妻 1953年(昭和28年) 邦画名作選
結婚十年目の中川十一は、すでに倦怠期を迎えていた。
妻に幻滅している十一は、同じ会社に勤める未亡人の相良房子に惹かれる。
最初は喫茶店で会うだけだったが、ある夜ついに二人は関係を結んでしまう。
夫の持ち物から、それを察した妻の美穂子は、夫の身辺を執拗に調べ始める。
林芙美子の小説「茶色の眼」を、井手俊郎が脚色、成瀬巳喜男が監督したもの。
「めし」や「驟雨」と同様、倦怠期の夫婦が描かれているが、夫(上原謙)が、
会社のタイピスト(丹阿弥谷津子)と不倫関係にある状況が異なっている。
夫婦の危機は修復の兆しは見えず、高峰三枝子の演じる悪妻ぶりもすさまじい。
夫の目の前で、せんべいをポリポリ食べ、箸を楊枝代わりに使い、湯のみの
お茶で口をすすいだり、品のない仕草をする倦怠期の人妻を好演している。
この時期は、小津安二郎「お茶漬の味」(1952年)渋谷実「自由学校」(1951年)
など、妻に軽んじられる哀れな夫の姿を描いた作品が多く公開されている。
これらは、戦後の女性解放で、家庭内の女性の地位が向上し、夫婦関係でも
今までの亭主関白が許されなくなった時代が反映されているのだろう。
製作 東宝
監督 成瀬巳喜男