ギリシア神話事典       あ行 い行   う行  え行  お行  か行 さ行 た行 な行 は行 ま行 ら行



ヴァルキュリーValkyrie
ヴァルキュリーは、戦死者の館ヴァルハラ(Valhalla)にて主オーディン(Odin)に仕えている侍女たちの総称である。
彼女たちは空を駆ける駿馬にまたがって地上の戦場を駆け巡り、勇敢な戦死者の魂を見つけると、その魂をヴァルハラへと招いた。

彼女たちの姿を見ることができるのは、ヴァルハラへと招かれる資格のある、勇ましい魂の持ち主だけだった。
ヴァルキュリーたちの仕事は、戦死者の魂をヴァルハラへと導くだけではない。

ラグナロク(Ragnarok 終末の日)に備えて鍛錬を積む彼らの身の回りの世話も行ったのである。
鎧や兜をまとった戦いの乙女から、ヴァルハラの住人に酒やシチューを振る舞う美しい侍女へと姿を変えるのである。

ワーグナー(Richard Wagner)の楽劇「ニーベルンゲンの指輪(Der Ring des Nibelungen)」に登場するブリュンヒルド(Brunhild)は、
雄々しく戦うヴァルキュリーのイメージとは一転して、物語のヒロインとして可憐に助けを待つ存在として描かれている。

Myths&Legends(Philip Wilkinson)


ヴァナヘイムVanaheim
世界を構成する九つの国のひとつで、ヴァン神族(Vanir)の住む界域。ミドガルド(Midgard)のすぐ上にあるとされる。
Teutonic Myth&Legend (Donald A. Mackenzie)


ヴァフスルードニルVafthrudnir
物知りの巨人で、自分より知恵が勝り、記憶力の強い者には首をやると豪語していたが、訪れたオーディン(Odin)の質問に答えられず、首をはねられる。
Teutonic Myth&Legend (Donald A. Mackenzie)


ヴァーユVayu/風天
インドのヴェーダ(Veda)神話に伝わる風の神。
風神としてのヴァーユは、天地に光明と光輝を与え、生きとし生けるものを守護し、邪悪なものを破るといわれる。

「リグ・ヴェーダ」(Rigveda)のある讃歌は、ヴァーユを原初の人間プルシャ(Purusha)の息、あるいはプルシャの息によって作られたものと表現している。
ある神話によれば、この神は神々の家であるメル山(Meru)から追放された際に力の一部を失った。
ヴァーユは報復として山に攻撃を仕掛け、鳥の王ガルダ(Garuda)の妨害にもかかわらず、山の頂上を引きちぎり、それを海に投げたところ、スリランカ島になった。

のちの神話では、ヴァーユはヴィシュヌ神(Vishnu)とその配偶者である女神ラクシュミー(Lakshmi)の召使とされている。
彼はときには荒々しく、ときには穏やかな、変わりやすい性格をしている。

ヴァーユは普通優美なアンテロープ(Antelope 羚羊)に乗った姿で描かれる。
しかしライオンに乗った姿で描かれることもある。
異なる動物に乗っているのは、おそらく彼の変わりやすい性格を示しているといわれる。
Myths&Legends(Philip Wilkinson)


ヴァルハラValhalla
主神オーディン(Odin)がアスガルド(Asgard)に建てた壮大な戦死者の館。
戦いの乙女、ヴァルキュリー(Valkyrie)たちによって戦死者として選ばれた戦士はここへ護送され、酒宴の席につくが、夜が明けると生き返り、
再び戦場に出て戦いを続け、来たるべき最終戦争「ラグナロク(Ragnarok)」を待つという。
Teutonic Myth&Legend (Donald A. Mackenzie)


ヴァルナVaruna/水天
インドのヴェーダ(Veda)神話に伝わる天空、司法そして水の神。
空の神ヴァルナは天の立法者である。
彼はいけにえを管理する規則の監督者であるとともに、季節を決定する秩序と、種まきや収穫のサイクルの監督者でもある。

初期の神話には彼を創造神とするものもある。
彼は天界、中空、地上を意志の力だけで作ったという。
別の物語によると、ヴァルナは天の大海の支配者だったが、悪魔との戦いのあとで神々が力を再配分し、彼は西の空と地上の海を治めることになった。
彼の支配は潮流にまで及んだため、彼は船乗りや漁師の庇護者と言われる。

ヴァルナは、水中に住む竜王の形で表わされ、五竜冠を戴き、左手に竜索、右手には剣を持つ。
そして一部が鰐で一部が魚の神獣マカラ(Makara)に乗っている。
彼がマカラに乗るのは、水と豊穣を象徴しているからだという。
Myths&Legends(Philip Wilkinson)


ヴァン神族Vanir
北欧神話に登場するアース神族(Aesir)と相対する神族。
ヴァナヘイム(Vanaheim)に住む。
豊穣と平和の象徴であり、フレイ(Frey)、フレイヤ(Freyja)、ニヨルド(Njord)らが所属し、賢神が多いとされる。
一時、アース神族と敵対関係に陥るが、やがて和解する。
Teutonic Myth&Legend (Donald A. Mackenzie)


