娘・妻・母 1960年(昭和35年) 邦画名作選
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東京山の手に住む坂西家は、還暦を迎える老母(三益愛子)をはじめとして、七人の大家族である。
長男(森雅之)は、町工場を経営する妻の叔父(加東大介)に融資し、その利息を生活の足しにしていた。
だが、ある時、叔父が姿をくらましてしまい、一家は騒然としてしまう…。
中産階級の大家族が崩壊してゆく様を、成瀬巳喜男がオールスターキャストで描いた力作。
老母の還暦の祝いで家族全員が集まる。子供たちからの贈り物に幸せそうな母の顔。
長男が「今度お母さんを温泉に連れて行こう」と提案し家族全員が賛成する。
幸福感が十分に伝わる家族だが、その後に起きる家族崩壊の悲劇。
長男の融資先の会社が倒産、会社の社長は逃亡して行方知れずとなる。
抵当にいれていた家を手放すことになり、兄弟の誰が老母を引き取るかで紛糾する。
存命の母を横目に、財産分与の話まで発展し、家族間のエゴが炙り出される。
長女(原節子)は、他の兄弟たちが拒否した為、自分が母親を引き受けようと決心する。
それは見合いしている相手が、母親の同居に賛成しているからであった。
しかし老母は長女との同居を拒否する。長女の判断が「自己犠牲」として映ったためだ。
子供たちの本音を知った老母は、黙って「老人ホーム」に入る決心をする。
それは子供たちに対するささやかな抵抗でもあったのだ。
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製作 東宝
監督 成瀬巳喜男
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