肖像 1948年(昭和23年) 邦画名作選
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地上げ屋の金子(小沢栄太郎)はアトリエ付きの家を買って転売し、儲けようともくろむ。
だが、家には老画家の野村一家がまだ住んでおり、出ていかないという。
金子は野村一家を追い出すため、二階のひと間に妾のミドリ(井川邦子)と暮らし始める。
野村一家はミドリを金子の娘と勘違いし「お嬢さん」と呼び慕い始める。
ある日ミドリは、老画家の野村から、肖像画のモデルになってくれと頼まれる。
ミドリが「でも、どうして、私なんか」と尋ねると、野村は「なんて言いますかな…
不思議なかげがあるんですよ、あなたの顔には」と説明する。
黒澤明のオリジナル脚本を、木下恵介が監督し映画化。桂木洋子のデビュー作としても知られる。
田園調布のとある家が舞台。老画家一家を追い出すため、地上げ屋の金子とその妾ミドリが入居する。
だがミドリは金子の娘と思われ、お嬢さん扱い、しかも絵のモデルにされる。
絵はまさに内面を映し出す鏡だった。出来上がった「お嬢さん」の絵を見て、ミドリは改心する。
自分のこれまでの過ちに気づいたミドリは、金子と別れて自立の道を歩もうと決心する。
木下恵介の作品を支えたメンバーは「木下組」と呼ばれるが、井川邦子もその欠かせない一人である。
本作の冒頭で彼女の登場するシーンが、いかにも気が強くてプライドの高そうな感じが滲み出ている。
一方「カルメン故郷に帰る」では、作曲家である盲目の夫を支える健気で心優しい女性を演じていた。
清純派から汚れ役までこなせる芸域の広い役者として、日本映画の黎明期を支えた女優の一人である。
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製作 松竹
監督 木下恵介 原作 黒澤明
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