ヴィヴィアンViviane/湖の乙女(Lady of the Lake)
湖の底の異界の城で暮らす水の妖精。
魔術師マーリン(Merlin)に出会い、マーリンに恋をする。

マーリンは、ヴィヴィアンに魔術と様々な能力を教える。
後に彼女はマーリンを魔法で「迷いの森(Forest of Broceliande)」に監禁してしまう。
これがアーサー王(King Arthur)の国力を大きく削ぐこととなる。

魔法使いとなった彼女は、少年ランスロット(Lancelot)を誘拐し、湖の中にある異界でランスロットを育てる。
ランスロットの異名、「湖の騎士(Lancelot of the Lake)」はこれに由来している。

ヴィヴィアンは、アーサー王の守護妖精でもあった。
彼女は、湖でアーサーに聖剣エクスカリバー(Excalibur)を授け、カムランの戦い(Battle of Camlann)の後、
アーサーの代理人であるベディヴィア(Bedivere)からエクスカリバーを回収した。
また彼女は、致命傷を負ったアーサーを迎え入れ、アヴァロン(Avalon 至福の島)へいざなった「9人の貴婦人(Nine Ladies)」の一人でもあった。


ヴィクトリア(Victoria) → ニケ


ヴィシュヌVishnu
ヒンドゥー教のヴィシュヌ神が、この世に化身した人物として、広く人々に知られているのが、英雄クリシュナ (krishna) である。

クリシュナは、生まれる前から邪悪な伯父ハンサ王 (Hansa) を殺すと予言されていた。
そこでハンサはクリシュナを殺すよう命じたが、クリシュナの父は赤ん坊を守った。
やがて成長したクリシュナは、予言通り、ハンサ王を倒し、悪政に苦しむ人々を救うのである。

ヴィシュヌの特色は、彼が様々な姿に化身し、世界を救ってきたことにある。
世界の秩序が邪悪なものに崩されつつあると、ヴィシュヌはその秩序を維持するために、姿を変えて現れるのである。
ある時は魚の姿で人間の始祖を洪水から救い、あるときは仏教の始祖ブッダ(Buddha)に化身し、神々や聖典から悪魔の注意をそらし、彼らを倒している。

シヴァ神(Shiva)が畏怖されたのに対し、ヴィシュヌは慈悲深く人々に寄り添う神として崇拝された。
信者たちにとって、ヴィシュヌは庇護と恩寵を与えてくれる存在であった。
Myths&Legends(Philip Wilkinson)


ウェスタVesta
ローマの炉とかまどの女神。ウェスタの神殿(Tempio di Vesta)では4人の巫女が「聖なる火」を守っていた。
巫女は貴族階級の少女より選ばれ、巫女たる間は処女が義務付けられ、この規律を犯したものには生き埋めによる死罪が課せられた。→ ヘスティア


ウェルギリウスVergilius Maro Publius [前70-前19]
ローマの叙事詩人。
自然と信仰をうたい、ローマの世界支配の偉大さを明らかにした。
クレモナ(Cremona)、ミラノで基礎教育を受けたのち、ローマに出て哲学、医学、修辞学を修めた。
若い頃カツルス(Catullus)らの青年詩人派と接触、やがて独自の詩作に進んだ。
文芸保護者マエケナス(Maecenas)の知遇を得て、アウグストゥス帝(Augustus)に紹介され、友人ホラチウス(Horatius)らとともにラテン文学の黄金時代を築いた。
『詩選』 Eclogae (十編、前 42~37)、『農耕詩』 Georgica (四巻、前 30) を発表、残りの生涯を英雄叙事詩『アエネイス』 Aeneis (12巻) にかけ、
その完成のためにギリシアへの旅に出たが、途中熱病にかかって引き返しイタリア上陸後まもなく死亡、作品は未完に終った。
その精妙、華麗な措辞、荘重なリズムはラテン六脚詩の頂点をきわめたものであるが、人柄は寡黙控え目で、あたかも詩文の心得なきがごとくに訥々と語ったと伝えられる。
(The Encyclopedia Britannica)


魚(うお)座の伝説
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ある日、ナイル河のほとりで、神々が酒宴を催していた。
神々の中に、アフロディテとエロスの母子の神もいた。

そこに怪物テュフォン(Typhon)があらわれた。
テュフォンは、百の竜の首を持ち、腰から下は毒蛇の姿で、立てば頭が天に触れ、両手を広げれば世界の両端に届くほどの巨漢だった。

テュフォンの姿を見た神々は、思い思いの姿に変身し、一斉に逃げ出した。
アフロディテとエロスもニ尾の魚に姿を変え、ナイル河に飛び込んで逃げようとした。

二人はお互いに離ればなれにならないように、リボンで双方の尾を結わえ付けたのだ。
ニ尾の魚に変身したアフロディテとエロスの仲睦まじい姿は、天に上げられ「うお座」となった。

