新吾十番勝負 1959年(昭和34年) 邦画名作選
両親を知らずに育った美貌の剣士・葵新吾は、ひたすら剣の道に邁進していた。
ところがある日、自分が江戸幕府八代将軍・徳川吉宗の落胤であることを知る。
わが子の身を案じていた将軍吉宗の命により、早速、親子対面の運びとなった。
だが、親子対面を阻止せんと策謀する老中河内守の一味が、新吾に襲いかかる…。
大川橋蔵の代名詞とも言われる川口松太郎原作の「新吾」シリーズ第一作。
橋蔵扮する葵新吾は、剣の修行のために諸国を放浪している身であるが、
実は、将軍吉宗を父として生まれた若さまなのだ。
物心付く前にさらわれ、両親の顔を知らぬまま、秩父の山中で二人の剣士に
育てられた新吾は、やがて立派な青年剣士に成長する。
辛い修業の道にあけくれていようと、やはり身分高い家柄・血筋の人間である
という設定は、大川橋蔵の役者としての個性にとてもマッチしたものだ。
そこがなりふりかまわず魚屋を熱演する錦之助とは本質的に異なるところであり、
彼には、常に気品のあるプリンス的な優雅さがついて回っているのである。
また本作は、主人公を、父恋い母恋いの紅顔の美剣士にして、情話のテイストを
盛り込んだところに、作者の工夫がうかがえる。
痛快なチャンバラの一方で、さまざまな制約から父母と再会することのできない
葵新吾の懊悩が観客の涙を誘った。
無類の剣の強さと、その背後に人間の弱さ、未完成さをあわせもつ葵新吾の
波乱にみちた人生を映像化した本シリーズは、橋蔵の最大の当たり役となった。
製作 東映
監督 松田定次 原作 川口松太郎