浪華悲歌(なにわエレジー)  1936年(昭和11年)     邦画名作選

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電話交換手のアヤ子は、会社の金を横領した父のため、やむなく社長の妾になる。

金を工面して社長とは縁が切れるが、今度は兄が学費に困っていることを知る。

そこで社長の友人の株屋に身を任せるふりをして金だけ奪う。

警察に突き出されたアヤ子に対して、彼女の家族の対応は冷たかった…。


色目を使ったアヤ子に金を盗られた株屋の告発により、アヤ子は警察にしょっ引かれる。
刑事は株屋から金を巻き上げた行為が脅迫に当たるとして、彼女の罪を一方的に咎める。

ここでは、株屋の買春行為の善悪は一切不問にされるという不条理がまかり通っている。


ようやく釈放されて家に帰ったアヤ子は、父や兄に「不良娘」とののしられるのである。
家族のために身を売ったのに、家族から疎まれ、ここでも不条理さを目の当たりにする。



本作は、戦前の男尊女卑の社会の中で、男たちの犠牲になる女性像を描いた作品である。

しかし、溝口健二は、不幸な女を激しく社会に反抗させる。主人公アヤ子の境遇を通じて、
エゴむき出しの男性社会と、女性の犠牲を当然視する父権家族の不条理を告発するのである。


アヤ子は、社会だけでなく家庭においても「不良」の格印を押されてしまい、もうどこにも
自分の居場所がないと感じる。

そして、そのことを骨身にこたえて知ったとき、彼女はむしろ、その不良性を武器にして、
これからの人生を切り開いて行こうと決意する。

家を飛び出し、胸を張って大阪の夜の街を歩き出す彼女のクローズアップで物語は終了する。


本作は、女が男のために尽くそうとするが、その相手の男たちは、すべてエゴイストだった
という溝口映画の定型が確立した、記念すべき作品である。




 

  製作  第一映画  配給 松竹

  監督  溝口健二

  配役    村井アヤ子 山田五十鈴 兄・村井弘 浅香新八郎 西村進 原健作
      妹・幸子 大倉千代子 麻居惣之助 志賀廼家弁慶 株屋・藤野 進藤英太郎
      父・準造   竹川誠一        夫人・すみ子    梅村蓉子        刑事・峰岸    志村喬 

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