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ヴォータン(Wotan) → オーディン


ウサギと亀(南アフリカ民話)
あるとき、ジャングルで恐ろしい干ばつがあった。
川も泉も干上がってしまい、動物たちは飲み水を探して歩き回ったが、まるっきり無駄で、どこにも水は見つからなかった。

とうとう、亀が乾いた川床を踏みつけて水を湧き出させることに成功した。
動物たちは、怠けものでずるい野兎に水を盗まれることを恐れ、毎晩交代で水場の番をすることにした。

まずハイエナ、それからライオンが見張りに立った。
だが野兎はどちらもだまし、水の入ったヒョウタンをいくつか持ち去っってしまった。

今度は亀が見張りに立とうと申し出た。
彼は甲羅をべとべとした鳥もちで覆い、水溜りの底に隠れた。

やってきた野兎は見張り番がいないと思い込み、腹いっぱい水を飲むと、水浴びしようと飛び込んだ。
野兎の足が亀の甲羅に触れると、彼はたちまち鳥もちで身動きできなくなってしまった。

様子を見にきた他の動物たちは、罰として彼を縛り上げてしまった。
Myths&Legends(Philip Wilkinson)


ウトガルダ・ロキUtgarda Loki
巨人族の国の城、ウトガルダに住む巨人王。
トール(Thor)がロキ(Roki)などを連れて、この城に乗り込むと、数々の力技を強要されるが、王の仕掛けた魔法によってトールたちはことごとく敗退する。
Teutonic Myth&Legend (Donald A. Mackenzie)


ウラニアUrania
ムーサの一人で、天文学を司る。


ウラノスUranos
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ガイアの息子であり、夫でもある天空の神。
すべての母であるガイアを妻とすることで宇宙の最初の支配権を得た。

ヘシオドスによれば、ガイアとの間に
①オケアノス(Okeanos)、②コイオス(Koios)、③クレイオス(Kreios)、④ヒュペリオン(Hyperion)、⑤イアペトス(Iapetos)、⑥クロノスの6柱の男神と、
⑦テイア(Theia)、 ⑧テミス(Themis)、⑨ムネモシュネ(Mnemosyne)、⑩フォイベ(Phoibe)、⑪テテュス(Tethys)、⑫レア(Rhea)の6柱の女神、
また ⑬キュクロプス、 ⑭ヘカトンケイル(Hekatoncheir)を儲けた。

が、これらの子供たちのうち、一つ目の巨人キュプロクスと百の腕をもつ巨人ヘカトンケイルはあまりに異形だったため、ウラノスは忌み嫌い、彼らを奈落タルタロスに幽閉した。

しかし、ガイアはタルタロスに投げ込まれた我が子の行く末を案じ、ティタンたちに父ウラノスを襲うよう説き、末子クロノスに金剛の大鎌(アダマス)を与えた。

そして、父ウラノスが母ガイアのもとを訪れた際、クロノスは不意をつきウラノスの男根を切り落とした。

去勢は力と権威の失墜を意味する。
息子によって去勢されたウラノスは引退を余儀なくされ、代わってクロノスが天地の支配権を握った。

ウラノスは死ぬ間際クロノスに、自分と同じようにクロノスもその息子に倒され支配権を奪われると予言した。
(ヘシオドス 45,106,127,156,617)

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ウルズの泉Well of Urthr
神界アスガルド(Asgard)にある聖なる泉。
名前は運命の女神、ノルンたち(Norns)の一柱で、三姉妹の長女ウルズ(Urthr)に由来し、泉水は強力な浄化作用を持っている。
ノルンたちは、ユグドラシルが枯れないようこの泉の水と泥を混ぜたものを常に注いでおり、お陰で樹勢が保たれている。

この泉は神聖視され、そこにアースの神々(Aesir)の法廷があった。
毎朝彼らはビフロスト(Bifrost 虹の橋)を渡ってそこに行った。
この他ユグドラシルの伸ばす根のうち、霜の巨人の国ヨトゥンヘイム(Jotunheim )へ伸びる根の下にはミーミルの泉(Mimir's well)がある。
Alchemical Studies (C. G. Jung)


ウンディーネUndine /オンディーヌ(Ondine)
森の中の泉、川、滝などに棲む水の精。
性別は明確に定められていないが、通常は美しい女性の姿で描かれる。

16世紀の錬金術師パラケルスス (Paracelsus) が、著書「妖精の書」(Liber de Nymphis, Sylphis, Pygmaeis et Salamandris et de caeteris Spiritibus) で定義した
四大元素霊 (地、水、火、風) のうち、水に属するとされた自然霊 (Nature spirits) である。

悲恋物語のテーマとして取り上げられ、ドイツの童話作家、F.H.K.フケー (Fouque)、フランスの作家、J.ジロドゥ (Giraudoux) によりそれぞれ戯曲化された。
騎士に愛されて魂を得た水の妖精ウンディーネが、愛を裏切られて騎士を殺すが、その墓を取巻く美しい流れとなり、永遠に彼をいだき続けるという物語である。
「ウンディーネ Undine (1811年)」「オンディーヌ Ondine (1939年)」
(The Encyclopedia Mythica)(The Encyclopedia Britannica)


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