し上げる。
その苦しむ様を見かねたお通は、彼を救い、二人は助け合って逃げる。
だが、お通は追手に捕えられ、武蔵は彼女を救うため、姫路城に忍びこもうとする。
武蔵の人物を惜しむ沢庵は、お通の無事を告げ、城の中で文を学び、道を開けと諭す。
城内で三年の修業をつんだ武蔵は見違えるような人物となる。
そして城下で武蔵を待つお通と、心を鬼にして別れ、武者修行の旅に立つのである。
1935年(昭和10年)朝日新聞連載の吉川英治の小説「宮本武蔵」は、多くの読者を魅了し、
翌年、単行本が刊行されると、たちまち大ベストセラーとなり、国民大衆文学と謳われた。
本作は、その同名小説を、稲垣浩が脚色・監督した「宮本武蔵」三部作の第一作である。
映画は、手の付けられない暴れん坊であったタケゾウ(三船敏郎)が、禅僧・沢庵の教導により、
ひとりの人間として知性に目覚めていく姿が描かれている。
豪放磊落なイメージの強い三船敏郎であるが、実は彼は、寡黙で不器用で、我慢強くひたすら
何かに耐えている男を演じさせると絶品の俳優である。
武蔵の持つ、剣により人格を高めるストイックな求道者の姿と相通じてまさに配役の妙である。
また、お通を演じた八千草薫も、武蔵を一途に慕う健気で可憐な大和撫子の風情がすばらしく
稲垣浩監督の慧眼が導き出した、まさに的を射た当代きってのお通役といえよう。
製作 東宝
監督 稲垣浩