タイムカプセル 戦後編 (4) 昭和23年 (1948年)   タイム・カプセル     老いらくの恋

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この年、美空和枝(11)デビュー。横浜国際劇場に前座歌手として「リンゴの歌」を唄い天才歌手として称賛される。(5.1)
10月、伴淳三郎のラジオ番組に出演、このとき初めて芸名を「美空ひばり」とした。

(映画)第21回アカデミー賞「ハムレット」(主演 ローレンス・オリビエ
「ターザンの黄金」(ジョニー・ワイズミューラー)「美女と野獣」(フランス映画)

松竹「わが生涯のかがやける日」(山口淑子森雅之)松竹「懐かしのブルース」(高峰三枝子)松竹「誘惑」(原節子佐分利信、山内明、杉村春子)松竹「肖像」(井川邦子、小沢栄太郎、三宅邦子、東山千栄子、佐田啓二桂木洋子)松竹「風の中の牝鶏」(田中絹代佐野周二笠智衆

松竹「夜の女たち」(田中絹代高杉早苗) 東宝「醉いどれ天使」(三船敏郎志村喬木暮実千代久我美子進藤英太郎)東宝「小判鮫」(長谷川一夫山田五十鈴長谷川裕見子)大映「王将」(阪東妻三郎水戸光子)新東宝「生きている画像」(大河内伝次郎笠智衆、花井蘭子、藤田進

(音楽)
異国の丘」竹山逸郎・中村耕造「湯の町エレジー」近江俊郎 「懐しのブルース」高峰三枝子「憧れのハワイ航路」岡晴夫「みかんの花咲く丘」川田孝子

(ラジオ)NHK「産業の夕べ」NHK「素人のど自慢全国コンクール」(高橋圭三)



                  



(スポーツ)横浜で初のプロ野球ナイター「巨人・中日戦」開催(8.17)
(流行語)「人間失格」「老いらくの恋」「鉄のカーテン」「ノルマ」 「ロマンスシート」 「黒か白か」(帝銀被疑者)

(社会)帝銀事件(1.26)。青酸カリを行員に飲ませ12人を死亡させ、10数万円強奪。被疑者「平沢貞通」は死刑確定するも物証は無く、39年後の昭和60年に拘置所で死亡。朝日新聞に連載予定の「グッドバイ」を執筆中の太宰治が愛人の山崎富栄と玉川上水で入水自殺(6.13)太宰の誕生日に遺体発見(6.19)

昭和電工疑獄(6.23)収賄で来栖国務相ら逮捕。芦田内閣崩壊。大韓民国成立(8.15)朝鮮民主主義人民共和国成立(9.9)警視庁に犯罪専用電話「110番」が誕生(10.1)極東国際軍事裁判(東京裁判)で判決。被告の25人全員が有罪。うち、東條英機、広田弘毅など7人が絞首刑の判決(11.12)

(物故)ガンジー、菊池寛、川島芳子、ベーブ・ルース、東條英機
(物価)都営鉄筋アパート2DK。家賃550円。応募220倍。

(その他)美空ひばりデビュー(5.1)桂木洋子、松竹「肖像」でデビュー(8.3)鶴田浩二長谷川裕見子、松竹「遊侠の群れ」でデビュー(12.21)

福井地震(死者3895人)(6.28)憩(タバコ)発売(7.2)アロハシャツ、リーゼント流行。日本脳炎流行(死者2620人)サントニン(虫下し薬)鯨ベーコン。「きいち」塗り絵。「四畳半襖の下張」(永井荷風)セロテープ(日絆薬品工業)



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   異国の丘        


         



異国の丘


1943年(昭和18年)に陸軍上等兵として満州にいた吉田正が、軍の士気を高めるために作った曲。

しかし、戦後になると満州にいた関東軍はソ連軍により壊滅、多数の日本人が捕虜としてリベリアに連れて行かれた。

この曲は、シベリアで捕虜となった人々に歌い継がれ、その一人だった増田幸治が作詞している。


時は流れて、シベリアから無事帰還できた人がNHKのど自慢にてこの曲を歌い、それから次第に知られるようになっていった。

それまでは作詞、作曲は誰だったか不明だったが、結局増田幸治と吉田正であることがわかり、議論に終止符が打たれた。



竹山逸郎、中村耕造の歌唱で、1948年(昭和23年)、ビクターレコードから発売。

さらに1949年(昭和24年)上原謙主演で、映画として公開された。












     



湯の町エレジー


1948年(昭和23年)9月に発表された近江俊郎の曲。(作詞:野村俊夫、作曲:古賀政男)


