稲妻草紙 1951年(昭和26年) 邦画名作選 |
船木源三郎(三国連太郎)とお雪(田中絹代)とは幼馴染の恋仲であった。
しかしお雪は、父と弟を養わねばならぬため、結婚をためらっていた。
それを誤解した源三郎は、立派な侍になって見返してやると彼女を罵って町を去る。
だが仕官したものの、持って生まれた一本気から横暴な家老を殴りつけて脱藩した。
有馬又十郎(阪東妻三郎)は、家老から上意討ちの命を受け、源三郎のあとを追った。
その後、流れ流れて三年目、又十郎は源三郎の生まれ故郷の町へやって来る。
そして彼は、屋台の呑み屋をやっているお雪と知り合い、彼女に好意を感じた。
そのお雪は、源三郎がやはり町へ帰って来ている事を知る。
そして彼が、土地の顔役亀六の用心棒になっていることを聞き、驚くと同時に悲しむ。
狭い町のことで、又十郎はすぐに源三郎の所在を知った
しかし、源三郎がお雪の恋人であったと知っただけに、彼を討てないのであった。
やがて藩から更に六人組の追討ちが到着し、宮の石段で源三郎を待ち伏せていると知る。
そこで又十郎は、源三郎の身代わりとなり、六人を迎え撃とうとするのであった。
本作は「無法松の一生」など数多くの名作を生んだ稲垣・阪妻コンビの最後の作品。
映画のタイトルはこの二人の名前から一文字ずつとって付けられたものである。
血気盛んな脱藩武士を演じた三国連太郎がなんとも初々しい。当時まだ新人であった
三国は、稲垣浩の推薦によって、田中絹代の相手役に抜擢されている。
だが、その刀を用いての立ち回りを、阪妻に笑われたことを気にして、三国は当時の
剣戟スター・嵐寛寿郎の弟子となって殺陣の修業に励んだという。
後に名優と呼ばれた三国連太郎だが、その芸が磨かれていく裏側には、並々ならぬ
努力と精進があったのである。
本作のラストには、お宮の階段で、阪妻お決まりの大立ち回りの見せ場がある。
だがこの作品の見所は、田中絹代とその昔の恋人・三国連太郎、田中絹代に思慕を抱く阪妻、
そして阪妻に好意を持つのだが、相手にされない木暮実千代の四人の人間模様にある。
木暮実千代演じるおうたは、普段は威勢のいい鉄火肌の女だが、阪妻が絹代を好きだと分かると、
阪妻への慕情を隠し、ひたすら耐え忍ぶ、控え目で一途な女心を覗かせる。
互いに義理と人情、恋心と嫉妬の間で板挟みになる彼らの切ない胸の内が、情緒豊かに描かれ、
しっとりとした余韻の残る味わい深い作品に仕上がっている。
製作 松竹
監督 稲垣浩
配役 | 有馬又十郎 | 阪東妻三郎 | 四郎兵衛 | 進藤英太郎 | |||||||||
お雪 | 田中絹代 | 亀屋六蔵 | 上田吉二郎 | ||||||||||
おうた | 木暮実千代 | お雪の父 辰五郎 | 葛木香一 | ||||||||||
船来源三郎 | 三国連太郎 |