結婚生活も五年が過ぎ、倦怠期を迎え始めた夫婦。
そこに突然、夫の姪が家出をして転がり込んできた。
奔放な彼女の出現で、夫婦の間には思いもよらぬ波乱が生じはじめる…。
親の反対を押し切って恋愛結婚した夫婦の物語。林芙美子の未完の絶筆を映画化したもので
成瀬巳喜男の戦後の代表作となった。
夫の初之輔(上原謙)は、世間から見ると実直で真面目、穏やかで優しい百点満点の夫だ。
だが家庭の事は無頓着で、掃除、洗濯から食事まで全て妻の三千代(原節子)に任せている。
ひと昔前までは「妻が家を守るのが日本の美風」とされ、結婚して専業主婦になる生き方が、
女性の理想とされてきた。
しかしそういった専業主婦という存在が、実は家の奴隷であるという矛盾した姿を
成瀬巳喜男はクールに描いている。
そんな日常に、夫の姪で二十歳の里子(島崎雪子)が家出して来る。
里子は自由奔放でわがままだが、女としての甘えも使い分ける娘だ。
里子を見て三千代は、自分らしい生活をしたいと真剣に考えるようになる。
そして里子を東京に送るという口実で、東京の実家に戻った三千代は、そのまま戻らなくなる。
しばらくして、仕事で上京した初之輔が実家へ訪ねてくる。聞けば、彼の慎重な仕事ぶりの
ために会社が危機をまぬがれ、そのことで認められて昇進するという。
三千代は、夫を見直し、やはりこの夫がいいとしみじみ思って、新鮮な気持ちで人生を
やり直してみようと決心するのだった。
市井の日常生活が繊細で抑制されたタッチで淡々と、それでいて見事につづられており、
最後はきれいに丸く納まり、後味も良く、そこはかとない感動を観る者にもたらしてくれる。
妻は、夫のだらしない寝顔を見ながら、女の幸福とはしょせんこんなものかと納得する。
美男美女の主演二人が、平凡で退屈な男と所帯やつれした女を、見事に好演。
主演の原節子は、成瀬作品は初出演であったが、この年の女優賞を総ナメにして、成瀬演出に名演で応えている。
製作 東宝
監督 成瀬巳喜男 原作 林芙美子