「伊豆の山々月淡く 灯りにむせぶ湯の煙」で始まるこの曲は、人妻となっている

初恋の女性を訪ねて、旅する男の心情を歌ったもの。


トレモロを効かせたギターのイントロ、短音階の旋律は「古賀メロディ」の代表作。


戦後、世の中は明るい歌を求めていて、こうした哀愁漂う曲は流行らないと思われた。

だが、予想に反して、その歌詞の「やりきれなさ」がたまらず、大ヒットとなった。


翌年1949年、近江主演「湯の町悲歌」のタイトルで、新東宝により映画化された。














醉いどれ天使 (東宝映画)


戦後の闇市の片隅で開業している町医者の真田(志村喬)は、
口は悪いが心根は優しく腕も一流。


そんな真田のもとへ、ヤクザの松永(三船敏郎)が、
怪我の治療のために現れる。


真田は松永が肺を病んでいることを知り何かと世話を焼く。

しかし若く血気盛んな松永は素直になれず虚勢を張るばかり…。






戦後の闇市を舞台に、無骨な町医者と肺病病みの若いヤクザの交流を描いた人間ドラマ。

ヤクザな松永に一歩も引かない醉いどれ医師の真田。お互いの人間らしさが全編通して描かれる。


主人公は、志村喬の演じる酔っ払いだが、根は優しい中年の医者である。この中年男は、正しい生き方を
見失っている人々に、乱暴なやり方で正しい道を指し示す。だから彼は「酔いどれ天使」なのである。


三船敏郎の演じる若者は、闇市を支配するヤクザの幹部だ。医者はこの無軌道な若者を教え導いて、
立ち直らせるのが、もともとの筋書きだった。だが狂暴に暴れまくる彼の姿が、観客の大喝采を受けた。

結局、若者はヤクザから抜け出すことが出来ず、仲間と争って死んでしまうのだが、少なくともそれは、
やりたいことを存分にやった結果の破滅であり、一種の悲壮美を帯びたヒーロー像を演出することになった。


本作は、三船敏郎の黒澤映画初出演作であると共に、志村喬の黒澤映画初主演作となった。

また結核に侵されながらも明るく生きる少女を久我美子が好演、この作品が彼女の出世作となった。













王将  (大映映画)


大阪の草履職人・坂田三吉(阪東妻三郎)は、三度の飯より将棋が大好き。

将棋大会の会費が必要と、家財道具を持ち出し売り飛ばしてしまう始末だ。

妻の小春(水戸光子)は、娘の玉江と一緒に無理心中しようと思い詰める。

だが、あとに子供のような三吉一人が残ると思うと、それもできなかった。

やがて東京の関根名人(滝沢修)が大阪を訪れ、三吉と勝負を行うことになる。

熱戦の末、三吉はハッタリの一手「二五銀」で勝利するのだが…。




無学文盲だが、駒を握れば誰にも負けなかった鬼才・坂田三吉の数奇に富んだ生涯を描く。


北条秀司の戯曲「王将」は、1947年(昭和22年)新国劇によって初演された。

その時の配役は、三吉が辰巳柳太郎、三吉の妻・小春が小夜福子という顔ぶれだった。

この舞台を観た伊藤大輔は、強く惹かれるものがあり、映画化を思い立った。

同じ頃、阪東妻三郎も、この戯曲を是非やってみたいと思ったという。


本作「王将」は、無学文盲の草履作りであった三吉が、将棋一筋に精進する事によって、

一芸に秀で、人格までも磨かれた人物に変貌するさまを謳い上げた傑作である。


前作「無法松の一生」と並ぶ、名作の風格を持つ作品となった本作だが、妻三郎は、

一作ごとに芸域を深め、確実に魅力を加えつつある。


 
 








      美女と野獣(La Belle et la Bete)1946年(仏)

三人の娘をもつ商人は、旅の途中、道に迷い古城にたどりつく。庭園のバラを娘の土産にと摘んだ彼は、
城の主である野獣に殺されそうになる。しかし、商人の末娘ベルが父の身代わりとなることで決着。
野獣とベルは、古城で暮らすことになるが…。

ベルに恋する青年アブナンが、野獣を殺し、城の財宝を奪おうとするが、失敗して死に、その瞬間、
ベルに介抱されている野獣が王子の姿になり、アブナンは野獣の姿になるという結末である。

その後、ディズニーが1991年、アニメ化、さらに2017年、それを実写化しているが、野獣とベルの
ダンスシーンが登場するなど、それぞれ多くの脚色が加えられている。
だが「肝心なのは内面」と語りかけてくる主要なテーマは、いずれの作品も共通している。

(監督)ジャン・コクトー(Jean Cocteau)
(出演)ジャン・マレー(Jean Marais)ジョゼット・デイ(Josette Day)